転落死したはずの学部長めぐる真実は――? 『銀河の一票』第9話で浮上した「新座値利/ザネリ」の謎
●「悪役」に最も近い存在として描かれる登場人物
政界を追い出された星野茉莉(黒木華)が、市井に生きる政治素人のスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)をスカウトし、東京都知事選に挑む姿を描く、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』(毎週月曜22:00〜 ※FOD・TVerなどで配信)の第9話が、15日に放送された。
今回、新たな情報が提示された。キーワードは「ザネリ」。『銀河鉄道の夜』に登場する人物の名前だ。そして、その「ザネリ」と思われる人物が1カ月前、本屋で『銀河鉄道の夜』を購入した……? そのミステリーについて考察してみたい。

(左から)黒木華、岩谷健司、野呂佳代、シシド・カフカ (C)カンテレ
○【第9話あらすじ】人気声優が演説アドバイス「ここに、何がある?」
都知事選の告示日まであと4日。あかりの事務所は選挙戦に向け、準備に追われていた。
無謀な作戦に思われた告示日の1日で都内の全掲示板に選挙ポスターを貼り終えるという計画は大きく進展。後援会長の樫田(岩松了)らの尽力でボランティアも集まり、一気に現実味を帯びてくる。
だがその一方、世間の注目は知名度のある流星(松下洸平)や風間(梶裕貴)に集中。マスコミはいまだにあかりを泡沫候補扱いし、悔しくて仕方ない茉莉。そんな中、五十嵐(岩谷健司)が有権者を振り向かせる奇策を思いつく。
それは選挙演説の第一声を、暴露系YouTuberが本物の通り魔に刺され、動画がバズった駅の広場で行うというものだった。透は早速このことをYouTubeで配信。泡沫候補扱いながらそれがネットでバズりまくる。
同じ頃、風間陣営では、風間が自身の秘密を告白し、葛巻(堀部圭亮)らを驚かせていた。なんと風間は、大学はおろか高校にも行っていない。中卒であることだった。
告示日前夜、演説の練習を重ねるも、緊張のあまりうまく声が出せないあかり。そんなあかりに、人気声優の白鳥光留(日高のり子)がアドバイスを与える。「心ってどこにあると思う?」
光留が言うには、胸でも頭でもなく、下腹部。「ここに、何がある?」と尋ねる光留に、なぜか涙があふれてくるあかり。下腹部にあるもの、それは内臓。とりわけ、あかりであれば「いのちが宿る場所」でもある。光留は続ける。「ここと、声を、つなげる」──そしていよいよ、決戦開始の朝がやってくる。

