せっかくの節税枠をドブに捨てることに…60歳で退職金とiDeCoを「同時に受け取る」元会社員の末路。税金だけじゃなく、社会保険料も上がる「二重の落とし穴」【CFPが警鐘】
定年後、老後生活の原資ともなる「退職金」。大切な退職金を有効活用するには金額と受取方法の把握が重要です。特に受取方法次第では、かかる税金や社会保険料が変わり、手取りにも大きく影響します。さらには、老後資金作りのお得な制度として注目される「iDeCo」との兼ね合いも軽視できません。本記事では、福地健氏が監修を務めた『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド 2026-2027年最新版』(インプレス)より、退職金の受け取り方についてくわしく解説します。
退職金は「一時金受取り」が節税効果も高く断然お得!
残念ながら老後資金となる退職金にも税金はかかります。しかし、社会人人生の“ごほうび”とも言えるこのお金には、税金面でも最大限の優遇制度が適用されます。
退職金は、会社によっては一時金で受け取るか、年金で受け取るか選択できる場合があります。その際、税制面で有利なのは圧倒的に一時金で受け取る方法です。
勤続年数・金額によっては所得税ゼロもあり
退職金を一時金で受け取ると「退職所得控除」が適用されます。例えば勤続30年であれば退職金から1500万円分が控除額となり、この範囲であれば税金がゼロになります。年収1500万円の給与所得者の場合、所得税と住民税の概算合計で300万円近くが税金としてかかるため、大きな差です。
退職一時金にかかる所得税額は図表1の計算方法で確認できます。
[図表1]退職一時金にかかる所得税額の計算方法 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
退職金を一時金で受け取る場合、まず退職所得控除額を差し引きます。この金額は、勤続年数が20年以下の場合「40万円×勤続年数」、勤続年数が20年超の場合「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」となります。課税対象となるのは、控除額を差し引いた金額の2分の1です。この金額を「所得税の税額速算表」に当てはめて計算すると、払うべき税金がわかります。
退職金は、老後生活の原資となるため「退職所得控除」というお得な優遇制度が設けられているのです。人事・総務部などにあらかじめ退職金の見込額を聞き、一時金として退職金を受け取ったときにかかる所得税などを把握しておくと良いでしょう。
退職金を一時金と年金で受け取る場合の「所得控除額」の違い
退職金を年金で受け取る場合は、公的年金等控除の対象となり、65歳未満は公的年金と企業年金を合わせて一般的に最低年間60万円の控除となります。
[図表2]退職金を一時金と年金で受け取る場合の所得控除額の違い 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
退職金の「年金受取り」なら60〜64歳までにもらい切る
退職金は控除額の大きい「一時金受取り」が税制面で有利です。一方で、一気に使いすぎてしまう危険もあります。そのため、分割で受け取る「年金受取り」を選択したい人もいることでしょう。
その場合、注意したい最大の点は、「公的年金」との関係です。年金受取りでも「公的年金等控除」を受けられますが、この控除は、退職年金と公的年金の合計額に対して適用されます。そのため、両方を合わせると税負担が増えるケースもあります。
[図表3]退職金の年金受取りは公的年金との重なりに注意! 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
こうした事態を防ぐための対策の1つが、受取時期をずらすこと。できれば公的年金が始まる前の60〜64歳までの期間に退職年金を受け取るように設定しましょう。こうすることで、「退職年金」と「給与」それぞれの控除枠を最大限に活かすことができ、税負担を抑えやすくなります。
「公的年金+退職年金」になると、納める社会保険料がアップ
また、国民健康保険や介護保険などの社会保険料についても所得に応じて計算されるため、公的年金を受給しながら退職金を年金で受け取ると、より多くの社会保険料を納めることになるのです。
図表4を見ると、年金収入が増えるほど、税金と社会保険料の負担額が大きくなり、手取り率が下がることがわかります。
[図表4]年金収入が増えるほど税以外の負担もアップ 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
さらに、注目すべきは毎年の所得が増えると、健康保険や高額療養費、介護サービス料の自己負担割合が高くなるという落とし穴があることです。例えば、要介護になったときの介護サービス料が1割負担でなく、2割、3割負担になってしまいます。
退職年金の税金はどう算出される?
退職金を年金形式で受け取る場合、公的年金の収入額と合算した年間合計額から税金の計算がスタートします。下図のように各種控除を段階的に差し引いて「課税総所得金額」を算出し、この最終的な金額を基準に所得税額が決定します。
[図表5]退職年金の税金はどう算出される? 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
2026年12月から、iDeCoの加入可能年齢は70歳まで延長
超高齢化の日本では、退職金と公的年金だけでは老後資金を賄えない可能性があります。そのため、長生きリスクに備えてiDeCoで資産形成するのは有効です。また、iDeCoを受け取るタイミングも非常に重要になります。
iDeCoの加入上限年齢は、厚生年金加入者で65歳、国民年金加入者は、原則60歳までですが、2026年12月以降は、改正により誰もが70歳になるまで加入可能(※)になります。継続雇用・アルバイトなど働き方に関わらず、老後資金を増やすチャンスが広がるのです。
※ 老齢基礎年金を受給していない人に限る
また、拠出できるのは、加入上限年齢までですが、運用は75歳まで続けられます。ただし、保有期間中に手数料がかかるので注意が必要です。
[図表6]定年後のiDeCoはいつまで加入できる? 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
退職金とiDeCoを同時に受け取ると損
iDeCoと退職金の受け取り時期が重なると税金に差が生じる可能性があります。その理由は、退職金とiDeCoは同じ退職所得控除の対象となるため同時に受け取ると節税効果が薄れてしまうのです。
[図表7]退職金とiDeCoは受け取るタイミングで税額が変わる 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋
そこで、図表7ケース(2)のように60歳で退職金を受け取りiDeCoは70歳まで運用した場合、60歳で同時に受け取るケース(1)に比べて受給額は増えても節税できます。また、相場の状況にもよりますが、運用期間を長くすることで、資産を増やせる可能性も高まります。
なお、節税効果が最も高いのはiDeCoを60歳、退職金を70歳で受け取るケース(3)。ただし、対応できるか、会社への確認は必須です。
そもそもiDeCoとは?
iDeCoは、拠出・運用・給付の3つのタイミングで税制優遇を受けられるためお得に老後資産形成できます。2026年12月以降は、加入年齢の他、拠出限度額も引き上げされます。50代から始めても長期積立がしやすくなります。
[図表8]そもそもiDeCoってどんな制度? 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋

