「いいでしょ、1度だけ」。理彩さんは悪魔のように囁いた――

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【前後編の後編/前編を読む】妻の親友と不倫した46歳夫 「賢すぎて、なかなかつついてこない」妻との結婚は、32歳の誕生日に出されたビーフシチュー

 塚原孝次さん(46歳・仮名)は、29歳のとき、仕事のセミナーで3歳年下の郁美さんと出会った。知的で率直、場をさりげなく仕切る彼女にひと目ぼれし、32歳の誕生日に妊娠を告げられて結婚。二人の娘にも恵まれた。良い意味で“大雑把”で、義母や友人とも巧みに関係を築く郁美さんを、孝次さんは「かっこいい」と尊敬していた。そんな彼はなぜ、「悪い不倫」に陥ってしまったのか……。

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 結婚を決めたとき、郁美さんから最初に紹介された女友だちは、理彩さんだった。彼女のバックボーンは詳しく知らなかったが、「中学時代からの親友」と紹介された。

「いいでしょ、1度だけ」。理彩さんは悪魔のように囁いた――

「理彩は『バツイチでーす』と明るかった。同い年なのに郁美と比べると純粋というか、頭で考えるより先に気持ちで動くタイプのようでした。3人でお茶したときに、『理彩は人がいいから、元夫の借金を今でも返しているのよ』と郁美さんは困惑したように言った。元夫の連帯保証人になったために借金500万円を背負ってしまったんだそう。でも理彩は『あと2年で返せるから。郁美にはいろいろ世話になったんですよ』って。そんな理彩を、郁美は『ほんと、人がよすぎて、私のほうがイライラしちゃう』と言っていました」

 それでも理彩さんはえへへと笑うだけ。妙に愛嬌のある理彩さんに、当時の孝次さんは「妻となる女性の親友として」好感をもった。

 郁美さんは友人が多かった。理彩さんを始め、結婚後の家にはよく友人たちが集った。もともとオープンな性格なのだろうが、孝次さんは「正直言って、落ち着かなかった」という。

「うちはごく普通のサラリーマン家庭で、両親とも家に人が来るのを好まなかったんですよ。親が友だちを招いているのなんて見たことがなかった。今思えば、親には友人と呼べる人たちがいなかったんでしょうし、そういう時代だったのかもしれない。たまに親戚が来ることはあったけど。郁美の家は、親に友人が多くて、しょっちゅう誰か出入りしていたそうです。育った環境がかなり違っていたんですね。郁美の友人たちが訪ねてくると、僕は落ち着かなかったけど、まあ、それにもだんだん慣れてはいきました」

友人たちを迎える新居

 理彩さん同様、郁美さんが親しくしている友人に瑠璃子さんという女性がいた。話を聞いてみると、彼女の夫は孝次さんと同じ大学の出身だった。たまたま家も徒歩圏内だったため、夫婦は子連れでよく遊びに来るようになった。

「瑠璃子さんは理彩とも仲がよくて、独身時代はよく3人で遊んでいたようです。そんなことも徐々に知るようになった」

 結婚して10年がたった4年前、孝次さんと郁美さん夫妻は、中古ながらマンションを購入した。それまでと同じ地域で、なにより最寄り駅まで徒歩2分という立地だったため、郁美さんの友人たちがふらっと訪ねてくることもより増えていった。

「けっこう広いルーフバルコニーとサンルームがあるんですよ。子どもたちの友人が来ることもあったし、郁美の友人も週末は必ず誰か来ていましたね」

帰宅すると、妻と理彩さんがシリアスな雰囲気で…

 2年ほど前、孝次さんが帰宅すると、理彩さんと郁美さんがサンルームで顔をつきあわせて深刻な雰囲気で話し込んでいた。すでに夕飯は終わっている時間だったから、孝次さんはキッチンのテーブルに置いてある夕飯を温め直したりして食べ始めた。

「そこへ郁美が来て、『ごめんね。理彩が相談ごとがあるっていうから』と。いつもと様子が違うねと言ったら、『今回はけっこう深刻。できればあなたも聴いてあげてよ』と言うんです。食事を終えて、ワインを持ってサンルームに行きました。理彩はすでに酔っていましたが、僕の顔を見ると『孝次さん』と泣きそうな顔になって……」

 彼女が年下の男性とつきあっている話はすでに聞いていた。フラれたのかなと思っていたら、案の定、そうだった。郁美さんは「だからずっと私が言ってたでしょう。15歳も年齢の違う男に入れこんでも無駄だって」と理彩さんを叱っていた。

「年下とつきあっているとは聞いていたけど、15歳も下だったんだと初めて知った。理彩は『結婚しようって言ったのに』としゃくり上げていました。1年ほどのつきあいで、当時41歳だった彼女は妊娠した。最後のチャンスだから産むと言うと、彼は結婚を承諾した。ところが結婚話が進んでいく中で、新生活の準備金300万円をもって彼が行方不明になった。そのお金は理彩が彼に預けたもの。元夫の借金を返済してから、また一生懸命働いて貯めたお金だったそうです」

