「幸福感は子どもが産まれたときがピークだったのかも」と享平さんは嘆く

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 熟年別居が増えている。つい最近も、歌舞伎役者の中村芝翫と三田寛子が別居状態であること、17年ぶりに女優復帰した網浜直子が不倫夫と別居していることが報じられたばかり。

 ふたりとも50代である。結婚生活が長くなり、子どもが成人すると、夫婦は自然と離ればなれになっていくものなのだろうか。

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「そうかもしれませんねえ」

 しみじみと低音を響かせてそう言うのは、浜田享平さん(51歳・仮名=以下同)だ。7歳年上の妻の瑠美さんと今年初めに別居した。彼の4年にわたる“不倫”がバレたときの妻の怒りはすさまじかったというが、実はその相手とは「友だち以上恋人未満」の関係だと彼は断言した。誤解と嫉妬から関係がこじれてしまったらしい。

「幸福感は子どもが産まれたときがピークだったのかも」と享平さんは嘆く

「妻は職場の先輩でした。今は使われなくなった言葉だけど、まさに才色兼備で、僕が新卒で入ったとき彼女は29歳。上司たちから引っ張りだこで、異動のたびに彼女を奪い合っていたという噂も聞きました。それだけ仕事ができたし、人当たりもよかったんでしょう。ただ、一部には『色仕掛けで役員に取り入っている』と噂も飛んだりしていた。やっかみだと思いますけど」

瑠美さんからのアプローチ

 そんな瑠美さんにアプローチするのは大変だっただろうと思っていたが、実際は彼女から近づいてきたのだという。配属された部署で瑠美さんから仕事を教わった享平さんは、もちろん瑠美さんを慕ってはいた。だが、正直言うと恋愛感情は抱いていなかったそうだ。

「おそらく彼女は誰が見ても美人だとかきれいだとか言われるタイプだとは思いますが、僕は顔なんてあればいいじゃんと思っていた。話しておもしろいか、価値観が合うか。そういうほうが大事だし、実際、学生時代から続いている恋人がいたんですよ」

 仕事帰りに瑠美さんに誘われれば食事に行くこともあったが、食事が終わるとそのまま帰宅。「うちに寄っていかない?」という誘いに乗ることはなかった。

「職場で恋愛というのがピンとこなくて。恋愛関係になったら仕事がしづらくなるという単純な理由です。それというのも僕の姉が勤務先の同僚と婚約したものの、彼には別の部署にもうひとり婚約者がいたんです。もちろん、姉と彼女は知り合いだった。今は笑い話になっていますが、姉の婚約者は二重婚約していたというわけ。女性ふたりは壮絶なバトルになって、最終的には姉が婚約者を殴り飛ばして幕引きとなりました。彼と彼女は会社を辞めたそうです。その後、ふたりは結婚したけど結局、うまくいかなかったと聞いています。就職するとき、職場恋愛には気をつけろと姉から強烈に指導がありました(笑)」

 先輩である瑠美さんとはうまくやりつつ、必要以上に接近しないよう気をつけていた。ところがふたりであちこち営業先を回った日の夜、つきあっている恋人から「今日、女性とふたりで歩いているのを見かけた」と連絡があった。

「先輩と一緒に営業だよと言ったら、ふたりで顔を寄せ合ったあとホテル街へ行ったでしょって。ただの通り道なのに、彼女はやけにしつこいんですよ。若気の至りですかねえ、そんなにオレが信用できないのかって言っちゃった。そうしたら彼女が『そうやってキレるから信用できないのよ』と。そのまま破局です。2年もつきあっていたのに、そんなバカなと思いましたが、あとから考えればどうやら彼女には好きな人ができていたんですね。でも自分から別れ話をしたくないから、たまたま見かけた光景で僕を責め、僕のせいで別れたことにしたんでしょう。その後、友人たちにも吹聴したようで、みんなからずいぶん非難されましたが、言い訳することさえバカバカしいと口をつぐみました。おかげで学生時代の友人とは長い間、音信不通になりました」

