山形の｢酒田ラーメン｣が日本一になった熱い背景
「日本ご当地ラーメン総選挙」で山形県の「酒田ラーメン」が日本一に選ばれた。「酒田ラーメン」の魅力と、日本一までの熱い背景を紹介します（筆者撮影）
2023年10月5日から10月9日まで新宿・大久保公園で行われた「日本ご当地ラーメン総選挙」で山形県の「酒田ラーメン」が日本一に選ばれた。
（提供写真）
2大ラーメンイベントのコラボイベントで日本一
このイベントは2大ラーメンイベントといわれる「東京ラーメンショー」と「大つけ麺博」のコラボイベントで、日本ご当地ラーメン総選挙実行委員会（一般社団法人 日本ラーメン協会・株式会社ブルースモービルほか）が主催する一大イベントである。
全国にあまたあるご当地ラーメンの中で頂点を決めようという大胆な企画で、エントリーした44のご当地ラーメンのうち、全国のブロック予選を通過した10のご当地ラーメンが決勝に駒を進めた。
会場での投票に加え、SNSでの拡散数など独自の基準でナンバーワンが選ばれた。
（提供写真）
正直、主催者側もわれわれラーメン業界に関わる者もどこが日本一になるか結果が出るまでまったく読めなかった。
札幌・博多・喜多方という3大ご当地ラーメンを抑えて山形の「酒田ラーメン」が日本一になったのは意外だと思われるかもしれない。
しかし、実際に酒田のラーメン店を取材してみると、「酒田ラーメン」が日本一になれたその理由が見えてきた。
日本一になった山形県酒田市の「酒田ラーメン」
酒田市は山形県の北西の日本海側に位置し、県内人口第3位の都市である。
「酒田ラーメン」は大正15年に中国出身の店主が支那そば屋を開いたのがルーツ。昭和初期からラーメン店が増え、酒田市麺類食堂組合には一時は30店舗ものお店が加盟していた（現在は16店舗）。
その中のラーメン店の有志で結成されたのが「酒田のラーメンを考える会」だ。
「山形県はラーメン県として有名ですが、県全体だとそば屋のほうが圧倒的に多いです。その中で酒田市はそば屋よりラーメン屋が多いという珍しい街でした。そこで1990年からこの酒田のラーメンを全国に広めようと活動をスタートしました」（「満月」店主・齋藤直さん）
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ご当地ラーメンをうたうにあたって必ず議論になるのがその「定義」である。
元来言われてきた「酒田ラーメン」の定義は煮干し、昆布を使った魚介系の醤油スープに自家製麺を合わせたものだったが、これに準ずるお店以外を排除してしまうと広がらず、閉鎖的になってしまう。
そこで、従来の定義に固執せず、酒田のラーメン全体にフィールドを広げることにした。
「定義にこだわらず、魚介系のあっさりスープを使った醤油ラーメンのお店と積極的にコミュニケーションを取って、コミュニティーを拡大していきました。全国に広める前にまずはエリアに仲間を作ることが必要だったんです」（齋藤さん）
全国に広めるための「酒田ラーメン」の課題
10年ほど前から、いよいよ酒田のラーメンを全国に広めようと、ラーメンイベントへの出店を検討し始める。それにあたり、ラーメンの見た目のインパクトの課題が出てきた。
「もちろん美味しいことは大前提ですが、見た目が普通の醤油ラーメンだとイベントでは戦えません。そこで、酒田のラーメンは『ワンタンメン』をウリにしていこうという動きがスタートしました」（齋藤さん）
（筆者撮影）
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齋藤さんが営む「満月」は、昭和35年の創業以来60年以上ワンタンメンを提供し続けている。
（筆者撮影）
独立したとき、ワンタンメンを目玉商品に
先代・齋藤省吾さんが「港月」（こうげつ）で修行しているとき、自分が独立したときにワンタンメンを目玉商品にしたかったため、老舗「来々軒」の店主よりワンタンの皮の作り方を教わったという。
現在の「満月」本店（提供写真）
創業当時の「満月」（提供写真）
省吾さんが独立後、「『雲吞』という文字どおり、雲を呑むような極薄のワンタンの皮を作りたい」と研磨し続けて半世紀、2代目となった今もなお、その精神を受け継いでいる。
（筆者撮影）
（筆者撮影）
「ワンタンメンの街」となっていく酒田市
当時、同じ酒田の名店「三日月軒」の店主も「来々軒」で働いていたこともあり、酒田のラーメンを全国区にするにあたり「三日月軒」でもワンタンメンを提供することに決まった。
その後、「酒田のラーメンを考える会」の13店舗はすべてワンタンメンを提供することになった。こうして酒田市は「ワンタンメンの街」となっていった。
酒田のワンタンは皮がふわとろで極薄なのが特徴。とにかく食感を大事にしていて昔は手作業で作っていたという。全国ほかのエリアではなかなかない食感のワンタンで、一度食べたら忘れられない美味しさだ。
その後、約10年間全国数々のラーメンイベントやデパートの催事に出店し、酒田のラーメンを少しずつ全国に広めていく。
そして、今回の「日本ご当地ラーメン総選挙」の開催が決定した後、「酒田のラーメンを考える会」はこれを市を挙げてのイベントとして盛り上げていこうと動き始めた。
「このイベントにエントリーするにあたって、まず酒田市にお願いして街を挙げて応援してもらうことを了解していただきました。酒田市麺類食堂組合に県議会議員の方が参加してくださり、全面的にバックアップしてくれて、スムーズに行政が動いてくれたんです」（齋藤さん）
イベントには市長や市のキャラクターが駆けつけた
イベントには酒田舞娘や市の公認キャラクター「あののん」、さらには9月に就任したばかりの新市長・矢口明子さんも訪れ、酒田のラーメンを全力でアピールした。
（提供写真）
（提供写真）
こうして市の全面的なバックアップもあり、地域のラーメン店が団結して日本一を手にしたのである。
「主催の皆さんは、遠慮しないで堂々と“日本一”とうたってほしいと言ってくれています。ラーメンで街おこしができることを示してほしいと期待を寄せてくれています。来年は同県の中でほかのラーメンもエントリーしてもらい、さらにイベントを盛り上げていきたいと思っています」（齋藤さん）
ラーメンで酒田市を元気にすることは大きなテーマ
酒田市は今後も「酒田ラーメン」を全国に広める活動を継続していく。
昨年の出生数が458人、2年後には60歳以上が3分の1を占めるといわれている酒田市において、ラーメンで街を元気にすることは大きなテーマになってくる。
「酒田のラーメンは確固たる定義を作れなかった歴史です。とにかくコミュニティーを広める活動を続けて今があります。新幹線も通っておらず行きづらい場所で、なかなか全国に発信するまでに時間がかかってしまいましたが、酒田をラーメンを食べに来てもらえる街にしたいと考えています。“日本一”はいい響き。これから新たな道を作っていきたいと思います」（齋藤さん）
1990年に「酒田のラーメンを考える会」を立ち上げてから33年。全国のラーメンイベントに出店し始めてから10年。
ついに手に入れた日本一だ。
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（井手隊長 ： ラーメンライター／ミュージシャン）