(C)カンテレ
○本屋の店主が握る「もう一つの真実」
第9話、告示日前夜の白鳥光留とあかりのやりとりに多くの視聴者が涙したその裏で、ひっそりと、しかし決定的な伏線が置かれていた。本屋。いつもその棚にあった『銀河鉄道の夜』がなくなっていることに気づく流星。その流星に店主が告げた言葉。「お嫌いだったそうですよ、『銀河鉄道の夜』。悪役の名前が、自分の名前に入っていると」。そして店主が引き出しからこっそり取り出す、怪文書の入った封筒――。
このシーンに気づいた視聴者は、少なくはなかっただろう。第1話、与党幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)のもとに届いた告発文。そこには、転落死した楢ノ木医科大学・新座値利学部長の記事の切り抜きと、「あなたが殺した」という一文が記されていた。この「新座値利」という名前を、改めて見てみてほしい。
新座(にいざ)値利(ねり)。「値利」を音読みすれば「ねり」。これは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するいじめっ子・ザネリと一致する。
『銀河鉄道の夜』においてザネリは、物語上「悪役」に最も近い存在として描かれる。ジョバンニをからかい、孤独に追い込む側の人間だ。だが物語の核心は、そのザネリが川に落ち、それを救おうとしたカムパネルラが、自らの命と引き換えに友を助けたという事実にある。ザネリは「誰かの自己犠牲によって生かされた者」なのだ。
つまり脚本は、第1話の時点で、物語全体の発端となる「転落死した人物」の名前に、『銀河鉄道の夜』の「悪役」の名を埋め込んでいた。本屋の店主が口にした「『銀河鉄道の夜』の悪役が、自分の名前に入っている」というセリフは、おそらくこの「新座値利」という名前そのものを指していたのではないか。
●『銀河鉄道の夜』で命を落とさず生き延びた存在
ここで本屋のシーンに戻る。店主は日山流星に何かを告げ、そのあと、こっそりと怪文書の入った封筒を引き出しから取り出す。
新座値利は「転落死した」と報じられている。しかし、ザネリが『銀河鉄道の夜』で命を落とさず生き延びた存在であることを踏まえると、この符合は単なる名前遊びでは終わらない可能性が出てくる。
もし新座値利が、何らかの形で生きている、あるいは死を偽装しているとすれば――第1話の前提そのものが反転する。「あなたが殺した」という告発文が指していた死は、実際には起きていなかった、ということになるからだ。
そして本屋の店主が握っている怪文書の入った封筒。これは、おそらく第1話で鷹臣のもとに届いた告発文と同じ出自を持つもの、あるいはその「続き」にあたるものだろう。店主が誰にも明かさず、引き出しの封筒を確認する――この構図は、「真実を知る者」と「真実を知らされる者」の関係を静かに描いている。
『銀河鉄道の夜』において、ザネリが生き延びたことには重要な意味がある。カムパネルラの自己犠牲は、ザネリという「いじめっ子」「対立者」のためになされた。敵か味方かという区別を超えて、ただ「目の前で困っている人を助ける」という行為こそが、賢治が描いた「ほんとうの幸い」の核心だった。
もし新座値利=ザネリが生きているなら、それは「誰かが彼のために何かを犠牲にした」ことを意味する。その「誰か」とは、誰なのか。
第1話で、鷹臣は「あなたが殺した」と告発された。しかし、もしその死そのものが存在しないか、あるいは別の形で処理されたものだとすれば――鷹臣自身が「殺した」のではなく、むしろ「誰かを生かすために、何かを犠牲にした」側だったという可能性すら出てくる。茉莉がこれまで信じてきた「父は悪人だ」という構図が、最終盤で大きく揺らぐ展開が待っているのかもしれない。
○告示日直前に置かれた、もう一つの「旅の始まり」
第9話は、白鳥光留の場面に象徴されるように、選挙という旅の「出発前夜」だった。『銀河鉄道の夜』で白鳥の停車場が、嵐の前の静かな確認の場であったように、この回もまた、本格的な選挙戦という試練に向かう前の、最後の準備の回として描かれている。
しかしその裏側で、もう一つの「旅」――新座値利=ザネリという人物をめぐる、もう一つの真実への旅――が、静かに動き出している。本屋の店主が握る封筒は、おそらく今後、誰かの手に渡ることになるだろう。それが誰の手に渡り、何を明らかにするのか。
賢治が『銀河鉄道の夜』で問い続けた「ほんとうの幸い」。そして第3話のラストで、あかりが語った「自分のまま、明るい方向へ向かえる世界」。これらの問いに対する答えは、選挙という表舞台だけでなく、この「もう一つの真実」が明らかになることで、初めて完成するのかもしれない。
告示日、いよいよ選挙戦が始まる。だがこのドラマには、もう一つの「始まり」が、すでに静かに仕込まれている。






(C)カンテレ
衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら
政界を追い出された星野茉莉(黒木華)が、市井に生きる政治素人のスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)をスカウトし、東京都知事選に挑む姿を描く、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』(毎週月曜22:00〜 ※FOD・TVerなどで配信)の第9話が、15日に放送された。
今回、新たな情報が提示された。キーワードは「ザネリ」。『銀河鉄道の夜』に登場する人物の名前だ。そして、その「ザネリ」と思われる人物が1カ月前、本屋で『銀河鉄道の夜』を購入した……? そのミステリーについて考察してみたい。

○【第9話あらすじ】人気声優が演説アドバイス「ここに、何がある?」
都知事選の告示日まであと4日。あかりの事務所は選挙戦に向け、準備に追われていた。
無謀な作戦に思われた告示日の1日で都内の全掲示板に選挙ポスターを貼り終えるという計画は大きく進展。後援会長の樫田(岩松了)らの尽力でボランティアも集まり、一気に現実味を帯びてくる。
だがその一方、世間の注目は知名度のある流星(松下洸平)や風間(梶裕貴)に集中。マスコミはいまだにあかりを泡沫候補扱いし、悔しくて仕方ない茉莉。そんな中、五十嵐(岩谷健司)が有権者を振り向かせる奇策を思いつく。
それは選挙演説の第一声を、暴露系YouTuberが本物の通り魔に刺され、動画がバズった駅の広場で行うというものだった。透は早速このことをYouTubeで配信。泡沫候補扱いながらそれがネットでバズりまくる。
同じ頃、風間陣営では、風間が自身の秘密を告白し、葛巻(堀部圭亮)らを驚かせていた。なんと風間は、大学はおろか高校にも行っていない。中卒であることだった。
告示日前夜、演説の練習を重ねるも、緊張のあまりうまく声が出せないあかり。そんなあかりに、人気声優の白鳥光留(日高のり子)がアドバイスを与える。「心ってどこにあると思う?」
光留が言うには、胸でも頭でもなく、下腹部。「ここに、何がある?」と尋ねる光留に、なぜか涙があふれてくるあかり。下腹部にあるもの、それは内臓。とりわけ、あかりであれば「いのちが宿る場所」でもある。光留は続ける。「ここと、声を、つなげる」──そしていよいよ、決戦開始の朝がやってくる。

