「一度は助かった命でした。なぜ、こんなことになったのでしょうか」

【画像】亡くなった大竹玖瑠美さん(22)の勤務していた店舗。爆発後は大きく倒壊している

 イオンモール熊本(熊本県嘉島町)で起きた爆発に巻き込まれて亡くなった大竹玖瑠美さん(22)。彼女の母親は、声を震わせてそう話した。


亡くなった大竹さん

 テナント店舗で働いていた大竹さんは、地震発生直後、買い物客に続いて速やかに屋外へと避難したはずだった。ところが、モールの壁と天井ごと吹き飛ばす爆発が起きたその瞬間、彼女は再びモールの中に居た。そして、同僚と共に犠牲になった。

「会社から指示があったから戻ったんです」

 言葉を絞り出すように、母が明かす。

「娘は自分の意思でもう一度、館内に入ったのではありません。会社から指示があったから戻ったんです。このままでは、娘が報われないと思います。はっきりしてほしいんです。何があったのか……」

 マグニチュード7.1、最大震度7を観測した令和8年熊本地震は、7月28日の午後4時27分に発生した。

 高市早苗首相は8月3日、被災地を視察。熊本地震を「激甚災害」に指定する方針を表明した。

「視察は首相の意向で、発生直後から検討が始まった。ただ、ある首相秘書官は『現場が大変なので自分は反対だ』と周囲に漏らしていた」(永田町関係者)

 また地元熊本選出の金子恭之国土交通相も、自身の早期訪問について「被災現場を混乱させない」「作業を中断させる事にもなりうる」とXに投稿し、慎重姿勢を示した。暗に首相の判断を批判している、とも受け取られた。

「日々明らかになる被害に、政府内も一時混乱したようです」(同前)

爆発で7人が死亡し、けが人は26人に

 各地で人命が失われる中、衝撃的だったのは、「防災拠点」に位置づけられていたイオンモール熊本の爆発だった。

 爆発で7人が死亡し、けが人は26人に上った。1階のアパレル店に勤務していた男性が振り返る。

「夏休みで館内は混雑していました。激しい横揺れを感じると、マネキンが倒れ、商品やポスターが床に散乱していました。他の従業員と一緒にお客さんに『建物の外に出てください』と呼び掛けました。僕たち従業員はその10分後くらいに外へ出た。その後、建物内に戻る従業員らしき方を何人か目撃しました」

なぜ、彼女は戻ったのか

 そして突然、爆発が起きた。近隣住民が語る。

「『ドン』というものすごい音の圧、空気の塊をぶつけられたような衝撃です。鉄骨や壁材が数十メートルも飛んできて、破片がトラックを貫通していました」

 爆発が起きたのは午後5時50分ごろで、地震発生から80分後だった。

 爆発の映像はニュースになり、瞬く間に拡散された。多くの人々と同じようにスマートフォンでその映像を見たのが、大竹玖瑠美さんの親族の男性だった。

「玖瑠美はイオンにテナントとして入っている雑貨店『habita』の従業員でした。映像を見た瞬間に『もしかすると……』と思い、すぐに玖瑠美の母親にニュースを送ったんです。すると『少し前に安否確認できていて、大丈夫と連絡があったのに、今は連絡がつかない』と。それからはもう何度、玖瑠美に電話しても繋がらない。急いで家族と親戚でイオンに向かって見守っていた」

深夜1時59分に消防隊員から連絡

 大竹さんが母親と共有していたスマホのGPS追跡アプリ「whoo」を見ると、大竹さんの所在地はイオンの中で動かないまま。

「もう避難していて、携帯だけ館内に忘れたんじゃないか」

 親族は願いを込めてそう思うしかなかった。

 だが、消防関係者から告げられたのは、無情な知らせだった。

「深夜1時59分です。『大変残念な結果ですが、遺体は大竹玖瑠美さんで間違いないと思います』と消防隊員から連絡がありました」(前出・親族の男性)

 店があった場所近くに2人の女性が倒れており、付近から大竹さんの身分証が見つかったという。

「玖瑠美の母親に電話で『ダメだった』と伝えると、その瞬間に泣き崩れ叫ぶ声が電話口から聞こえてきました」(同前)

 DNA鑑定で身元が特定された翌30日、遺族はようやく遺体と対面した。

「死亡推定時刻は爆発とほぼ同時でした。苦しんだ時間は短かったと考えると、それだけがわずかな慰めです」(同前)

長女として家族を支えていた

 大竹さんは3人きょうだいの長女だった。

「弟や妹の面倒見もよく、友人たちからも愛されていた。とても明るく、気さくで、いつもニコニコしていました」(同前)

 熊本県出身で、3年前に父を亡くしてからは、実家で暮らしながら長女として家族を支えていたという。

「父が亡くなって時間が経ち、ようやく家族が前を向いて立ち直ろうとしていた。そんな矢先でした。玖瑠美はアイドルのファンで、『推し』はHey! Say! JUMPの山田涼介くんとSixTONES京本大我くん。11月にコンサートがあると言って、とても楽しみにしていたのに」(同前)

 一度は「大丈夫」と連絡した大竹さんはなぜ、建物の中に居たのか。彼女は屋外に出た後、再び店舗へと戻っていたという。前出の親族の男性が続ける。

「実は避難した駐車場で、玖瑠美は偶然、おばといとこに遭遇しているんです。そこで交わした言葉が最後になりました」

「売上金を金庫に入れて」

 大竹さんはこう言ったという。

「会社の人から『売上金を金庫に入れてくれ』って言われたから、戻らないといけない」

 おばといとこは館内に戻るのは危険だと止めたが、「仕事だから」と振り払い、大竹さんは建物に入っていった。そして、ほどなく爆発が起きた。

 後日、大竹さんの勤め先「habita」の運営会社、株式会社ハビタから母親に電話があった。その際、「娘はなぜ館内に戻ったのか」と問うと、ハビタ側は「同僚から『荷物を取りに行きたい』という申し出があり、それに付いて戻った」と説明したという。

 遺族は不信感を募らせた。親族の男性が言う。

「会社は売上金について指示したことを伏せ、自ら説明しなかったんです。こちらから取締役を問い詰めると、『売上金を可能であれば入れてくれ、という話はしました』と認めた。あくまで、荷物を取るついでとして頼んだ、という趣旨の言い訳を繰り返しました。でも、彼女は22歳の従業員ですよ。真面目な性格で、会社から言われたら従わなくてはいけないと思いますよね」

 そして男性はこう語るのだ。

「これは人災です。ハビタには業務上の過失があったと考えます。会社は、絶対に館内に戻らないよう指示するべきだったのではないか。そして同様に、テナントの従業員を戻らせたイオンにも瑕疵がある。責任があるはずです」

 遺族の訴えに、ハビタ側はその後、態度を一変させる。上野景真社長と取締役は、通夜で遺族に謝罪し、報道陣の取材に応じた。だが、その内容から、母親らに「虚偽の説明」をしていた可能性が浮上している。

《この続きでは、ハビタとイオンの説明の食い違いだけでなく、両社の企業体質、「なぜ戻ることが可能だったのか」「なぜ爆発したか」など残る謎を徹底取材。記事の全文は現在配信中の「週刊文春 電子版」および8月6日発売の「週刊文春」で読むことができる》

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2026年8月13日・20日号)