プールの水の止め忘れは“自腹”なのに…同じ過失でも学校で自分の洗濯物を乾かして火事を起こした非常識な教師が「損害賠償責任を問われないカラクリ」
東京都北区の小学校で発生した火災は、音楽教諭のとんでもない“日常”が招いた結果だったことが判明した。朝6時に出勤し、学校で私服の洗濯をしていたというのだ。損害は数十億円規模になる見通しだが、音楽教諭の賠償責任はどうなるのか。専門家は「問われない可能性が高い」と話すが、いったいどうして…。
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学校で私物を洗濯していた驚きの実態
「音楽準備室でストーブを使って洗濯物を乾かしていたことは、割と初期の段階でわかっていました。ずっと謎だったのは洗濯物が何だったのかという点。以前、学校が行った会見で、音楽準備室に金管バンドの制服があったという話は出ていましたが、洗濯物はそれとは別物ではないかと見られていた」(社会部記者)
その謎は、7月2日、学校が開いた3回目の会見でようやく解けた。避難する際に転落して腰椎を骨折して入院していた音楽教諭は、学校側の聞き取りに、「自宅から自分の洗濯物を学校に持ち運び、校舎1階にある家庭科室で洗濯してから4階の音楽準備室で乾かしていた」「洗濯物を乾かすのに使っていた電気ストーブは自宅から持ち込んだ」と語っているというのだ。

「会見で『なぜ私服を学校で洗濯していたのか』と問われた校長は『わからない』と答えました。自宅に洗濯機がないのか、水道代をケチりたかったのか…。おそらく日常的にやっていたのでしょう。毎朝6時に出勤していたというので、他の教員たちは誰も気づかなかったようです」
電気ストーブに衣服が落ちたとしても、直ちに火が出るとは言いにくい
今後、このトンデモ教師にはどのような責任が問われるのか。あつみ法律事務所代表の渥美陽子弁護士に話を聞いた。まず刑事責任について。渥美氏は失火罪に問われる可能性が高いと語る。
「重過失失火罪が適用される可能性が決してないわけではないですが、重過失というのは、『ほぼ故意』と同視していいくらいの重い過失です。具体的に例を挙げると、石油ストーブの近くで服を今にも落ちそうな状態で乾かしていたとか、石油ストーブに石油を入れる際、タバコを吸いながら作業していたとか、寝タバコをしていたとか…。“そんな危ないことをしていたら、当然火事になると予見できたでしょう”と指摘できる場合に適用されます。今回、洗濯の乾燥に使われたのは電気ストーブとサーキュレーター。電気ストーブに衣服が落ちたとしても、直ちに火が出るとは言いにくい。失火罪で書類送検されても、人命に被害が出ていないことを考慮し、不起訴になったり、起訴されたとしても、数十万円の罰金刑で済まされたりする可能性が高いと思います」(渥美氏、以下同)
問題は民事上の責任である。北区は校舎を建て替える方向で検討しており、仮校舎の移転なども含めれば、発生する費用は数十億円に達する可能性がある。
ここで比較したいのは、これまで全国で多発してきたプールの水の止め忘れ事故である。2023年、川崎市の市立小学校で教諭のミスで6日間流れ続けたケースでは、損害は約190万円に上り、市は損害額の5割にあたる約95万円を教諭と管理責任者である校長の2人に請求した。この事案に限らず個人に損害賠償を問うことが定着している。
今回の火災もプールの水の止め忘れと同様、故意ではなく過失だ。だが渥美氏は、今回のケースでは賠償請求がされない可能性が高いと話すのである。
明治32年に制定された「たった一行の条文」に救われる?
「過失により他人に害が発生した場合は、民法709条に基づく不法行為責任を負うのが原則です。しかし、失火による火災の場合は、失火責任法によって免責されます」
下記は失火責任法の条文だ。
〈民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス〉
「明治32年に制定されたたった一行の条文です。失火が過失だった場合、つまり先ほど挙げた、石油ストーブの近くで服を今にも落ちそうな状態で乾かしていたなどの重過失でない限り、不法行為に問われないことになります。炎はその燃え広がるという性質上、延焼により損害が膨れ上がる可能性があり、巨額な賠償責任を個人が負わなければならなくなるので、単純な過失については免責しようという考えです」
こう聞いても釈然としない人は多いのではないか。どちらかと言えば、プールの水の止め忘れは誰もがやってしまいそうなミスだ。自宅でやるべき洗濯を学校でやっていた音楽教諭の方がよほど悪質で、損害もはるかに大きいのに不平等ではないかとどうしても思ってしまうが、
「プールの方では、失火責任法のような単純な過失を免責する法律がないだけの話です。法律上の立て付けがそうなっているとしか言いようがありません」
水と火の特性の違いで、法的責任にかくも大きな格差が生じてしまうのである。
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デイリー新潮編集部
