老舗を拒んで「ここはいや。モチ屋へ行け」と…スティーブ・ジョブズが京都でどハマりした『庶民派チェーン店の和菓子』とは?
〈スティーブ・ジョブズは癌を告知された頃、ある日本人に留守電メッセージを残していた…20年来の知人が明かす「人間ジョブズの素顔」〉から続く
「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」。京都の老舗旅館「俵屋」に迎えに行くやいなや、車に乗り込んできた世界的大富豪は、子供のように目を輝かせてそう言った。スティーブ・ジョブズから親しみを込めて「ヒロ」と呼ばれたその人は、当時MKタクシーのハイヤー運転手だった大島浩さんだ。
【画像】ジョブズが愛した「日本のモチ屋」はコチラ

ジョブズに京都を案内した大島浩さん(著者撮影)
大島さんは、キアヌ・リーブスやレオナルド・ディカプリオから指名を受けるなど、数々の世界的セレブを案内してきた名ドライバー。ジョブズの京都旅行にも4回にわたって付き添っている。そんな彼だからこそ知る、ジョブズの意外な素顔とは--。
元NHK記者・佐伯健太郎さんの書籍『スティーブ・ジョブズ1.0の真実』(晶文社)より、一部を抜粋して紹介する。(全3回の2回目/つづきを読む)
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日本食にも“異様なこだわり”を示した
「日本食が大好きなことはたしかやと思います」
ジョブズについて、大島さんが最も印象的だったのは、食べ物にまつわることだった。
ジョブズはアップル本社の社員食堂に、日本食のメニューが多いことを自慢していた。「何があるの?」と大島さんが聞くと、こう答えた。
「枝豆とか、冷奴(ひややっこ)とか、焼き鳥とか。居酒屋ができるな」
ジョブズは特にそばが好きだった。そして、そばといえば、俵屋旅館の近くにある老舗の「晦庵 河道屋(みそかあん かわみちや)」でなければダメだった。
最後の旅行のとき、大島さんは「ほかの店のそばも試してみたら」と勧めて、別のそば屋に連れて行った。そこは、京都らしい雰囲気の店で、大島さんが「満足してくれたかな」と思いながら車の中で待っていると、店から出てくるやいなや、「いつものそば屋へ行ってくれ」と言ってきた。
「何がおかしかったの?」と尋ねると、ジョブズは「そば巻きののりが違う。のりの味が良くない。だから、もう一度あそこで食べ直したい」と言った。ジョブズはそばとともに、おつまみのそば巻きも大好きで、「マキ、マキ」と呼んでいた。
ジョブズがのりのことにまでこだわっていたので、大島さんは「日本食のことはかなり詳しいんだな」と感心した。
京懐石の最高峰に案内すると…
食事をする店を選ぶときには、ジョブズなりのこだわりがあった。
懐石料理の店の前を車で通ったときのことだ。その店は京懐石の最高峰と言われ、玄関は創業時のたたずまいを残し、江戸時代そのものだ。
「ここはどういう料理が専門なの?」とジョブズが聞いた。大島さんが懐石料理だと答えると、「ランチにそこへ行けるか」と聞いてきた。
大島さんが店の人に席のあきを聞くと、「玄関の床几(しょうぎ)に座ってお待ちください」と言われ、ジョブズ夫妻と3人でしばらく座って待っていた。
「いや、僕は行きたくない」と突然の拒絶
そのとき、ジョブズが「ところで、ここのランチの料金はいくらなの?」と質問してきた。大島さんが「1万5000円からです」と答えると、ジョブズはすぐさま立ち上がり、「行こう。帰ろう」と言った。
大島さんがあわてて、「いま、席を用意していますよ」と言ったものの、ジョブズは「いや、僕は行きたくない」と言って店を出てしまった。
大島さんはビリオネアの意外な一面を見た思いだった。
お昼に予約した精進料理を即退店
精進料理の店ではこんなことがあった。
