「あと4年いれば1億円ですから…」年収850万円の56歳大手会社員、17時半・定時ジャストで軽やかに帰路。若手社員の冷たい視線にも「だからなに?」の理由【CFPの助言】
50代後半を迎え、役職定年になると社内での立場は多かれ少なかれ変わるものです。その変化への対応も人それぞれ。「まだまだ現役だ」とやる気を見せる人がいる一方で、周囲の目を気にせず割り切って働く人も。増田さん(仮名)も、かつてはプライベートを削ってバリバリ働いていた管理職でしたが、今は毎日定時で退社の日々。その裏側にある“戦略”とは? トータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が詳しく解説します。
定時退社を貫く56歳、陰口を叩かれても「だから?」
「絶対定時に帰るし、今じゃ何をしているかよくわからないよね。少し前まで、バリバリ働いてたのにね……」
若手社員から陰でそんなことを言われているのを知りながら、「だからなに? という気持ちです。気になりませんよ」と淡々と話すのは、都内の大手メーカーに勤める増田健二さん(56歳・仮名)です。
1年前に55歳で役職定年を迎えると、仕事量は大きく減り、残業もほぼゼロに。いまでは毎日17時30分の定時ジャストに会社を出ます。同じように役職定年を迎えた社員の中には、「まだまだ貢献できる」と残業する人もいますが、増田さんはどこ吹く風です。
「生活費を稼ぐために必死に働く時期は、もう終わりましたから」
増田さんがそう言える理由。それは、すでに潤沢な資産を築き上げているからです。
妻と二人、30代から毎月10万円ずつ積立投資を続け、ボーナスの一部も投資信託で運用してきました。35年で組んだ住宅ローンは繰り上げ返済を進め、53歳で完済。教育費が終わった50代以降は、毎月15万円以上を資産形成に回せるように。
その結果、現在の金融資産は、預貯金約2,200万円、投資信託約3,900万円、個人向け国債など約700万円の合計約6,800万円です。相場の追い風もあり、長年の積立が資産形成につながったのです。
毎月の生活費は約28万円。仮に65歳の年金受給まで残り9年間、この生活を続けた場合の総支出は約3,000万円。突発的な支出を多めに見積もって3,500万円と仮定しても、現在の資産から差し引いて3,000万円以上が残る計算です。
計算上は、今すぐ退職しても「逃げ切り」は可能そうです。周囲から陰口を叩かれながら会社にしがみつく必要はないようにも思えますが、そこには増田さんならではの“綿密な計算”がありました。
60歳定年までに「夢の1億円」へ…会社員でいる“莫大なメリット”
「今辞めても生活はできると思います。でも、会社員という立場は、思っている以上に便利なんですよ」
実際、定年の60歳まで約4年残るメリットは莫大です。
役職定年後は残業がほとんどないため、精神的・身体的な負担は以前より大幅に軽くなっています。その一方で、増田さんの現在の年収はピーク時から3割減でも850万円。4年間勤務した場合、税金や社会保険料を差し引いても、手取りでおよそ2,300万〜2,500万円程度の収入が見込めます。
さらに、60歳まで勤務することで約2,200万円の退職金を受け取れる予定(=手取り)。つまり、あと4年間会社に在籍するだけで、手取り給与と退職金を合わせて約4,500万円前後の資産増加が期待できます。一方、56歳で退職した場合、この給与収入は得られません。退職金も勤務年数に応じて減額されるので、数百万円以上少なくなる可能性があります。
会社を辞めると社会保険制度も変わります。
勤務中は会社と折半している健康保険料や厚生年金保険料ですが、退職後は国民健康保険や任意継続被保険者制度への加入を検討することになります。健康保険料は自治体や前年所得によって異なりますが、年収850万円程度の人では年間50万〜80万円程度になるケースもあります。また、60歳前に退職して厚生年金に加入しない期間が生じれば、その間は国民年金(2026年度の保険料は月額1万7,920円)への加入が基本となります。
さらに、厚生年金への加入を4年間続けることで、将来受け取る老齢厚生年金は年間で約8万〜12万円程度増える可能性があります。65歳から20年間受給するとすれば、生涯では約160万〜240万円程度の差になる計算です(日本年金機構の年金額計算の考え方を参考にした概算)。
これらをすべて足し合わせると、おおよそ下記のようになります。
・目先4年間で増える資産(手取り+退職金):約4,500万円
・社会保険料や将来増える年金:約460〜640万円
→実質的な総メリット:約5,000万円
「あと4年いれば、資産は1億円を超える見込みです。まさに“悠々自適の老後”が現実になるんですよ。60歳になったら雇用延長はせずに、きっぱりリタイアする予定です」
生活のために辞められないのではありません。増田さんは、会社員のメリットを最後まで受け取る方が合理的だから、あえて辞めないのです。
専門家の視点|「辞められること」と「辞めること」は別の選択
増田さんが決めたのは、辞めることではなく働き方を変えることです。失った役職にしがみつかず、無理な残業はせず、休日まで仕事を持ち帰ることもありません。「評価されたい」というフェーズを終え、あと4年は淡々と割り切って仕事をすることに決めました。
職場環境が心身に悪影響を及ぼしている場合は、無理をする必要はありません。 しかし、「会社なんていつでも辞められる」と思える状態になると、不思議と会社への不満は減ることがあります。仕事量が適度で、人間関係にも大きな問題がないのであれば、「辞められるけれど、あえて辞めない」という選択肢は十分合理的です。
「会社を辞められるだけの資産があるなら、すぐに退職したほうがよい」と考える人もいるかもしれません。しかし、給与や退職金はもちろん、厚生年金に加入し続けることで将来受け取る年金額が増える可能性があるほか、健康保険による保障、有給休暇、福利厚生なども利用できます。また、毎日の生活リズムや社会とのつながりを維持できることは、お金では測れない価値といえるでしょう。
資産形成を終えると「社会とのつながりを持つために働く」という考え方に変化する人もいます。総務省「労働力調査(2015年)」では、60〜64歳の就業率は約75%まで上昇しており、多くの人が定年後も働き続けています。収入だけでなく、生きがいや社会とのつながりを求めて働き続ける人も少なくありません。
いずれにしても、目指したいのは「生活のために辞められない」のではなく、「自分の意思で続ける、あるいは辞める」という選択肢を持つことです。経済的な安心と心のゆとりの両方を意識しながら、これからの働き方を考えてみてはいかがでしょうか。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®

