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在宅療養者にとって、口の中を清潔な状態に保ち、維持していくのは非常に重要です。一方で、日々努力を重ねても「あまりうまくいかない」「十分な成果が得られない」というのが実状ではないでしょうか。本記事では、在宅療養者の口腔内のケアの重要性とともに、嚥下機能の改善も目指す「黒岩メソッド」の概要について、医療法人あい友会理事長の野末睦医師が解説します。

在宅療養者の口の中がカラカラに…どんな問題が起こるのか?

在宅療養者の口腔内(口の中)が非常に乾燥しているケースは多く、そのせいで喉の痛みを訴える方も少なくありません。また、そのことを実感している医療従事者、ご家族の方もいるでしょう。

意識レベルが下がった患者さんがいつも口を開けて呼吸し、口の中ではカラカラに乾いた舌が奥の方で小さく固まってしまっているのも、よく見られる光景だといえます。

ここまで乾燥してしまう理由の1つに、分泌する唾液量の減少があります。高齢者は、唾液腺の機能低下のために唾液分泌そのものが若干少なくなってきているといわれますが、在宅療養者はそれに加え、食事量が減って唾液分泌の刺激が少なくなっているケースのほか、脱水傾向にあることも影響しています。

服薬している薬によって唾液分泌が減るケースもあります。主に抗コリン作用を持つ薬、つまり抗アレルギー薬や抗精神病薬が該当し、これらには特段の注意が必要です。加えて、過活動膀胱の治療薬、心不全などの治療でよく使われる利尿薬なども影響します。

これらの薬は、高齢者にとって非常に重要であるため中止しにくいのですが、一方では、口腔内乾燥の要因になっていることを認識しておく必要があります。

また、顔面の筋肉の力が衰えてくると、常に口が開いた状態になります。いつも開口していると、口腔内が乾燥するのは容易に想像がつくと思いますが、酸素投与を受けている場合は、口腔内や咽頭部に常に風が吹いている状態になるため、ますます乾燥が進んでしまいます。

歯の問題もあります。患者さんに多く見られる歯周病は、口臭の原因となるのはもちろん、糖尿病の悪化をはじめ、さまざまな疾病と密接な関連性があることが報告されています。むし歯もよく見られます。これらの原因から入れ歯が合わなくなってしまった患者さんも多いと思います。

以上のような理由から、在宅医療で患者さんを診はじめたときには、まずは「口の中を観察すること」が大事になってくるのです。

もし状況が許すなら、訪問歯科診療をしている歯科医と日頃から連携をとっておくのが理想的です。

口腔内を観察した時に異常が疑われる場合や、入れ歯に違和感を訴える場合に、すぐに診察してもらえるような体制を整えておくことが重要です。

さらに、自院で歯科医を雇用し、より強固な体制を構築するのもいいと思います。

口腔内をきれいにすることが、全身の健康管理に直結

在宅療養者の口腔内は大きな問題を抱えていることが多いため、医療従事者は、積極的に口腔内を観察し、適切な口腔ケアを指導・実践していくことが大切です。

指導の対象は、患者さんご自身やご家族、さらには施設入所者の場合は介護職の人たちにまで及びます。

従来「口腔ケア」と呼ばれていた、口腔内の清潔環境を維持する試みは、現在では患者さんの健康管理に直結すると捉えられ、「口腔健康管理」と呼ばれるようになりました。口腔内をきれいにすることが、全身の健康管理に直結するという意味が含まれているのだと思います。

口腔健康管理の具体的な方法はほかに譲るとして、2点だけ強調したいと思います。それは、「できるだけ愛護的に行うこと」と、「施術後の保湿に気を配ること」です。

例えば、舌苔(ぜったい)を無理に掻き出すなどは絶対にしてはいけません。高齢者は組織修復力が減弱しているので、舌や頬の粘膜に一旦傷がつくと、なかなか治らず、かえって感染が進んでしまう恐れがあるのです。

また保湿ジェルなどを使って、最後の仕上げをすることも忘れないでください。口腔内の乾燥を防ぐ根本的な対策を取りつつ、補助的手段として、口腔用の保湿ジェルを適切に使用することは大切なケアの1つです。

嚥下機能の向上も目指す「黒岩メソッド」とは?

口腔健康管理を適切に行うことは、在宅患者さんにとってとても重要ですが、効果はそれだけにとどまりません。

口腔健康管理を、「嚥下機能の改善」に結びつけ、少しでも摂食ができるように、少しでも誤嚥性肺炎を減らせるようにアプローチする「黒岩メソッド」と呼ばれる方法があります。

この方法は、神奈川県にある村田歯科医院で活躍されている黒岩恭子先生が編み出し、全国、そして近隣諸国にも広めている方法です。

そこに含まれる具体的なステップは以下の通りです。

1:姿勢を整える

両足を着地させたり、バランスボールを使って体を支えたりする工夫をします。

2:全身の筋肉をリラックスさせる

特に首周りや口のまわりの筋肉を緩めます。この際にもバランスボールを用いたり、電動歯ブラシのモーターを使った手製の道具を活用したりします。前項の「姿勢の保持」も、リラックスを促すための貴重なステップです。

3:通常の口腔健康管理を行う

唾液腺マッサージなどを含めたケアを行います。

4:咽頭領域をきれいにする

特殊なブラシを用いて、口蓋垂の奥にある「上咽頭」や「中咽頭」をきれいにします。この領域にこびり付いた痰などの分泌物は、通常の吸引では取り除くことができず、この方法が欠かせません。

このようなステップを行い、口腔内と咽頭部分をきれいにすると、たとえ少量の唾液誤嚥が常に起こっていたとしても、誤嚥性肺炎に結びつきにくくなります。

また、記事『【在宅医療】嚥下障害ありの高齢者にとって安全なのは「真横に寝て食べる」スタイル…医師が教える「完全側臥位」のすごいメリット』でもご紹介した「完全側臥位」でのアプローチと組み合わせることで、多くの患者さんで再び食事摂取が可能になっていきます。

かなり専門的な分野ですので、黒岩先生から直接的なご指導を仰ぐことが重要ですが、ぜひ医療従事者の皆さんにトライしてもらいたいメソッドです。

野末 睦
医師

医療法人 あい友会  理事長