ピープルのおもちゃ開発を支える「赤ちゃんのことだけ考えていい人たち」って?~Baby curiosity®のできるまで vol.3
2026年4月、私たちピープル株式会社(本社:東京都中央区|取締役兼代表執行役:桐渕真人|東証スタンダード 7865)のベビートイが一斉にリニューアルしました。
前回は、Baby curiosity®(ベビーキュリオシティ)のパッケージと売場の話をお届けしました。「なめなめ」「ぐい~ぱっ!」「じーっ」といったオノマトペや、ピンクのグラデーション、売場の大きな鏡。どれも、赤ちゃんの好奇心を真ん中に置いて作ったものです。
ですがそもそも私たちは、その「赤ちゃんの好奇心」を、どうやって見つけているのでしょう。
今回は、さらにもう一歩奥に進んで、Baby curiosityを作り上げた、「赤ちゃん観察」と「商品開発の現場」について、お伝えしたいと思います。
登場するのは、赤ちゃん研究所・観察チームの小板史美、商品開発を担当している三井勇輝、上金由佳です。
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小板史美
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三井勇輝
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上金由佳
「赤ちゃんのことだけ考えていい」人たちがいるBaby curiosityの開発チームは、立ち上げの時点で、こんな4つの役割で動いていました。
- 観察チーム(赤ちゃんを観察する)
- おもちゃにチーム(観察を形にする)
- 言葉にチーム(観察を言葉とビジュアルにする)
- つなげるチーム(観察を売場・体験につなげる)
4つ並べてみると、全部に「観察」という言葉が入っているのがわかります。しつこいくらいに、観察、観察、観察。
私たちは、おもちゃづくりの中心に「赤ちゃんの好奇心」をおいています。ピープルのおもちゃ開発は40年以上、赤ちゃんを観察して観察することで作られてきました。赤ちゃんに実際におもちゃで遊んでもらったり、世界各国の赤ちゃんの好奇心を研究したり、2023年には社内研究所「ピープル赤ちゃん研究所」を立ち上げ、のべ1400名の赤ちゃんの観察をしてきました。
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赤ちゃん研究所のメンバー
そこで得られた「赤ちゃんの好奇心」を、私たちはすべての判断基準にしているのです。
観察チームのリーダー・小板は、こう話します。
「ピープルの人は、みんな優しい。
おもちゃを作るときに、工場さんの事情も、パパ・ママの気持ちも、小売店さんの都合も、ぜんぶ大事にしたくなってしまうんです。でも、赤ちゃんのためのおもちゃなのに、赤ちゃんの声を代弁する人がいないと、いつの間にか決定要因がどんどん大人の都合の方に偏ってしまいます。だから、赤ちゃんのことだけを考えていいというチームが必要でした」
観察チームは、会議の場で、さまざまな事情をあえて考えず「赤ちゃんはこのおもちゃのこの部分を気に入っているみたいです」「この好奇心は引き出せていないみたいです」と、とにかく赤ちゃんの側からの声だけを言い続けるのが役割です。
ほかのチームには、それぞれの現実があります。コストもあるし、納期もあります。ぶつかる瞬間も、もちろんありましたが、「赤ちゃんが遊ばないものを作ってもね…」という共通認識が、ピープルにはちゃんと根づいていました。
最初の仕事は、全商品を「表」にすることだった観察チームが最初に取り組んだのは、ピープルが当時販売していたおもちゃ、そして過去に販売終了したけれど可能性を感じる商品を、全部洗い出して、表の形に並べてみることでした。
そして、一つひとつ、赤ちゃんに遊んでもらいながら、こう問いを立てたそうです。
「このおもちゃの強みはなんですか?」
「このおもちゃで引き出せている、赤ちゃんの好奇心はなんですか?」
出てきた答えを、ひとつの表にまとめました。
さらにピープル商品の愛用者カードを通じて何十年も蓄積されてきたコメントと、あわせて整理していきました。その商品の強みを言語化し、さらに、その商品で発揮されている赤ちゃんの好奇心の言語化もしていきました。
「表を作ってみると、商品どうしの重なりが見えてきたんですよ。これとこれは、まったく同じ強みで、まったく同じ好奇心を引き出している。じゃあ、お客様を迷わせてしまうから、1品でいいよね、とか。逆に、昔は拾えていた赤ちゃんの好奇心で、今はどの商品でも満たせていないもの、あるね、とか」(小板)
この表が、Baby curiosityの出発点になりました。
「おもちゃにチーム」は、この表を見ながら「じゃあ、具体的にはこういう仕様にしよう」と考えるのが役割です。形ができあがったら、観察チームが再び赤ちゃんにあそんでもらって、狙っている好奇心を引き出せているかどうかを確かめる。違ったら、また考える。そして遊んでもらう。このやりとりを何度も繰り返したのでした。
「レジ袋の音」じゃなかった──魔法のラトルの気づきこの往復のなかで見つかった気づきを、ここからいくつかご紹介します。
まずは、前回の最後でちらっと予告した、「魔法のラトル」のお話から。
