試合を壊した「二つの誤算」と「負の連鎖」 城彰二が日本代表に求める“化学反応”
【98年W杯日本代表・城彰二の視点】スイス戦で明確になった戦い方とW杯への改善点
ロシア・ワールドカップ(W杯)初戦のコロンビア戦が刻一刻と迫るなかで、日本代表は西野朗監督が期待する“化学反応”を起こせるのか――。
決戦まで残り10日を切った今、選手一人ひとりがいかにして負の連鎖を断ち切れるかが問われる状況となっている。
8日のスイス戦は、FIFAランキング6位の強豪を相手に敵地で0-2と敗れた結果自体は、ある意味で妥当と言えるもの。そうした力関係があるなかで、システムを戦い慣れた4-2-3-1にしたことで守備時の各選手の追い出し方、はめ方は5月30日のガーナ戦(0-2)よりも明確になっていた。奪った後のボールの動かし方にも意図を感じられたので、4バックを採用した時の安定感とチーム全体に元々備わる共通理解は、2連敗を喫したなかでも評価できるポイントだったと思う。
ただ、そうしたなかで残念だったのは、現在の日本代表を覆う“負の連鎖”を象徴するような、試合を壊した「二つの誤算」だ。
一つは前半40分に吉田麻也が与えたPKの場面。右サイドバックの酒井高徳が裏を取られ、相手がスピードに乗ったなかでのペナルティーエリア内での難しい対応だったとはいえ、後方にカバーリングもいたなかでは絶対に避けなければいけないファウルであり、ゲームプランを壊してしまう行為だった。
もう一つは、ガーナ戦から続く川島永嗣の不安定さ。GKは一番最後の砦として、チーム全体をプレーや指示によって落ち着かせるべき存在だが、あれだけ軽率なプレーが多いと他の選手に与える精神的ダメージは大きい。前述したとおり、チーム全体の守備のリズムが悪くなかっただけになおさら残念だった。
“トップ下”本田を生かす、かつての連動性は失われていた
一方の攻撃面では、2試合連続無得点に終わったことで改めて「決定力不足」という言葉がクローズアップされているが、実際にはゴール前で決めきる力を嘆く以前に、アタッキングサード(相手ゴールまでの残り3分の1のエリア)を崩す策を見出せていない。
元々日本は、世界の強豪国に比べて圧倒的な個の力を持つチームではないため、相手の守備が厳しくなるこのエリアを崩すには、2、3人でのコンビネーションの精度を高めていくことが不可欠だが、スイス戦を見る限りではその部分がまだまだ雑だ。
スイスはW杯欧州予選で、プレーオフの2試合を含めて12試合7失点と堅守を誇るチーム。そんな相手の守備組織を崩すには、それこそ右足に要求したら右足にパスを通すような精度が求められる。そうした部分で多くのミスやズレが生じていたのは、選手個々の技術的なもの以上に、チームとして連携力を高められていないことに尽きると思う。
ただ選手側として難しいのは、西野監督のチームとなってからアタッカー陣のシステム上の配置や、ベストな組み合わせがいまだ定まっていないこと。それが連携力の向上につながっていないのは明らかだ。
例えば、この試合では4-2-3-1が採用され、2列目中央には本田圭佑が入った。本田自身のスイス戦でのパフォーマンスは確かに不甲斐ないものだったが、ボールを足もとに収めてタメを作るシーンはたびたびあった。「攻撃の起点になる」のは、ドリブラータイプではない彼特有の“トップ下像”であり、同じシステムを採用していたアルベルト・ザッケローニ体制の日本代表では、それが攻撃のスイッチとなっていた。本田にボールが入った瞬間に周りの選手が動き出し、ワンタッチでボールをもらうポジションや裏に抜け出して、本田も彼らをシンプルに使うことで自らも生き、連動性が生まれる。
誰を軸に据え、どんなバランスにするかを決めてこそ、攻撃面での連携力は高まるもの。どのタイミングで誰がどのように動き、サポートするのかが見えない以上、世界の強豪国を相手に崩しきれないのは当たり前だ。
「このままではマズイ」心理状況を脱するために…
W杯初戦まで、もう待ったなしの状況。パスの受け手と出し手のタイミングなど、選手は限られた時間のなかで意思疎通をして高めていくしかない。
結果が出ていない以上、選手も負の連鎖のような重苦しいものを感じ、「このままではマズイ」という心理状況になっていると思う。私も現役時代に経験したが、悪い流れに一度陥ると簡単には抜け出せないものだ。ただ、冒頭でも述べた通り、チームとしてできていることは確実に増えている。
経験豊富な選手が多いという部分で、今こそその力が試されていると思う。メンタル面を含めて、いかに彼らが発信者となってチーム内で危機感を共有し、攻守両面の連携面での精度を高めていけるか。
残された時間は短い。だが、改善できるチャンスはまだ十分にあるし、一つのきっかけで劇的な“化学反応”がもたらされることもある。それを信じて、チーム全体でW杯へ向かって前進するのみだ。
(Football ZONE web編集部)