(※写真はイメージです/PIXTA)

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親が高齢になるにつれ、子どもにとって避けて通れない課題となるのが親の“終の棲家”です。「老人ホーム」とひと口にいっても、近年はサービス内容やかかる費用が多様化し、どこを選べばいいのか迷ってしまう人も多いでしょう。しかし、外観の美しさやパンフレットの甘い言葉だけで施設を選んでしまうと、入居後に取り返しのつかない事態に陥ることも……。80代の母親と50代の娘の事例を通して、後悔しない「老人ホーム」選びのポイントについて、介護施設で勤務していたFPの武田拓也氏が解説します。

母親の“終の棲家”に「高級老人ホーム」を選んだワケ

関東近郊に住むカナさん(仮名・56歳)は、頭を抱えています。地方に住む母親・サトコさん(仮名・82歳)が、自宅でボヤ騒ぎを起こしたというのです。

夫を亡くしてからというもの、実家の戸建てで一人暮らしを続けていたサトコさん。幸い大事には至りませんでしたが、「母親を一人にさせてはいけない」と痛感したカナさんは、サトコさんのために施設探しをすることにしました。

いくつか資料を取り寄せるうち、ひときわ目を引いたのがカナさんの住まいの近くにある「高級老人ホーム」でした。

早速母親を連れて見学に行くと、洗練された内装と最新の設備、そして笑顔で丁寧に対応してくれるスタッフにサトコさんもすっかり魅了された様子です。

サトコさんには月約12万円の年金のほか、亡き夫がのこした遺産もあるため、経済的には余裕があります。「ここなら安心して母を任せられる」と確信したカナさんは、決して安くはない入居一時金を支払い、手続きを進めました。

実際に入居してみると、母親は「まるでホテルみたい。快適よ」と満足げ。カナさんも肩の荷が下りました。

しかし、悲劇は入居から1年が経過したころに突然訪れました。

母親からのSOS…急いで駆けつけた娘が目にした“衝撃の光景”

「知らない人が勝手に部屋に入ってくるの。怖くてたまらない」

ある日、母親から震える声で1本の電話が入りました。あわてて施設へ駆けつけたカナさんは、目を疑う光景を目撃します。

「……なにやってるんですか!?」

なんと、母親の居室でクローゼットを勝手に開け、衣類を物色している見知らぬ高齢の女性の姿が。声をかけて退室を促しても、言われていることが理解できないのか、女性はきょとんとした表情のままです。

サトコさんに話を聞くと、数日前には別の入居者が母親のベッドで勝手に眠っていることもあったそうです。実は、これらの迷惑行為の犯人は最近入居してきた認知症を患う入居者でした。

怒りに震えるカナさんは、すぐさま施設長に猛抗議を入れました。

「高い費用を払っているのに、どうしてこんなことが起きるんですか?」

すると、施設長は申し訳なさそうに言いました。

「本当に申し訳ありません。ここ1年で入居者が増えて満床になったのですが、その分業務負担が増え、スタッフの離職が続いてしまって……。募集はかけているのですが人手が足りず、見守り体制が追いついていない状況で」

サトコさんが入居したころはオープンしたばかりで入居者も少なく、スタッフの目も一人ひとりに行き届いていました。しかし、満床になったとたん現場はパンク。

さらに、「身体拘束」などの観点から居室は内側からしか施錠できないようになっていますが、地方の実家暮らしが長かったサトコさんには施錠の習慣がなく、結果として認知症の入居者が簡単に入れる状況になっていたのです。

「安全と安心を買ったつもりだったのに……これでは自宅にいたほうがまだマシだ」と、カナさんは自分の選択を激しく後悔しました。

施設選びで失敗しないための「3つ」のポイント

今回の事例は決して他人事ではありません。カナさんが失敗してしまった最大の原因は、施設の「もっとも条件がいい状態」だけを見て判断し、「満床時のリアルな介護現場」を予測できていなかった点にあります。

オープンしたばかりの高齢者施設は、入居者が少ないためスタッフの人数に余裕があり、手厚いケアを受けられます。しかし、これはあくまで“オープン直後だけの特別な状態”です。また、開業当初はスタッフのモチベーションも高く余裕がありますが、入居者が増えて業務量が膨らむにつれ、離職が続く場合もあります。

では、施設を選ぶ際になにを基準にすればよいのでしょうか。

1.「重要事項説明書」を確認する

まずは、契約前に必ず「重要事項説明書」を確認しましょう。ここには、施設概要や職員体制、入居者の状況など、施設の「運営の実態」が記載されています。

2.「有資格者」の割合を確認する

見学時には、スタッフの総数だけでなく、そのなかに「介護福祉士」などの国家資格を持つ職員がどれくらいいるかを確認するようにしましょう。

有資格者の割合が高い施設は、知識と経験に基づいた適切なケアや認知症ケアのノウハウを持っています。反対に、無資格のパートや派遣スタッフばかりで回している施設は急なトラブルや徘徊などに適切に対応できないリスクが高まります。

3.「満床時」を想定した見学と質問を行う

もし見学に行く施設がまだ満床でない場合は、担当者に次の質問をしてみてください。

「現在、入居率は何割ですか?」

「満床になったとき、夜間の見守りスタッフは何名体制になりますか?」

「認知症の方が徘徊された場合、他の入居者のプライバシーや安全はどのように守られますか?」

この質問に対して明確なマニュアルや対策を即答できない施設は、満床時に現場が疲弊する可能性があります。また可能であれば、すでに満床に近い同系列の施設を見学させてもらうのもひとつの手です。その場所の空気感は、入居を検討している施設の「数年後の姿」になる可能性が高いといえます。

せっかく積み上げた資産を活かす選択を

たとえ「高級老人ホーム」に入れるだけの十分な資産を持っていても、その資産を投じる先が「安心できる終の棲家」でなければ、悲惨な結末になりかねません。

終の棲家は、人生で最も大きな買い物のひとつです。だからこそ、「目に見える美しさ」だけではなく、目に見えにくい「人の質」や「運営体制」にも目を向けてください。

人生の最終章を安心して過ごすためにも、施設を選ぶ際には重要事項説明書の数字をしっかりと確認し、数年先のリスクまで見据えて慎重に検討することが重要です。

武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役