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もともと魔法のラトルには、小さなボタンがついていて、押すと「レジ袋のカシャカシャ」という音が鳴る仕様でした。赤ちゃんを育てたことがある方はご存じかと思いますが、赤ちゃんはレジ袋の音が大好き。ぐずる赤ちゃんを泣き止ませるためにレジ袋は有効だといわれています。パッケージにも「本物のレジ袋を収録」と書かれているおもちゃです。
「ところが、実際に魔法のラトルで遊ぶ赤ちゃんを改めて観察してみると、夢中になっていたのは、振ったときに中のビーズが動く、あの音と動きのほうだったんです。いちばんお金をかけていたのがレジ袋の音を出すための電子部品と電池とボタンだったのに、実はいらなかったんだね、というのは衝撃でした。作る側としては、学びが大きい体験でした」(上金)
Baby curiosityでは、この気づきを受けて、既存の「魔法のラトル」から電池もICも外し、ビーズの動きと音がきれいに伝わる構造に組み直しています。ラトルを振ると、赤ちゃんが中の動きをじーっと見つめる好奇心が主役です。
じぶんでラトル──「重さ」と「角度」の話2026年7月に新たにお目見えする第2弾商品「にぎにぎ 自分でラトル」も、赤ちゃん観察から生まれた細かな工夫が詰まっています。
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もとになる商品は、少し前に廃番になったラトルでした。
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復活させるにあたって、チーム内では「もう一度出すんだから、ただ元に戻すんじゃなくて、もっとよくしないと意味がないよね」ということが話されたそうです。
目指したのは、新生児期の赤ちゃんが、自分で握れて、自分で振れて、自分で口に持っていけるラトル。
言葉にすると一行ですが、これが、簡単ではありませんでした。
小板は、真夏に新生児が生まれたモニターさんのお宅にお邪魔して、赤ちゃんにプロトタイプを握ってもらいました。動画を撮って、ラトルの当たる位置や角度を、ずっと見つめたそうです。
「赤ちゃんが、ラトルを無邪気にブンブンと振るんです。そうすると、自分の顔に、ラトルがバンバン当たる。バンバン当たっても痛くない素材でないといけないし、でも柔らかすぎると、顔に当たったときに曲がってしまって、口まで届かない。反発するけど痛くない、の絶妙な硬さが必要でした」(小板)
動画を見ながら、小板はツノの位置を調整したほうがいいということに気づきました。「このツノの位置、もう少しこっちじゃない?」というと、それを聞いて、上金がその場すぐに現物をチクチクチクと縫い直す。ツノの位置を動かすと、音の鳴り方が変わる。では中の素材を変えよう。素材を変えたら、また当て直す。
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※この写真内に写っているのは調査用の試作です。商品とは色・形が異なります。
手を動かし、足でモニターさんのお宅に通い、ちょっとずつマイナーチェンジを重ねる。この細かい往復が、何度も続きました。
ラトルには、先に赤ちゃんがくわえやすい小さな突起が、ツノのように2つついています。赤ちゃんが自分で握って、無邪気に振ると、突起が顔に当たります。そしてたまたまその突起が口のそばに当たると、赤ちゃんは、突起をしゃぶり始める。
「しゃぶり始めた瞬間、お母さんが『あっ、この子、自分で遊んだ!』って思ってくれるんですよね」(小板)
ここが、とても大事なポイントでした。赤ちゃんがおもちゃで「遊んだ」と認定されるかどうかは、お母さんの受け止め方にかかっています。お母さんたちに肯定してもらえないと、そのおもちゃは市場で残っていくことができません。
「ツノは2本ついているのですが、右手で持っても、左手で持っても、どちらかが必ず口に当たる角度になっていることが大事だと感じています。そのために、ツノの位置をギリギリまで調整していきました」(小板)
新生児期の赤ちゃんでも持ち続けてくれる30g前後の重さ、2本のツノの角度、中のビーズの鳴る音、素材の反発力。そのどれ一つとして、大人がなんとなく「こんなもんかな」で決めたパーツではないのです。
ちょいちょいフォン──フタは「隠すもの」じゃない
もう一つ、7月発売の新商品から、「ちょいちょいフォン」のお話を。
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スマートフォンの形をしたおもちゃです。一見、発想はシンプルに見えます。「赤ちゃんは、大人のスマホが大好きだから、スマホのおもちゃを作ろう」。
でも、Baby curiosityでは、そこで一度立ち止まりました。
「赤ちゃんはスマホの、いったい何が好きなんだろう?」
私たちが改めて赤ちゃんを改めて観察し、わかってきたのは、こういうことでした。
・赤ちゃんは、光ったり音が鳴ったりする機能よりも、画面のアイコンを触る・撫でる動作に夢中になる
・ボタンの押し心地の違いにはっきり反応する
・フタを開け閉めする動きが、ものすごく楽しそう
・イヤホンをちょろちょろいじる、なめる動きを、本気でやる
