サッカー日本代表を一人で撮り続ける、作品作りを通して見えた選手たちの意外な素顔…鎌田大地の予言とは
サッカー日本代表の活動に長期間にわたって密着しているクリエイターがいる。
ニュースとして報じるメディアとはやや異なる角度から一人でカメラを回し続けてきたその人が、映像制作を通じて目にした「サムライブルー」の姿とは。(デジタル編集部 古和康行)
空白地帯にぽつんと1人
ずっと1人で撮影している。
「報道」の現場にはおおむね2パターンの人しかいない。新聞や雑誌、ウェブサイトなどの媒体を持つ会社に勤めている人か、フリーランスのジャーナリストだ。サッカー日本代表の取材現場も基本的に同じで、メディアに所属する人は同業者同士で集まりがちだし、フリーランスの人もフリーランス同士でコミュニケーションを取ることが多いようだ。そんな中で、この人だけは少し異質だ。
テレビプロデューサーの岸枢宇己さんは、サッカー日本代表を初めて映画化した作品「ONE CREATURE」の監督でもある。今大会も日本代表の活動を取材中だ。

「ONE CREATURE」は、日本サッカー協会(JFA)が撮りためたサッカー日本代表に密着する企画「チームカム」の100時間以上にわたる映像と、岸さんが撮影した映像やインタビューを基に構成されている。今大会までの軌跡を追った作品は今月上旬から劇場公開中だが、現在は「その後」の活動を追って同行を続けている。岸さんの定位置は報道陣よりはちょっとだけ選手に近く、でも、チームスタッフとやりとりすることはできない。そんなメディアの空白地帯に身を置き、たった1人で撮影している。
日本代表の「細胞」は入れ替わる
「アクシデントがいっぱい起きてますからね。でも、それをものともしないところが強いなと思いました」
三笘薫(ブライトン)と南野拓実(ASモナコ)のけが、遠藤航(リパブール)の代表離脱、そしてW杯初戦での久保建英(レアル・ソシエダード)の負傷交代……。そんな不測の事態に対応しながら、日本代表は戦ってきた。
「ONE CREATURE」。日本代表がひとつの生きもののように動いているということを表現したタイトルだ。今大会での撮影を通じても、「やっぱり、日本代表は1つの生きものみたいに感じます。すごく大切に思えた細胞が欠けても、新しい細胞が生まれていく。形を変えながらも『サムライブルー』という核の部分は変わっていかない、まったく弱まらないですよね」。

細胞が入れ替わるとは、どういうことか。自身も幼い頃からサッカーに没頭し、テレビマンとしてサッカー日本代表の検証ドキュメンタリーなどを手がけてきた岸さんは「森保監督はある程度、こういった事態すらも予想してポジションを固定しなかったのでは」と推測する。
「オランダ戦では、前田大然がそれまでほとんど見なかった左シャドーで起用された。端から見ると突然やったように見えるかもしれないけれど、すでに何度もシミュレーションをしていて、内側ではどんなことでも対応できるような準備をしているのだなと感じた」と話す。そうした「対応力」が”細胞”の動きを活性化させている。
「今の日本代表には可能性がある」
岸さんには、選手との印象的なやりとりがある。映画でもインタビューに応じている鎌田大地(クリスタルパレス)を取材した時のこと。過去に何度も白星を逃し、「1次リーグの鬼門」とされていた2試合目について、チュニジアとの第2戦を前に質問すると、「絶対に大丈夫。4年前はW杯が初めての人が多かったけれど、今回はみんながどう対応すればいいか分かっている。絶対的な自信がある」と言い切って去っていったという。
実際、チュニジア戦では鎌田が先制点を挙げ、日本代表は勝利した。「有言実行ですごいな」と思い、話を聞こうと試合後に声をかけたら「『またですか』と嫌そうな顔をされた」。ただ、「それでも取材には応じてくれる。誠実な人なんだなと思いました」と明かす。
映画をめぐって選手からはこんな反応もあったという。「『(映画のお客さんが入るかどうかは)自分たちの結果次第ですよね、自分たちが頑張ればたくさんの人が作品を見てくれると思う』と言ってくれた選手がいました。もちろん彼らは映画のために頑張るわけじゃないのだろうけれど、そういう言葉はうれしいですよね」

チームスタッフとも、報道関係者とも違う角度で、日本代表の選手と接してきた岸さん。メキシコ・モンテレイでチュニジア戦を取材した時のことが印象に残っているという。「地元の人たちが本当に日本を応援していました。サポーターが掃除をして帰るということだけじゃなくて、サッカーの内容で世界のサッカーファンを魅了するようになったら本物です」とした上で、「今のチームはそうなれる可能性がある。もし負けたとしても、『日本のサッカーが良かったね』と世界で言ってもらえるサッカーをしてほしい」
誰とも交わらず、たった一人で。でも、みんなより少しだけ近くで。日本代表を「作品」に仕上げた唯一のクリエイターは、サムライブルーにそんな夢を抱いている。
プロフィル
古和康行(こわ・やすゆき) 読売新聞デジタル編集部記者。2013年入社。中部支社編集センター、岐阜支局、社会部を経て現職。「読売新聞オンライン」を中心にウェブ記事の取材・執筆・編集を行う。これまでにスケートボードやダンス、アイドル、ヒップホップなどストリートカルチャーを取材してきた。音楽の仕事ではオシャレなフリーランスの人と接することが多く、なるべくかっこつけて現場に入る。

