「徳島県民の“知る機会”が奪われてしまう」…県はなぜ建築家「石上純也氏」の展覧会を中止に追い込んだのか 背景に後藤田県政で迷走する「県立新ホール」建築問題
徳島県に建設が計画されている「徳島文化芸術ホール(仮称)」の整備を巡り、建築家・石上純也氏と県の間でトラブルが勃発している。前知事のときに公募で決まった石上氏の案が、その計画見直しを訴えて当選した後藤田正純・現知事のもとで、宙ぶらりんになっている。この状態で県は新しい設計者を公募してきたが、過去2回、不調に終わっている。
石上氏は設計を進めてきたホールの全容を知ってもらうべく、県が管轄する施設で展覧会の開催を準備していた。ところが、直前になって担当者から「使用を認めない」という中止要請があったのである。「デイリー新潮」では、展覧会が中止に追い込まれた石上氏にインタビューを行い、現在の心境を聞いた。【取材・文=山内貴範】(全2回のうちの第2回)
【画像】建築家・石上純也氏が設計した「徳島文化芸術ホール(仮称)」のイメージ図
人気アーティストのコンサートが開けない?
――現在、県が進めているホールは、建設費縮小の名目で大ホールの規模を約1800席から約1500席に縮小する計画です。ところが、私の友人の芸能マネージャーに聞いたところ、「約1500席では席数が少ないため、人気アーティストのコンサートを誘致できない可能性が高く、運営に支障をきたすのではないか」という意見がありました。

石上:前知事のときに出された要求水準が、大ホールが約1800席、小ホールが約300席でした。しかし、ご指摘の通り、大ホールは実際のところ約1800席でも少ないくらいで、約2000席はないと厳しいという認識が関係者の間にもありました。やはり大きなイベントを定期的に開催することが、運営の安定には欠かせませんからね。
――私の故郷・秋田県の「あきた芸術劇場ミルハス」は2007席、徳島県の隣の香川県にある「レクザムホール(香川県県民ホール)」が2001席です。約1500席はだいぶ中途半端な気がします。
石上:そのため、僕たちは万が一席数が増えても大丈夫なように計画を進めていました。僕たちと関わっていた県職員のみなさんも、本当にいい人たちでした。なんとか予算の範囲内で抑えつつ、質の高いものにしようと一丸となって頑張ってくれていたのです。
小ホールこそ文化振興のためには不可欠
――せっかく県職員のみなさんも頑張っていたのに、その努力が報われませんよね。新しいプロジェクトでは大ホールが縮小されるだけでなく、小ホールが完全になくなってしまうそうですね。これには驚きです。
石上:「徳島県郷土文化会館(あわぎんホール)」は席数が809席あり、これを小ホールの代わりにしようという案が出ています。しかし、この施設は1971年の竣工で、既に55年経っている。老朽化のため、しばらくしたら取り壊しになる可能性もあるのです。その後、また小ホールに充当する施設を建てたら、ますます建設費が膨れ上がってしまうと思います。
――県民が創作発表などに使う場である小ホールこそ、文化振興のためには絶対に必要だと思います。このままでは著名なアーティストも呼べず、県民は使いにくい、微妙な建築になってしまう印象がぬぐえません。
石上:そういった実態が、県民のみなさんの間でもまだまだ共有されていないと思うのです。中止になった展覧会では、僕たちのホールと今やろうとしているホール、両者を比較検討する場にしたかった。それすらも止められてしまうと、県民が知る機会を奪われることになりかねません。
ちなみに、展覧会は県から補助金は一切いただいていません。日本建築家協会徳島地域会(JIA四国支部、以下JIA)の会員のみなさんがお金を出し合い、僕たちもお金を出していることは、ここでお伝えしたいと思います。
文化全体に悪影響が出かねない
――私はアニメや漫画が好きですが、徳島県では「マチ★アソビ」というアニメのイベントが全国的な人気で、私もそのために徳島まで旅行しました。ところが、後藤田さんが知事になってから県の支援の見直しが行われ、中止になったことがありました(その後再開)。どうも、現在の徳島県は、文化政策全体が迷走している印象があります。