“涙”にほだされ…

 恋人と別れたことを瑠美さんは直感で悟ったらしい。そこが瑠美さんの瑠美さんたるゆえんだ。とんでもなく直感が働き、本能的に察する能力が高いと、享平さんは揶揄しているような褒めているような微妙な言い方で表現した。

「そこから瑠美のアプローチが激しくなりました。僕みたいな平凡なヤツに、こんな才女が言い寄ってくるなんて……と内心、うれしくないわけでもなく、だけどそれに乗っていいかどうかの判断はつかずで、あやふやな態度に終始していたんです。でもあるとき、彼女が僕の前でほろりと涙をこぼしたことがあった」

 それは仕事の件だった。仕事ではいつも強気だった彼女が、上司の朝令暮改に巻き込まれ、それならと役員と上司の頭越しに折衝したところ、役員も味方についてくれなかったという事態が起こった。その役員は彼女の味方だったはずなのだが、その仕事の件に関しては権力が及ばなかったようだ。だから彼女を悪者にした。

「ふたりで残業しているときでした。他には誰もいなかったんですが、彼女は小声で『組織って本当に理不尽。頭に来る』とわなわな震えるくらい怒っていました。こうやって彼女は闘ってきたんだろうなと思うと、つい感情移入して、大変だったねと手を握ってしまったんです。すると彼女はぽろぽろ涙をこぼしてしがみついてきました。僕は職場で彼女とキスして……」

 職場恋愛には気をつけろという姉の声が聞こえたような気がしたが、彼はその声を無視した。そしてその日、瑠美さんの家に泊まったという。

妊娠に「それはないよ」

 もちろんふたりは関係を周りに気付かれないよう細心の注意を払った。だが数ヶ月後、「私はピルを飲んでいるから大丈夫」という言葉を信じていた彼は、当の瑠美さんから妊娠を告げられた。

「それはないよと思いましたが、彼女は『私はすぐに会社を辞める。子どもが生まれる前に婚姻届を出そう。その時点で私のことなんてみんな忘れているから大丈夫よ』って。何が大丈夫なのかさっぱりわからなかったけど、中絶してくれなんて言えないし、彼女はすでに31歳になっていたし、僕が結婚するものだと信じ込んでいるし。そこからはまるで特急列車に乗ったかのようにことがスムーズに運んでいったんです」

 苦笑いをしつつ、享平さんはそう言った。瑠美さんの退職は一時期、「役員との不倫破局が原因」だの「別の役員と不倫ふたまたしていたらしい」などと話題にはなったが、彼女の言うとおり周りはすぐに忘れていった。

「とっても幸せ」

 瑠美さんが臨月に入ったころ、享平さんは婚姻届を提出した。会社にも扶養届を出した。

「当然、妻の名前もバレますから、あの瑠美さんと結婚したのかと噂にはなりました。でもそれより25歳の僕が7歳年上の彼女と結婚したほうが話題になっていましたね。僕としてはどうでもよかった。瑠美は仕事をしているときとは打って変わって、穏やかな日常を送り、いつも『享平のおかげでとっても幸せ』と言ってくれていました。こんな若くして結婚していいのかと思った時期もあったけど、僕自身も幸せを感じることは多かった」

 淡々と仕事をこなすタイプの享平さんだが、次第に実直な姿勢が評価を浴びるようになっていった。婚姻届を出して1ヶ月もたたないうちに息子が誕生。新たな命を腕に抱いて、彼は心が震えたという。

「感動と責任感と、いろいろな思いが去来して、こみ上げてくるものを抑えきれなかった。瑠美には本当にありがとうと伝えました。彼女と結婚してから僕はいい人生を歩んでいるような気がしていた」

“いい人生”と言い切れるものがあるかどうかはわからない。トータルすれば人生プラマイゼロになることも多いのではないか。その中で人はどうやってプラスをたくさん見つけていけるのかにかかっているような気もする。

「今思えば、幸福感は子どもが産まれたときがピークだったのかもしれません」

 彼の人生は少しずつ変わっていった。

後編【義母、愛犬の死で年上妻が口にした“ありえない言葉” 不倫を疑われ51歳夫がとった意外過ぎる行動とは】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部