■SNSで広まった保護者の怒り

中学3年生の課外授業と称して、子供たちにアブノーマルな性教育が施され、その教材がポルノ雑誌となれば、保護者が怒り出すのも無理はない。

写真=iStock.com/oceane2508
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oceane2508

今年の4月、ドイツのザクセン州というところのオーバーシューレ(日本の小学校5年から高校までが一緒になった学校)で、本当にそれが起こった。今回は、保護者の怒りの声がSNSで広まり、私の耳にも入ったが、その後の政治家やメディアの動きを見ていると、一つ間違えば、もみ消されていても不思議ではなかった気がする。ドイツの教育は一体どうなっているのか?

詳しくはこうだ。問題が起こったのは公立の学校で、3月、そこの9年生(14〜15歳)の生徒に、外部のNGOが、民主主義教育のためと称して演劇ワークショップ(「勇気(Mut)」をテーマにしたもので、そもそも性教育の一環ですらない!)を実施した。

ところが、ベルリンからやってきた2人の女性講師(!)が配布した資料のなかに、『Queer Sex(クィア・セックス) あなたの好きにして!』というタイトルの18禁ポルノ雑誌が含まれていたというのだ。

『QUEER SEX whatever the fuck you want!』(Print Matters)

Queerとは、LGBTQ+のQ(クィア)で、伝統的な性二元論に当てはまらない全ての性的マイノリティを指す。

雑誌には当然、本稿では絶対に書けない男性同士の性行為の写真や、性器が写ったものなど、エグい写真が載っていたわけで、子供たちからそれを聞いた保護者は怒り心頭。学校に抗議した結果、これがSNSで全国に知れ渡ったというわけだった。

当然、州の教育省もこの事件を重く見たし、警察も捜査に入った。

一方、NGOは「このような資料が学生の手に渡ってしまったことを深く遺憾に思います」と事実を認めているものの、雑誌はコラージュ制作用に提供された寄付の雑誌類に「紛れ込んでしまった」もので「不適切な内容が含まれていることに気づかなかった」と意図的ではなかったと釈明している(NGOが公表した声明文)。

意図的であったかどうかはさておき、授業の一環として未成年にポルノが配布されるという重大事案にもかかわらず、この件を取り上げた主要メディアは数えるほど。その中の一つが、ドイツの主要紙の中では珍しい保守系の新聞、Die Welt紙だった。

当該の記事のリードは、「ザクセン州の学校で発生した事件を受け、警察は女性容疑者2人を捜査中。演劇プロジェクトの一環として、9年生の生徒たちにポルノを見せた容疑。このプロジェクトは、過去に何度も批判を受けてきた財団から資金提供を受けている」。

写真=iStock.com/Leesle
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■NGOを支える“財団”の正体

この“授業”を行なったNGOは「ドイツ社会主義青年団・ディ・ファルケン」といって、名前の通りの左派組織だ(ファルケとは鷹のことで、ファルケンはその複数)。

そして、重要なのは、この団体が「アマデウ・アントニオ財団」のいわば下請けとして活動していたこと。この財団が、DieWelt紙のいう「過去に何度も批判を受けていた財団」である。

「アマデウ・アントニオ財団」というのは何かというと、「民主主義の防衛」を掲げ、「反差別」や「多様性」や「LGBTQ」の推進のために活動している有名な組織だ。

ちなみに、ほとんどの大きな財団は、思想的に近い政党と協働関係にあるのが常だが、「アマデウ・アントニオ財団」は緑の党と強力な共生関係にあることで知られている。

なお、資金の大半は政府からの補助金で、「アマデウ・アントニオ財団」には、直近では年間600万〜900万ユーロ(11億〜16億円)が流れ込んでいると言われる。つまり、国民は自らの税金で間接的にこの財団を支援させられているわけだ。

■お金の流れはどうなっているのか

ただ、政府のお金がそのまま同財団に流れているわけではもちろんなく、政府は2015年、まず、「Demokratie leben!(上手く訳せないのだが、イメージとしては、“民主主義を生きよう!”と呼びかける感じ)」と称する国家プロジェクトを立ち上げた。

具体的には、「民主主義を生きよう!」プロジェクトには、家庭省の予算から補助金が出る。当初の補助金は年間4050万ユーロだったが、直近ではそれが、なんと5倍以上の2億ユーロ(現行レートで370億円)に膨れ上がっている!

