【在日中国人のリアル】給料・生活環境は申し分ないが…「学力も意欲も落ちている」在宅勤務と、仲間内コミュニティ依存で、日本語を失った若手中国人SEたち
日本には現在、100万人以上の中国人が暮らしているといわれる。かつては留学や労働目的が中心であったが、コロナ禍以降もさまざまな理由で来日する中国人が増えた。なかでも、日本で働く中国人の職種として多いのが「SE(システムエンジニア)」である。中島恵氏の著書『中国人は日本で何をしているのか』(日経BP)より、日本でSEとして働く中国人2人へのインタビューを通じて、その働きぶりを紐解く。
日本のIT現場で存在感を増す「中国人SE」
日本で中国人が多く従事している職業としては、日本企業のシステム開発を行うシステムエンジニア(以下、SE)が思い浮かぶ。数年前に取材で知り合ったSEの呉一平さん(仮名)に話を聞いた。
呉さんは70年、東北部の大連市生まれ。大連の大学で機械工学を学んだあと、92年に地元の日系企業に就職した。生産管理などを担当したが、2000年に転職し、日系IT企業のSEになった。
1年後、中国の大手IT企業が募集していた日本法人のエンジニア職に応募し、02年に同期11人とともに来日した。日本語は日系企業に在籍していたときに学んでおり、日本そのものに興味もあったので迷いはなかった。
「来日後、日本企業のシステム開発などを手掛けましたが、3年ほどで転職。その後、数回転職を繰り返しました。当初は派遣社員やフリーランスで給料が安かったのですが、年金のことなどを考えて、10年前からは正社員になり、給料も上がりました」
システム開発の業務は、まず顧客企業からNTTデータやNEC、日立製作所といった大手に開発依頼があり、そこからシステム開発企業に発注が下りてくるケースが多い。システム開発企業に所属する呉さんは顧客企業に出向き、数人のチームで開発プロジェクトに参加する。プロジェクトは2年ほどで終了し、また次の案件に加わる。
SEの業務内容は主に上流(1.要件定義、2.基本設計)と下流(3.詳細設計、4.製造、5.テスト、6.リリース)に分かれる。呉さんが担当するのは主に2.から6.までだ。25年夏の取材時、呉さんが担当しているプロジェクトには10人が携わり、そのうち9人は日本人だった。だが、日本のシステム開発企業にはそもそも中国系の会社が非常に多い。呉さんの認識ではエンジニア全体の20〜30%が中国人ではないか、という。
中国人SEが増えた背景…小泉政権の「規制緩和」
なぜ中国系のシステム開発企業や中国人SEが多いのか。背景には、01年に発足した小泉純一郎政権による構造改革がある。改革の一環として進められた規制緩和により非正規労働者が増加した。大手企業はコスト削減のため、システム開発をアウトソースするようになり、02〜03年頃から低価格で開発を行う中国系企業が、まず大連などに増えていった。
日本企業のシステム開発を行うためには日本語が必須だが、大連は旧満州の一部だったという歴史的経緯などから、他地域より日本語人材が豊富だ。中国で一、二を争う日本語学科とされる大連外国語大学のほか、理工系、経済系大学もある。日系企業を中心とした開発区も90年代からできた関係で、理工系の優秀な人材が集まっている。
そのため、大連でオフショア開発(日本から海外への委託開発)が行われ、その後、日本にも大連とかかわりの深い中国人経営者によるシステム開発企業が増えた。
複数のSEの話によれば、ウィーチャットのSE業界のグループチャットの人数などから推測して、中国系システム開発企業は日本に200〜300社ほどあり、少なくとも数千人以上の中国人SEが働いているだろうという。中国にいるエンジニアも含めれば数万人規模になる。日本人経営によるシステム開発企業ももちろん多いが、そこにも中国人エンジニアは在籍している。
収入・生活環境に魅力を感じて…日本で20年働く中国人SE
もう一人、日本で約20年間、SEやプロジェクトマネジャー、システム開発企業の社長ほか、システム開発関連の仕事に従事している周碰さん(仮名)にも話を聞いた。
周さんは78年、大連市生まれ。大連理工大学を卒業後、現地の日中合弁企業に入社。半年間日本語を学んだのち日本で2年間研修。帰国後、03年に再来日して現在に至る。日本で研修した際、収入をはじめ、日本の生活環境に魅力を感じたのが再来日の動機だ。
「再来日した頃はSEの仕事がたくさんありました。当時はとても景気がよかった。私は話せましたが、あまり日本語を話せない人でも入社できました。来日後に入社した会社から別の中国系企業に転職しました。その会社は中国にエンジニアが200人、日本には50人くらいいました。現在は中国人の友人が経営する会社に勤務しています」
AIの波でますます必要になる「日本語力」
呉さんや周さんが業務上で重要だと認識しているのは日本語力だ。日本人顧客を相手とするSEは、相手の要望をしっかり理解してシステム開発を行わなければならない。
2人とも非常に流暢な日本語を話すため、日系、中国系、どちらの会社にも転職できる。呉さんによると、中国人SEは母国でITを学んだ人が多いが、大学で文系(たとえば日本語学科出身)だった人が、あとからITを学び、来日して活躍しているケースもあるという。
周さんは「(日本での)研修では、日本人が技術的なことを手取り足取り教えてくれました。それだけでなく、日本語の先生は仕事以外の日本人の生活習慣、食事の作法なども教えてくれました。それがいま、とても役に立っています」という。
中国人SEにとって、日本語力はさらに重要度が増している。システム関連の業界は、企業の予算削減なども影響し、新規のプロジェクトが減っている。さらに日本人SEの減少、AI(人工知能)による定型業務の代替などにより、今後は前述の「要件定義」ができる中国人が必要とされる、と周さんは語る。
要件定義は顧客とコミュニケーションしながらシステムの内容を詰めていく作業のため、AIが代替できない重要な工程だ。しかし、「コロナ禍の少し前からSEの日本語力が低下してきている」と周さんは懸念する。
「在日中国人が増え、自国の人とばかり接する人が多いため、日本語を使う機会が相対的に減っていると思います。また、以前と比べると、エンジニアの学力や意欲も下がってきている」と周さんは実感している。
さらにコロナ禍以降、在宅勤務が増え、チームメンバーとのコミュニケーション量が減ったことも影響しているという。SEに限らないが、周さんは「仕事では、人と人の信頼関係がいちばん大事。私たちの場合は日本語ができないと話にならない」と指摘する。
中島 恵
ジャーナリスト