庭に面した雰囲気のいい部屋を正午に予約し、20分前に着いた。部屋の用意がまだできていなかったため、ジョブズ夫妻は別の部屋へ通された。その間、大島さんは車の中で待っていた。
すると、店に入ったばかりのジョブズが外に出てきた。大島さんが「何があったの?」と聞くと、ジョブズが「部屋に通されたけど、窓が一つもない部屋で、こんなところで食事はできない」と答えた。ジョブズは予約した庭の見える部屋が、正午からしかあかないことは知っていた。
大島さんには何が気に入らないのかわからなかったが、ジョブズは「もう、ここはいい。僕はもう帰る」と言ったきりだった。
大島さんは、「店の雰囲気とか、京都にはいろいろ期待をされていたのかもしれません」と話している。
「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」
ジョブズと食べ物については、こんな愉快なエピソードもある。
最初の旅行のとき、大島さんが俵屋旅館に迎えに行くと、ジョブズが車に乗り込んでくるなり、「ヒロ、モチ屋へ連れて行ってくれ」と頼んできた。「朝のジョギング中に見つけたので、そこへ連れて行ってほしい」と。元気だったときのジョブズは、朝、街中をひとりでジョギングしていた。
大島さんはふつうの「餅(もち)」のことだと思ったが、ジョブズは繰り返し「モチ、モチ」と言い、「あんこや甘い豆が中に入ったものだ」と言う。しかし、京都市には数多くの和菓子店がある。いきなり「連れて行ってくれ」と言われても、どの店かまったくわからない。
「どこかなー」と、大島さんはうろうろしながら車を走らせていた。人通りの多い南座(みなみざ)の近くに来たとき、ジョブズが「あそこだ、あそこだ!」と叫んだ。
ジョブズが探させた「モチ屋」の正体
大島さんの予想に反し、ジョブズが探していた店は「おはぎの丹波屋」だった。大阪、京都、兵庫で和菓子チェーン店を展開している。
店に行ったジョブズは、10個の大福が入ったプラスチックケースを手に、ニコニコしながら戻ってくると、車内で1つパクついた。そして、おいしそうに、あっという間に5つを平らげた。すし岩でカマトロを6貫続けて食べたときと、とてもよく似ている。
あと5つ残っていたので、大島さんが「1つぐらいは勧められるかな」と期待して「残ったのはどうするの?」と聞くと、ジョブズは「部屋に持ち帰って、僕がみんな食べる」と答えた。
正真正銘のまんじゅう好きだった
ジョブズが好きだったのが大福のあんこなのか、餅っぽい感触だったのかはわからない。
大島さんが笑って話す。
「ジョブズさんは店が大福を準備していたのを見たんでしょうね。本当はその場で食べたかったんでしょう。でも、ジョギングの格好でお金を持っていなかったんでしょう」
大島さんは、京都にはいろいろな和菓子があることを見てもらおうと思って、老舗の店にも連れて行ったが、ジョブズはまったくパクついてこなかった。店から出てくるなり、「ここはいや。モチ屋へ行け」と。
ジョブズはその後も京都を訪れたときには、「おはぎの丹波屋」の大福を食べた。
アメリカですし職人としてジョブズと20年余り付き合った佐久間俊雄(さくまとしお)さんの話をまとめた『ジョブズの料理人』にも、2007年以降の話として、ジョブズのまんじゅう好きが出ている。そこには、ジョブズが東京・赤坂の和菓子店「⻘野(あおの)」のまんじゅうをいたく気に入り、佐久間さんに「板前を修業に出したらいい」と提案したり、晩年に体調が悪いときには、妹をまんじゅうを受け取るためだけに佐久間さんの店に行かせたりしたことが記されている。
ジョブズは正真正銘のまんじゅう好きだった。(つづく)
〈「きょう、ジョーブツというアメリカ人がきたよ」スティーブ・ジョブズを“印刷会社の人”だと思っていた男が、10年の交流を続けられたワケ〉へ続く
(佐伯 健太郎/Webオリジナル(外部転載))