いつ、補助金が急増したかというと、家庭省の大臣がCDUから社民党に変わってからで、2017年、社民党の家庭相の下、補助金は突然2倍以上に膨らんだ。そして、以後、昨年まで、同省はずっと社民党、さらには緑の党が握り、「民主主義を生きよう!」の補助金も増え続けた。

「民主主義を生きよう!」はそのお金を、“民主主義の防衛に貢献する”各種NGOや市民団体に分配する。当然、緑の党と関係の深い「アマデウ・アントニオ財団」にも、このお金が潤沢に流れる。そして、それがさらに下流の、「ディ・ファルケン」のような私たちが名前も知らなかったような下請けNGOまで潤しているのだ。

■「民主主義を生きよう!」もう一つの目的とは

ただ、そんなお金の流れも、ましてや左翼NGOが、さまざまな左派思想を子どもたちに刷り込んできたらしい実態も、国民にはほとんど知られていなかった。今回、たまたま「ディ・ファルケン」がポルノ雑誌を使うなどというヘマをしたため、それらが唐突に日の目に晒されることになったわけだ。

政府が「民主主義を生きよう!」を組織した理由は、実は他にもあった。

当時、どんどん支持率を伸ばしつつあったAfDを、それ以外の全ての党が超党派で、どうにかして“合法的に”潰そうとしていた。そのために、彼らは「民主主義を生きよう!」で、せっせと「AfDは民主主義ではない」、「AfDは民主主義を破壊しようとしている」と喧伝した。さらに、「民主主義の破壊者を議論に参加させてはいけない」とし、AfDから反論や討論の場を奪った。

そして、反AfDの気運を懸命に高めようとしたが、しかし、AfDはなかなか潰れなかった。

そこで政府はさらにアマデウ・アントニオ財団に、ジェンダーや、LGBTQなどに反対する人を告発するためのプラットフォームという機能を与えた。前述のDie Welt紙が「過去に何度も批判を受けていた財団」と言うのは、おそらくこのことを指している。なぜなら、これはすなわち密告の勧めであるからだ。

それどころか、当時の家庭相は、「たとえ合法の範囲であっても、そこに敵意が含まれているとかヘイトであると感じた場合、また、嫌な思いをした場合は、躊躇せずに通告するように」と宣伝していた。

それにより、伝統的な家庭観を重んじたり、「性は男女2つしかない」と主張した人たちが、そのために「傷ついた」とか「差別だ」と感じた人たちによって告発されるようになった。そして、「民主主義を生きよう!」が、その件を深刻な問題だと思ったら、裁判沙汰に発展した。

ただし、左翼は何をしても、決して告発されることはなかったのだ。これが民主主義だろうか?

■「一地方の事件を、政治利用している」

冒頭の中学校ポルノ事件に話を戻すと、この事件のあったザクセン州がたまたま自分の選挙区であるAfDのクルパラ党首が、国会でこの事件に言及した(曲がりなりにも警察の捜査の入っている事件である)。

すると、他党の議員たちは、ポルノを未成年に見せたことは間違いだったとは認めつつも(そう言う以外にないだろう)、「一地方の事件を全国に広めて、それを政治利用しているAfD」を強く非難した。要するに、悪いのはいつもAfDだった。

なお、公共放送の7時のZDFのニュースも、8時のARDのニュースも、この事件を取り上げなかった。理由は簡単。公共メディアを牛耳っているのは左翼だからだ。ドイツと日本のメディアは非常に似通っている。

ちなみにアマデウ・アントニオ財団は緑の党と近いと言ったが、CDUに近い財団は「コンラード・アデナウアー財団」で、資金のほぼ100%が税金。社民党と近い「フリードリヒ・エバート財団」も、やはり資金の95%が税金だ。

一方、AfDに近い財団としては「デジデリウス・エラスムス財団」があるが、ここにだけは政府は1ユーロも出していない。社民党、緑の党、CDUなどが皆で、AfDは違憲の可能性があるという理由でブロックしているからだ。公式政党であり、国会で多数の議席を持っているAfDを締め出す理由として、「違憲の可能性」が通用してしまうのだから、これも恐ろしい。

■すべてのスポンサーは国民である

AfDは去年あたりから、「特定の思想を広めている団体に政府が巨額の補助金を流し続けるのはおかしい」として、財団やNGOに対する補助金全額カットを求めている。

米国ではすでに同じ理由で、トランプ大統領とイーロン・マスクUSAID(米国際開発局)の閉鎖や改革を断行した。ドイツメディアは、当然、この動きを強く批判している。

いずれにせよ、ドイツには、民主主義の拡大や人権擁護などを理由にした使途不明金が多すぎることは、すでに何度も指摘されている。ただ、いくら憤慨してみても、元を正せば原資は税金。つまり、この使途不明金も、公立学校での疑問符のつく教育も、そのスポンサーは国民なのだ。

多くの国民がこれに気づきさえすれば、政府主導の国家プロジェクト「民主主義を生きよう!」など、ブラックジョークに格下げされるだろうと、私は確信している。

写真=iStock.com/querbeet
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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。
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作家 川口 マーン 惠美)