沖田修一監督、初の本格小説『さとこはいつも』刊行 映画では描けなかった“さとこ”たちを執筆
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本作は、監督デビュー20周年を迎えた沖田監督が手がける完全オリジナル作品。映画の脚本執筆を進める中で、「脚本には書き切れない『さとこ』たちがいた」と感じたことから、ノベライズではなく、一から小説として書き下ろした。
小説でも3人の視点から物語が展開。塩辛への愛、初恋、不倫、家族など、それぞれが抱える思いを通して、「書かずにはいられない物語」が描かれる。
沖田監督は刊行にあたり、「きっかけは映画でした。三人の『さとこ』という女性が物語を書こうとするお話。その脚本を書いていると、どうしても彼女たちが書いた中身までは描けず、悶々としていると、それならもういっそのこと小説として書いてやれ、と思い立ちました」と執筆の経緯を説明。
続けて、「映画のノベライズというのがどうしても我慢できず、この物語に登場する彼女たちのように、新しい気持ちで一から小説を書いてみたいと思いました。書きたいけど、あんまり上手く書けない、どこにでもいそうな普通の人の気持ちを書きました」と明かし、「映画と一緒に楽しむでももちろんいいですし、この小説だけでも楽しんでもらえると思います」と呼びかけている。
あわせて、小説第1章「初恋とネブライザー」の冒頭も公開。主人公・聡子が耳鼻科でネブライザーを受けながら、ソフトボールや高校受験、友人との関係、そして「塩辛」のことをぼんやり考える場面が披露され、沖田監督らしいユーモアと温かな視点が垣間見える内容となっている。
■小説版『さとこはいつも』あらすじ
中井聡子、中学2年生。じりじりと迫りくる高校受験を薄目で見ながら、昼休みには屋上で友人たちと恋バナに花を咲かせ、放課後になれば、渋々入ったソフトボール部で嫌々ライトを守る(※ボールが飛んでくると逃げる)日々だ。
西田沙都子、35歳。韓国カルチャーと姪っ子をこよなく愛し、映画配給会社でしゃにむに働く。隠れた名作を世に広めたい! という初心はどこへやら、山積みの仕事に忙殺され、現実を知るうち、無難でより広くウケそうなコピーばかりひねり出すようになってしまった。
飯島里子、55歳。毎朝3人の息子のお弁当作りに精を出し、あっという間に20年が経った。三男の最後のお弁当の日、家族は誰もそのことに気が付かない。ふと顔を上げれば、読書好きだった学生時代に抱いていた小説家の夢もはるか遠くに。
塩辛への愛に初恋、不倫、家族。彼女たちには、書かずにはいられない物語があった――。
■目次
初恋とネブライザー
おでんにはもってこいの日
小鳥と雪の本屋さん
■第1章「初恋とネブライザー」より冒頭を一部公開
聡子はいつも、考え事をすると口が半開きになる。それは幼いころから患っているアレルギー性鼻炎が原因だ。小学生の頃から近所の大江耳鼻科に通い、中学生になった今も、月に二、三回は必ず行くようにしている。
昔は棒みたいに細いおじいちゃんの先生が診てくれていたが、聡子が中学生になると、巨漢の息子が、その棒先生にとって代わった。
診察料は決まって580円。診察の最後に行うネブライザーの代金と言っていい。
(中略)
聡子は昔からこのネブライザーが嫌で嫌で仕方なかったが、そのうち慣れてくると考え事をするのにもってこいの時間だと気がついた。今や大事な瞑想の時間になっている。
全く上達しないソフトボールのこと。ソウルメイトのかなぶんがどんどんギャルになっていく件、嶋っちょのコスプレ問題、差し迫る高校受験のこと、などなど。シリコン製の鼻ノズルを装着しながらそんなことを鬱々と考えていると、やがて半開きの口から水蒸気となった薬品の真っ白な煙がモクモクと浮かび上がり、吹き出しのように宙を舞った。
今日、考えているのは、主に塩辛のことだった。
続きは近日公開予定。