○本屋の店主が握る「もう一つの真実」
第9話、告示日前夜の白鳥光留とあかりのやりとりに多くの視聴者が涙したその裏で、ひっそりと、しかし決定的な伏線が置かれていた。本屋。いつもその棚にあった『銀河鉄道の夜』がなくなっていることに気づく流星。その流星に店主が告げた言葉。「お嫌いだったそうですよ、『銀河鉄道の夜』。悪役の名前が、自分の名前に入っていると」。そして店主が引き出しからこっそり取り出す、怪文書の入った封筒――。
このシーンに気づいた視聴者は、少なくはなかっただろう。第1話、与党幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)のもとに届いた告発文。そこには、転落死した楢ノ木医科大学・新座値利学部長の記事の切り抜きと、「あなたが殺した」という一文が記されていた。この「新座値利」という名前を、改めて見てみてほしい。
新座(にいざ)値利(ねり)。「値利」を音読みすれば「ねり」。これは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するいじめっ子・ザネリと一致する。
『銀河鉄道の夜』においてザネリは、物語上「悪役」に最も近い存在として描かれる。ジョバンニをからかい、孤独に追い込む側の人間だ。だが物語の核心は、そのザネリが川に落ち、それを救おうとしたカムパネルラが、自らの命と引き換えに友を助けたという事実にある。ザネリは「誰かの自己犠牲によって生かされた者」なのだ。
つまり脚本は、第1話の時点で、物語全体の発端となる「転落死した人物」の名前に、『銀河鉄道の夜』の「悪役」の名を埋め込んでいた。本屋の店主が口にした「『銀河鉄道の夜』の悪役が、自分の名前に入っている」というセリフは、おそらくこの「新座値利」という名前そのものを指していたのではないか。
●『銀河鉄道の夜』で命を落とさず生き延びた存在
ここで本屋のシーンに戻る。店主は日山流星に何かを告げ、そのあと、こっそりと怪文書の入った封筒を引き出しから取り出す。
新座値利は「転落死した」と報じられている。しかし、ザネリが『銀河鉄道の夜』で命を落とさず生き延びた存在であることを踏まえると、この符合は単なる名前遊びでは終わらない可能性が出てくる。
もし新座値利が、何らかの形で生きている、あるいは死を偽装しているとすれば――第1話の前提そのものが反転する。「あなたが殺した」という告発文が指していた死は、実際には起きていなかった、ということになるからだ。
そして本屋の店主が握っている怪文書の入った封筒。これは、おそらく第1話で鷹臣のもとに届いた告発文と同じ出自を持つもの、あるいはその「続き」にあたるものだろう。店主が誰にも明かさず、引き出しの封筒を確認する――この構図は、「真実を知る者」と「真実を知らされる者」の関係を静かに描いている。
『銀河鉄道の夜』において、ザネリが生き延びたことには重要な意味がある。カムパネルラの自己犠牲は、ザネリという「いじめっ子」「対立者」のためになされた。敵か味方かという区別を超えて、ただ「目の前で困っている人を助ける」という行為こそが、賢治が描いた「ほんとうの幸い」の核心だった。
もし新座値利=ザネリが生きているなら、それは「誰かが彼のために何かを犠牲にした」ことを意味する。その「誰か」とは、誰なのか。
第1話で、鷹臣は「あなたが殺した」と告発された。しかし、もしその死そのものが存在しないか、あるいは別の形で処理されたものだとすれば――鷹臣自身が「殺した」のではなく、むしろ「誰かを生かすために、何かを犠牲にした」側だったという可能性すら出てくる。茉莉がこれまで信じてきた「父は悪人だ」という構図が、最終盤で大きく揺らぐ展開が待っているのかもしれない。
○告示日直前に置かれた、もう一つの「旅の始まり」
第9話は、白鳥光留の場面に象徴されるように、選挙という旅の「出発前夜」だった。『銀河鉄道の夜』で白鳥の停車場が、嵐の前の静かな確認の場であったように、この回もまた、本格的な選挙戦という試練に向かう前の、最後の準備の回として描かれている。
しかしその裏側で、もう一つの「旅」――新座値利=ザネリという人物をめぐる、もう一つの真実への旅――が、静かに動き出している。本屋の店主が握る封筒は、おそらく今後、誰かの手に渡ることになるだろう。それが誰の手に渡り、何を明らかにするのか。
賢治が『銀河鉄道の夜』で問い続けた「ほんとうの幸い」。そして第3話のラストで、あかりが語った「自分のまま、明るい方向へ向かえる世界」。これらの問いに対する答えは、選挙という表舞台だけでなく、この「もう一つの真実」が明らかになることで、初めて完成するのかもしれない。
告示日、いよいよ選挙戦が始まる。だがこのドラマには、もう一つの「始まり」が、すでに静かに仕込まれている。






(C)カンテレ
衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら
