レーシングドライバーもミニバンを所有する人は多い

 一般的に、クルマ好き、走り好きユーザーは、ミニバンに否定的ではないか。家族構成から、どうしても(奥さんの強いリクエストで)所有しなければならない場合でも、自身用の別のクルマに乗っていたりする。

 とはいえ、レーシングドライバーや走り屋と言われるモータージャーナリストでも、じつはミニバンを所有していることをボクは知っている。タイヤを積みやすいとか、車内で着替えしやすいなど、主に走りとは別の観点で選んでいたりもするのだが、果たして、売れに売れているミニバンを、はなから否定するのは正しいのだろうか。

 そもそも、クルマ好き、走り好きユーザーがミニバンに否定的になる最大の理由は、重心の高さによるものと思われる。低重心でスポーティなクルマに乗り慣れていると、カーブなどでグラグラ、大きくロールし、ステアリングを切った時のリニアな反応が得られないのは許せない……ということなのだろう。また、スポーティカーファンにとって、車重の軽さは大きな武器、魅力になるのだが、ミニバンは総じて重い。車高の高さ、ガラス面積の大きさ、そして両側スライドドア部分の補強、シートの豪華さ、数の多さによる重量増によるもので、走りが鈍重になりがちだ。

 しかし、クルマ好きが否定したくなる走行性能に関しては、ずいぶん前の一部のミニバンの話と言っていい。たとえば、ボクが所有していた2002年型の2代目ホンダ・オデッセイのV6アブソルートは、ミニバンらしい全高、パッケージでありながら、専用サスペンションにフィッティングされた17インチタイヤを履きこなし、気持ち良く加速し、山道でもかなりスポーティに走れたものだ。

 最新のミニバンでは、ライバルメーカーのミニバン開発者が「ミニバンの皮をかぶったスポーティカー」と表現したのが5代目ホンダ・オデッセイ アブソルートだ。ミニバン=多人数乗車可能なファミリーカーという概念を覆すほど、ソリッドでスポーティな乗り心地と高回転が気持ちいいエンジンフィールを持ち合わせている。知り合いが初期型を買ったのだが、家族から「ミニバンなのに、スポーティすぎる!」とクレームが入ったぐらいである(最新型は乗り心地もよくなっている)。

大人気のアルヴェルにも走りのいいグレードが存在

 また、トヨタ・アルファード&ヴェルファイアの3.5リッターV6モデルは、大排気量V6エンジンらしい豪放な加速力と、それに負けない安定感たっぷりのフットワークテイストを備え、ゆえにかつての走り屋、今はファミリーマンのユーザーやVIPにも、高額ながら受けに受け、売れているわけだ。

 現行アルファード&ヴェルファイアの3.5リッターモデルは、ダンパーに新バルブを採用。微低速域から減衰力を上げ、ゴツゴツせず、ボディの無駄な動き、バネ上のグラグラ感を押さえ、振動低減、操舵応答性向上を果たし、ステアリングを切ったぶんだけすっきりリニアに曲がる、ロール方向に逃げない乗り味を追求している。

 フットワークは、もはやミニバンの域を超えたレベルにある。とくにエアロ仕様の大径18インチタイヤ装着車は、設計基準の17インチタイヤ装着車より回転半径が大きくなるのは致し方ないものの(5.6m→5.8m)、それを補うべく、EPS=パワーステアリングは独自のセッティングとなり、切り方向、戻し方向ともに素晴らしくスッキリ、かつリニアなフィールの持ち主。結果、前輪のインフォメーションの確実さ、ロールの少なさ、曲がりやすさ、たとえ道幅が狭いS字カーブや山道でも思いのほか運転がしやすいと感じ、高速レーンチェンジ時のすっと水平移動する安心感ある感覚もあって、重心の高さを感じにくい。それこそドライバーズカーと言っていい人車一体感、自在感ある操縦感覚を示してくれるのだから、驚きを隠せない。ミニバン喰わず嫌いの人にぜひ試乗してほしい1台だ。

 ミニバンに否定的なユーザーにお薦めできる輸入ミニバンとしては、VWゴルフトゥーランがある。ゴルフの基本性能の良さは周知のとおりだが、それをベースにした7人乗り、スイングドアミニバンのトゥーランは、1.4リッターターボエンジン+7速DSG搭載にして、低回転域からトルキーにもほどがあるスムースなエンジン性能、速く走るほど意のままに応えてくれる、低重心感覚ある操縦性、フットワーク、全体的な走りの質感は、ゴルフ7ヴァリアントと比較しても文句なし。走りにちょっぴりうるさいユーザーも納得の走りを披露してくれる(決してスポーティというわけではないが)。

 ところで、キャビンがタイトで体にフィットするスポーティーなクルマに乗り慣れている人にとっては、1〜2名乗車時に、後方の空間が無駄に感じられる……ということもあるだろう。ただ、家族が増えたり、友人とドライブしたり、ペットを乗せて旅行に出掛ける、なんていうシーンでは、その、普段は無駄と感じる空間に、感謝することになるに違いなく、しっかりとした走行性能に支えられた、見晴らし視界の爽快感、3列シート、空調環境、そして両側スライドドアの便利さを痛感できるはずだ。

 ミニバン喰わず嫌いでも、時代とともに進化している最新の熟成されたミニバンを検討する意味は、クルマの使い方によっては十二分にあると思える。今まで食べられなかった食材が、何かのきっかけでおいしく食べられるようになった、そんな経験と同じ。

 ちなみに、一部のミニバンには、スポーツカーにも使われる、車種専用のCOXボディダンパー(ヤマハ パフォーマンスダンパー)を装着することが可能(20系アルファード&ヴェルファイア2WD、50系エスティマ2WD、20系エスティマHVなど)。COXの説明によると「路面状況よって変化するボディーの変形や振動を素早く、かつ穏やかに整える効果があり、乗り心地に影響する路面の凹凸による突き上げ感や、走行中の変形時に発生する反発力だけを吸収。また、ワインディングロードにおいてはコーナリング時のボディーの揺り返し(反発)を吸収することで圧倒的な安定性をもたらすなど、その効果はドライバーだけでなく、同乗者も体感することができる」とのこと。

 それまでミニバンに乗っていて、クルマ酔いしていた子供が、クルマ酔いしにくくなったという報告もあるそうだ。ミニバンの走りに抵抗がある人はそういった製品を試すのもありだろう。