台湾発、アマゾンに挑むデジタルマーケティングAIの寵児
エイピアは、クッキーなどの膨大な情報をAIを使って分析し、“インターネット上でのふるまい”の特徴から“対象ブラウザーを持つ人の属性や行動特性”を推定したデータベース(DB)「クロスXデータベース」を持つ。分析したユーザーやデバイス数は20億以上。
潜在顧客を見つける
さらにAIを使った分析ツール「AIXON(アイソン)」は、利用者の次の行動を予測したり、ウェブサイトを訪れたことのない潜在顧客を見つけるなど、より高度な分析も行える。
これを専門家でなくても利用できるサービスとして提供しているのが特徴だ。プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのマジック・ツー氏は、「社内のデータサイエンティストが0人でも、(高度なデータ利用の)旅を始められる」と話す。同社のDBを利用する顧客には、データ解析専門の社員のいない企業も少なくない。
チハン・ユー最高経営責任者(CEO)は、「さまざまな企業が革新に追いつくように手伝いたい」と話す。
購入額25%増加
仏カルフールで台湾エリアの電子商取引(eコマース)を担当するジルベルサ・プレスコット氏は、「エイピアからのデータで、戦略はどんどん変わった」と明かす。eコマースの利用者は当初女性が多いと予想していたが、実は実店舗と違って男性客が多く、男性はウェブ上のキャンペーンの効果が高いこともわかってきた。
カルフールは16年にエイピアのクロスXを導入した時はデジタル初心者。経営層の中にはウェブへの投資を疑問視する声もあったが、今では月単位の購入額が20―25%増加するなどのAIの効果が出ている。
日本でも、不動産情報サイト「ライフルホームズ」を運営するLIFULLや、個人間取引マーケットを運営するGMOペパボが、エイピアのAIサービスを導入している。
米グーグルや米アマゾンといった巨大IT企業は、膨大なデータと高度な解析による果実を獲得し、それ以外の企業との差は開くばかり。特に小売業界ではアマゾンに顧客を奪われるアマゾン・ショックが後を絶たない。
ツー氏は「(エイピアはショックを)緩和できる」と話す。利用者を知れば知るほど、個人に合わせてアプローチでき、結びつきを強められるからだ。
新進気鋭
エイピアは、2012年設立の若く勢いのある企業だ。日本のソフトバンクグループやLINEなどからを含め、創業以来調達した資金総額は約90億円に上る。スマートフォン利用者が増加すればするほど、ニーズは増えるため、事業拡大への期待が大きくなっている。
ビジネスを支えるのは人材だ。ITや自動車などの超大手企業がAI人材の獲得を急ぐ中、エイピアは小さな企業ながら世界的なデータマイニングコンテストのチャンピオンなどを抱える。
クリエーティブAI
豊富な人材から、現行ビジネス以外の研究成果が生まれている。チハン・ユー最高経営責任者(CEO)は、若い女性向けの洋服の写真を2グループに分けて、「人間とAIのどちらがデザインしたか区別できますか?」と笑顔で問いかけた。片方は、敵対的生成ネットワーク(GAN)に関連した最新研究を基にAIがデザインしたものだ。
GANは、本物と同じような内容を作るネットワークと、本物か識別するネットワークが競い合うことで、より高度に真似(まね)したコンテンツを生成する技術。
エイピアはGANを使いながら、美しいデザインの事例を学習させて、デザインの能力を真似るAIモデルを開発した。デザイナーはAIが考えたデザインに自分のアイデアを足すことができる。「クリエーティブAIの実現までもう少し」とユーCEOは語る。
インターネットを取り巻く環境は目まぐるしく変化し、数年前に新しかったクラウドネットワークも今では当たり前だ。「10年後、AIは生活の一部になり、インテリジェントサービスになっているのではないか」(ユーCEO)と話し、AIという言葉もなくなる可能性を指摘する。
AIが購買行動を変えた先に、さらに広いAIの世界が広がっている。
(文=梶原洵子)