「理彩って本当にバカよ」

 彼の行方がわからなくなって3週間後、理彩さんは流産してしまう。数日の入院を余儀なくされてようやく退院したその足で、理彩さんは郁美さんに会いにきたのだった。

「郁美が彼女を叱るのもわかるけど、理彩だって騙されたくて騙されたわけではない。甘かったとはいえますが、好きな人だからこそ判断が鈍るのはしかたがないですもんね。しかも理彩は体調を崩している。郁美は理彩には厳しいなと思いながら、僕はただ黙って理彩の話を聞いていました」

 その日は、お酒を飲んでいない孝次さんが理彩さんを車で送っていった。車だとほんの数分だが、深夜にひとりで帰すのも忍びなかった。

「ひとり暮らしのマンションの玄関まで行って、彼女が中に入るのを見届けて帰りました。彼女は『ごめんね』と言いつつ、聞いてくれてありがとうとも言ってた。『孝次さんにまた愚痴ってもいい?』と言われたので、いつでもいいよと」

 帰宅すると、郁美さんはまた「理彩って本当にバカよ」と怒っていた。郁美さんとしては仲よしの理彩さんが「明らかに怪しい若い男に騙された」ことが許せなかったのだろう。だからこそ、理彩さんを責めてしまった。その気持ちもわからなくはないと孝次さんは思ったという。

「理彩には気をつけてね」

 数日後、瑠璃子さん一家が遊びに来た。郁美さんがいないのを見計らって、瑠璃子さんは「孝次さん、理彩には気をつけてね」と言った。

「瑠璃子さんが言うには、理彩が僕を狙っている、と。そんなことがあるはずないよと笑い飛ばしたんですが、そもそもどうして瑠璃子さんがそんなことを言うのかわかりませんでした。郁美と理彩と瑠璃子さんって、僕から見てもかなりサバサバした関係で、お互いに嫉妬したり相手のパートナーを狙ったりするようなドロドロした部分がまったくないように見えていたんです。あっさりしながらも、相手が困ったときはさらりと手を差し伸べる。そんな友情が見えていたからこそ、僕は彼女たちの関係がいいなと思っていた。瑠璃子さんが、理彩をそんなふうに言うのを聞いて、3人の関係が少し変化しつつあるのかなと思いました」

 わかったと言って、それ以上の瑠璃子さんの言葉を封じた。どうしてそんなことを言うのかと問えば、瑠璃子さんがもっと理彩さんを悪く言うのがわかりきっていたからだ。

また荒れた理彩さん

 その後は理彩さんも落ち着いたのか平穏な日常が戻ってきたのだが、数ヶ月後、理彩さんがやってきてまた荒れていた。

「その日はかなり酔ってうちに来たので、その時点で郁美は嫌がっていました。『酔ってるなら帰って寝たほうがいいよ』と言っていましたが、理彩は『ひとりは嫌だ』とごねていた。『そんな子どもみたいなこと言わないで』と郁美は少し怒りながら、僕に理彩を送っていってくれないかな、と。わかったと言って車を出しました」

 理彩さんのマンション前で車を停め、部屋まで送ったのだが、その日の理彩さんはバッグから鍵を出すことすらできないようだった。孝次さんはバッグを漁って鍵を見つけ、中に理彩さんを入れた。帰ろうとすると、理彩さんは孝次さんの腕をつかみ、「いいじゃない、まだ」と言った。その声は酔っているわりにはしっかりしていた。

「その後、理彩はすぐヘナヘナと座り込んだ。泥酔しているのか酔っていないのか、よくわからなかった。ともかく水を飲んで寝たほうがいいよと言って出ようとしたんです。でも理彩はしがみついてきた」

「郁美はいつも私の男をバカにしてきた」

 そのとき理彩さんは言った。「あんたの妻はどうしてあんなに私をバカにするのよ」と。「あの人はいつだって上から目線なんだ」とも。

「その気持ちはわからなくはなかったから、郁美があなたにいつも強気の対応をしてきたのかと聞いてみたんです。すると理彩は『ボーイフレンドができるような年齢になってから、郁美はいつも私の選ぶ男をバカにしてきた』と。『確かに私はダメな男ばかりとつきあってきたけど』と自嘲的でした。だいたい郁美はいい子過ぎるの、いい子ぶってばっかりと何かを吐き出すように言い続けました。郁美に対してストレスがたまっていたんでしょう。30年くらいのつきあいになるはずだから、その間、いろいろあったんでしょうけど」

 理彩さんは悪魔のように囁いた。

「ねえ、浮気しようよ。いいでしょ、1度だけ。郁美だってしてたんだから、ここで復讐してやろうよと、理彩が僕の耳に吹き込みました。郁美が浮気していた? そうなのかと言うと、『知らぬは亭主ばかりなり、だったのね』と。なんだかその瞬間、理彩同様、僕も郁美に上から見下ろされていたのかなと思って体がカッと熱くなった。気づくと理彩を押したおしていました」