石上:僕もなぜ、こんなに混乱しているのか理解できないのです。とにかく、僕たちに協力してくださった県職員のみなさんは、いいホールを造ろうという思いが強く、本当に情熱的でした。日本中の劇場に実際に足を運び、どんなホールにしたいかという思いを語り合いながら進めてきた経緯があります。
その甲斐もあって、僕自身、最高の図面ができたと思っています。後藤田さんが知事になるまでは順調に進んでいたのに、どうしてこうなってしまったんだろうという思いはあります。
――今後、石上さんの展覧会が開催される予定はあるのでしょうか。
石上:幸いにも、JIAの有志のみなさんが新しい会場探しのために動いてくれています。展覧会はできれば早く開催したいですね。今回は中止になってしまいましたが、僕たちがここまで頑張ってきたプロジェクトを見てほしいので、一人でも多くの方に会場まで足を運んでほしいと思います。
そして、現在の公募の案と冷静に比較してほしい。もし、僕たちの案がいいと思ったら、契約は続いているので、ぜひ声を上げていただけると嬉しいですね。図面は完成していて、GOサインが出ればすぐに着工できる。僕はしっかりとこのプロジェクトをやり遂げ、ホールを完成させたいと思っています。
問題に対し、県担当者の回答は
今回の展覧会の中止要請を受け、「デイリー新潮」では展覧会場になる予定だった倉庫を管轄する徳島県の港湾政策課に取材を申し込んだ。以下、その回答を掲載する。
――中止要請に至るまでの時系列について。
県担当者:5月25日に、県の港湾用地に立つ民間倉庫の所有者から、石上氏の展覧会開催の情報を県が把握しました。倉庫は本来、港湾目的で使用されるべきですが、当該地区は賑わいづくりのために用途転換が認められている場所です。県として、この展覧会の内容が賑わいづくりの構想に合致するか内部協議を開始し、最終的に、構想にそぐわないと判断し、倉庫所有者との覚書に基づき、会場として使用しないよう要請を5月29日に行いました。
――中止要請の主な理由は。
県担当者:中止要請の理由は主に2点です。第一に、展覧会の内容が、地域の活性化や観光振興を目的とする地区の「賑わいづくり構想」にそぐわないいうことです。第二に、県が新ホール建設計画を進めている最中にこの展覧会が開催されると、県からの公式な情報発信であると誤解され、県民に混乱を招く恐れが懸念されたことです。
――「賑わいづくり構想にそぐわない」とは具体的にどういうことなのか。
県担当者:当該地区は、水辺空間で子供連れなどが穏やかに過ごせるような賑わいを目指しています。これに対し、今回の展覧会は新ホール建設計画という特定のテーマに特化しており、行政的な側面が強いと判断いたしました。そのため、県が目指す賑わいの方向性とは異なると結論付けられたというわけです。
――「表現の自由の侵害」という批判に対する、県の見解は。
県担当者:県として、今回の判断は展覧会の価値を否定したり、発表自体を制限したりする意図はありません。あくまで、当該施設の利用目的と賑わいづくり構想に照らし合わせた結果であり、倉庫所有者との覚書に基づく個別の要請です。別の場所で開催されることについては、県が介入する立場にはないと考えています。
――情報把握が直前になった理由は何か。
県担当者:イベント開催の報告フローについては、覚書には報告期限などが細かく規定されていませんでした。倉庫所有者が展覧会の具体的な内容を把握したのが5月中旬以降であり、県への報告が5月25日になったため、結果的に県側の判断と要請が開催直前になりました。
第1回【「まさか日本でこんなことが起きるとは…」 徳島県が“気鋭の建築家”の展覧会に「中止要請」 渦中の建築家「石上純也氏」が明かす胸中】では、気鋭の建築家・石上純也氏が設計した「徳島文化芸術ホール(仮称)」の着工がストップしている問題について、また、石上氏の設計案を紹介する展覧会が県の要請によって中止に追い込まれた件について、その経緯や、今の思いについて、石上氏本人に率直に話を伺っています。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