小板は、音や光のような「どのおもちゃにもある魅力」以外を考える必要があったと振り返ります。三井も、赤ちゃんが画面のアイコンを触ったり、撫でたりする動作に着目し、アナログな魅力に振り切ったと話します。
結果として、ちょいちょいフォンは、音や光よりも、触る・押す・開ける・いじるといったアナログな遊びを重視したおもちゃになりました。
もう一つ、観察で気づきがあったのが、フタの扱いでした。最初は、不透明なフタで設計していたそうです。ふつうのスマホケースをイメージしていたからです。でも、実際に赤ちゃんに遊んでもらうと…。
「フタの先に何があるのかが、赤ちゃんには想像しにくかったみたいで、あんまり触ってくれなかったんです」(三井)
そこで、フタを半透明にしました。なかにボタンがあるのが、うっすら見える。イヤホンが入っているのが、うっすら見える。すると、赤ちゃんが途端にフタを触り始めたそうです。
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※この写真内に写っているのは調査用の試作です。商品とは色・形が異なります。
「大人にとって、フタって『中を隠すもの』なんですよね。でも、赤ちゃんにとっては、『開け閉めする動き』と『向こう側への期待感を煽るもの』だった」と、小板は話します。
同じパーツでも、誰が見るかで、役割がまったく変わる。赤ちゃん観察の気づきから得た結論です。
おへそまる──赤ちゃんが大人にはわかりにくい魅力をしっかりみつけてくれた話最後に、もう一つ、7月発売の新商品から。上金が、とくに思い入れたっぷりに話してくれた「おへそまる」のお話です。
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球体っぽい、ちょっと不思議な形のおもちゃです。お尻の部分が重たくなっていて、転がしても、起き上がりこぼしのように自分で上を向きます。上を向いた部分は透明で、内側が見える。全体はやわらかいシリコン素材で、表面には肉球のような丸いでこぼこがついています。
よーく見ると、クマのような動物にも見えます。クマの「おへそ」にあたる部分がキラキラ透けていて、そこから「おへそまる」という名前をつけました。
上金は、これを離乳食が始まる頃の赤ちゃんのために考えていたそうです。
「離乳食が始まる頃、赤ちゃんの上あごの形は、ぐーっと変わっていくんです。それに合わせて、吸啜(きゅうてつ)という、舌を奥にすりあげる動きを赤ちゃんが自然に始めます。その月齢は、ちょうど座って、手を伸ばして、動くものを追いかけられるようにもなる頃なんです」(上金)
動くものを目で追う → 掴む → 口に運ぶ → 上あごで味わう。
この一連の体験のどのステップにもぴったり寄り添える形とサイズを、長い時間をかけて、上金は温めていました。
ところが、「見た目の不思議さもあって、どうしても『本当にこれ、赤ちゃんにハマるんだろうか?』と、製品として進めていくには迷いがありました」(三井)
転機になったのも、「赤ちゃん観察」でした。
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※この写真内に写っているのは調査用の試作です。商品とは色・形が異なります。
「新しいおもちゃは、どうしても実際に遊ぶところを見てみないとわからない部分があります。今回おへそまるで遊ぶ赤ちゃんを見てみて、新しい好奇心を爆発させているように感じました」(三井)
こうして、赤ちゃんたちの反応に応援される形で、Baby curiosity 7月の新商品となることが決まりました。
おもちゃ作りの真ん中には、いつも赤ちゃんの好奇心がある自分でラトル。ちょいちょいフォン。おへそまる。
ここまで書いてきたどのおもちゃも、赤ちゃんのリアルな反応に基づいて形になってきたおもちゃです。そして、気づきから仕様に落としていくプロセスには、それぞれのチームが顔を突き合わせて、わいわい話し合うやりとりがありました。
小板は、このチームの動き方を、こう表現します。
「観察して、表に書いて、優先順位を決める。おもちゃにチームの人が試作を作ってくれる。赤ちゃんに実際遊んでもらう。違ってたら、また考える。そして遊んでもらう。その繰り返しでした」
そして、集まるときに、いつも真ん中にあったのは、「強みと好奇心の表」でした。
「おもちゃを作るって、コストや製造工程との兼ね合いで『いや、でも、これじゃ量産できないじゃん』みたいな瞬間が出てきます。そういうとき、『赤ちゃんがこう遊んでくれていた』『赤ちゃんはここを見てくれなかった』という共通言語があると、最後はそこに戻って話ができるんですよね」(小板)
赤ちゃんが真ん中にいる。その当たり前を、表と観察と、顔を合わせる場が支えている。
Baby curiosityのおもちゃ一つひとつの裏側には、こんな現場の風景がありました。
ここまで、パッケージの話、観察と開発の話をお届けしてきました。
さて、Baby curiosityというブランドを動かしているのは、もちろん商品だけではありません。ピープルという会社そのものの考え方が、このプロジェクトの土台になっています。
どうしてピープルは、ここまで赤ちゃんの好奇心に振り切れるのか。会社としてどこを目指しているのか。
次回は、そのあたりを経営の視点からお伝えできればと思います。
