【内田雅也の追球】甲子園野球の同点劇
◇セ・リーグ 阪神3―2中日(2026年6月30日 甲子園)
阪神・森下翔太の同点18号、サヨナラ19号はいずれも左翼席にライナーで運ぶ見事な本塁打だった。一発の威力を見せつけたわけだが、ここで注目したいのは8回裏の同点劇である。
相手投手は3番手の左腕・吉田聖弥。1死から森下が死球、佐藤輝明が四球で歩き、2死後、浜田太貴が一塁手の後方に落とす適時打を放った。
監督・藤川球児は常に「甲子園の野球」をテーマに掲げている。本塁打の出づらい本拠地・甲子園球場では投手を含めた守りと、打線のつながりを重んじる。そのつながりで奪った1点だった。
連続死四球は単に得たわけではない。強打者の無言の圧力が相手の脅威となっていた。
森下の死球は0ボール2ストライクから胸元への直球が当たった。リーグ最多の森下の死球は早くも10個目となった。強打を封じようと、より内角を厳しく突こうとした結果だろう。さらに死球後も恐れず、踏み込んでいく勇気が垣間見える。
1死一塁。佐藤輝は初球、外角低めワンバウンドのカーブを豪快に空振りした。この空振りが相手のおそれを呼んだのか。フルカウントから外角低めの際どい直球を見極めて四球を選んだ。
何度か書いてきたが、佐藤輝は年々、強引さを戒め、打席での自制心が優れてきた。一発長打で決めようとせず、後ろにつなぐ意識が見える。
四球は38個目でリーグ4番目に多いが、死球は一つもない。昨年もゼロだった。森下の内角攻めとは反対に相手投手は外角球でかわそうとしているのか。内角高めを本塁打する技術が内角攻めを減らしているのか。とにかく対照的である。
浜田の同点打は変化球で追い込まれた後、内角直球を詰まりながら振り抜き幸運を呼んだ。藤川は「泥くさいですけど、この甲子園で野球をするにおいては非常にありがたい1本」とたたえた。
わずかながら「甲子園の野球」はできた。「四球で塁に出るなど、いろんな攻撃の仕方がある。ビジターで長打が出やすい球場で試合をした後に(甲子園で)違う野球に変えなければいけない難しさはある」
六月三十日(みそか)は年のへそという。1年の折り返し点だった。シーズン約半分の70試合を消化した。いま一度、年のはじめ、開幕前に描いた目標を思い返す時かもしれない。試合後、雲に隠れていた満月が顔を出していた。 =敬称略= (編集委員)