共通の敵を倒したような気分…

 理彩さんは孝次さんの体に手を回して呻きながら、「郁美はあなたのことなんて愛してないよ、どうしてわからないの」と言った。そういえば郁美さんに尊重されていないと感じることは確かにあった。もっとオレを大事にしろよ。そんな言葉を郁美さんにぶつけたいことも多々あったが、それを封じ込めてきたのだ。家庭の安寧のために。そのいらだちを、目の前の理彩さんに情熱という形でぶつけた。理彩さんは嬌声で応えた。

「ことが終わったとき、ものすごくすっきりしたのを覚えています。共通の敵を倒したような、爽快な気分でした。理彩は色っぽい目で僕を見つめて『よかった。ありがとう』と言った。郁美にそんなふうに言われたことはなかったから、単純にうれしかった」

 理彩さんとまた会いたい。孝次さんはそう思った。だが、それっきり理彩さんは彼にふたりきりで会おうとしなかった。郁美さんに会いに来て、「送っていってあげて」と言われても、『あ、大丈夫。歩いて帰れる距離だもん』とさっさと帰っていくことが増えた。

1ヶ月後、呼ばれて家に行くと…

「1ヶ月後、理彩に呼ばれて彼女の家にいくと、『外では話せないから』と入れてくれました。『あれはなかったことにしてほしい』と彼女に言われたんです。私は郁美をこれ以上、裏切れないって。そう言って苦悩の表情を浮かべる理彩が愛おしくて、そのまままた関係をもってしまった。そんなことが何度かありました。切れそうで切れない関係は、本当は切りたくない関係だったんだと思う」

 半年ほど、人目をしのいだ関係は続いた。1日おきに通った時期もある。理彩さんが「あなたみたいな人とつきあえば私ももっと幸せになれたのかな」と泣いた日もあった。ふたりとも、自分の心を満たすかのように相手に溺れ、濃厚なやりとりを「愛」に変換した。

 だがある日、理彩さんは部屋に入れてくれなかった。

「玄関ドアをはさんで、彼女の嗚咽が聞こえました。『やっぱりもう郁美を裏切れない』と。その後、かつて理彩が継父からのセクハラにあっていたとき、郁美が理彩の母にそれを話してくれたことに恩義を感じていると聞かされました。『さすがに母も怒って離婚した。郁美が話してくれなかったら、継父のセクハラはエスカレートして、おそらく私はレイプされていたと思う。だから郁美には恩がある』と。そう言われたらどうしようもない。理彩は僕より郁美を選んだということですから」

妻の凄みのある一言

 ある日、孝次さんが帰宅すると理彩さんがいた。郁美さんが寂しそうに「理彩が遠いところに行ってしまうんだって」とつぶやいた。遠いところってどこと言うと、理彩さんは「とりあえずアメリカかな」と笑った。

「理彩の叔母さんは結婚してアメリカに住んでいるそうで、まずは行って今後の身の振り方を考えたいと。『どうせひとり者だし、やり直すなら今が最後のチャンスだと思うの』と言っていました。『会社を辞めてまで行って何があるの? 人生なんて場所を変えれば変わるものじゃないでしょ』と相変わらず言葉は辛辣だったけど、郁美は涙目になっていました。寂しかったんでしょうね」

 理彩さんはこれから羽田空港近くのホテルに泊まると言うので、送っていこうかと言ったら郁美さんが「今、タクシーを呼んだ」と割って入った。玄関を出て理彩さんを見送りながら、郁美さんは低く「どうよ」と言った。

「ドキッとして郁美を見ると、何ごともなかったかのように普通の顔をして家に入って行ったんです。ものすごく怖かった」

 郁美さんは気づいていたのだろう。だが性格上、何ごとも大げさにはしないタイプ。だが知っていることは伝えたかったのではないか。それが「どうよ」という一言だったのだろう。

明らかに妻の精神状態は変わった

「ビビるとかえって変だから、なるべく普通に生活していますけど、ときどき視線を感じて顔を上げると、郁美がじっと見ている。目が合うとすっと逸らして何も言いません」

 表面上は普通の生活が続いている。理彩さんは来ないが、瑠璃子さん一家はときどきやってくる。他の友人が来ることもあり、一見、何も変化はない。

「だけど理彩がいなくなったことで、明らかに郁美の精神状態は変わりました。理彩は郁美の安定剤のような存在だったのかもしれません」

 自分から関係を正直に話して謝るべきだろうかと孝次さんは考えることもある。だが、今さら真実を打ち明けたところで郁美さんが救われるとも思えない。ここは「グッと踏みとどまるしかないような気がします」と、孝次さんは自分に言い聞かせるように言った。

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 秘密を抱えたまま、何も問い詰めない妻の視線におびえる孝次さん。記事前編では、彼が郁美さんと出会い、その知性と大らかさにひかれて家庭を築くまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部