切り替えスピードの遅さなど悪い面が見えた一方で、本田の勝負どころを読む力はさすが。多くの決定機に絡み続けた。(C) SOCCER DIGEST

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 本田圭佑がワールドカップ予選での日本代表の新記録となる6試合連続ゴールを決めた。86分に香川真司からのクロスにヘッドで合わせて奪った日本の3点目。試合を決定づける一撃だった。

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 この日の本田には、良さと悪さの両面が見えた。切り替えのスピードが遅く、オフ・ザ・ボールの動きが他の前線の選手と比べて少ない。19分にはベンチのハリルホジッチ監督に呼ばれ、鋭い動きを入れろというニュアンスの指示を受けていた。
 
 一方、際立っていたのが勝負どころを読む力だ。とにかく決定機に絡んだ。前半は、酒井高徳が飛び込んだ二度のチャンスにラストパスを供給し、43分には宇佐美貴史→本田→香川とロングパスとクロスで崩した。
 
 後半は、49分に本田→香川→宇佐美とつないだ場面、61分の森重真人からのクロスからの本田のヘッド、66分にはペナルティエリア内でつないで香川のボレー弾を演出、そして86分には自身のゴール、90分には香川のトドメの一撃にも絡む――などなど。運動量は少なくても、ビッグチャンスに必ずと言っていいほど絡んでいた。
 
 さて、本田がパスを受けた数と出した数を、手元で数えてみた(あくまで手元で集計した速報的な値なので参考までに)。
 
 その本田のデータから、前後半で、日本の戦い方が明らかに変わったことが見えてくるのだ。
 
本田圭佑のパス数ランキング】
▽前半45分間のパス数合計(本田がパスを受けた回数/本田からパスを出した回数)
1位/酒井高徳/14回(9回/5回)
2位/宇佐美貴史/7回(5回/2回)
3位/岡崎慎司/5回(2回/3回)
3位/香川真司/5回(2回/3回
 
▽後半45分間のパス数合計(パスを受けた回数/出した回数の合計)
1位/香川真司/18回(9回/9回)
2位/長谷部誠/9回(6回/3回)
3位/岡崎慎司/6回(4回/2回)
 
 相手がマンマーク気味で守備を固め、日本が流れを掴めずにいた試合開始からの15分間、本田がボールに触ったのはわずか9回。そのうち4本しか、味方につなげなかった。周囲のミスも、本田のミスパスも目立った。
 
 しかし、そのあたりの時間帯から右サイドに開いていた本田が中央寄りにポジションを取り(香川とポジションチェンジも繰り返す)、徐々にパスを受ける回数が増え出す。15分から30分の間、ボールを受けた回数は15回に増加(計23回)。その流れのなかで、先制のOGが決まった。
 その後も本田はやや中央寄りにポジションを取ってプレーする。空いた右サイドのスペースを活用し、酒井高がアップダウンを繰り返すことでチャンスも生まれていった。
 
 後半に入ると、本田は再び右サイドに開いてパスを受ける形が増える。その本田に近い位置でプレーするようになったのが香川だ。ふたりが右サイド寄りでボールを受けることで、日本の攻撃に良いテンポが生まれ出したのだ。
 
 香川の機転に、本田も呼応。ふたりが日本のエンジンとなって、パスの供給源となる。そして、前述したように、多くの決定機に絡み、ゴールラッシュを演じてみせた。
 
「(収穫は)勝てたこと。でも、課題も出た。もっと簡単に(ゴールを)決められたと思うし、決めさせられたとも思う。2-0にするまでと、2-0にしてからの戦い方は、攻守において改善しないといけない」
 
 試合後、本田はそのようにこのシリア戦を振り返った。
 
「決定力や勝負強さと言ってしまえば、それまででもある。ただ、劇的にシュートが巧くなったり、シュートのバリエーションが増えたりすることはない。決められるところで、決めること」
 
 そのように自身に求められていたのは、あくまでゴール前での役割であったことを強調。さらに次のような興味深いことを言った。
 
「若い選手が増えているが、バランスを取ること。逆に言うと、まだそういった経験や、勝負強さが欠けている。そこを僕が補っていければと思う。その質にこだわっていきたい」
 
 まさに若手のアタッカー陣への“挑戦状”とも言える。ただし、そういったコメントからも、後半に入り、香川とともに「ゴール前」にこだわった事実が浮かび上がってくる。
 
 一方、チームとしては、課題が見えたことを、むしろ収穫に挙げた。
 
「リスクをかけるのは分かってやっているわけだから、(ピンチを招くのは)ある意味、当たり前でもある。ただ、ピンチになると“想定外”ということで話し合いになるのは、本当は良くない。こんなにカウンターを食らっては絶対にいけない。褒められるわけではない。でも、勝った試合で、課題が出たのは良かった」
 本田は攻撃的に戦ったからこそ見えた課題だったと強調していた。
 
「(ゴールを)決めに行って決められて、結果的には無失点に抑えられた。ボランチにあえて枚数をかけて、マコ(長谷部)、(原口)元気、(山口)蛍は行くところと、行けないところをこのレベルで学んだと思う。ただ、それも『行かない』と学べない」
 
 また、A代表通算100試合出場を果たした岡崎について、次のように語った。
 
「ゴール、取りたそうでしたね。僕が好きなのは(岡崎に対する)監督の対応。僕もベテランと呼ばれる域になってきた。日本では良くも悪くもベテランの選手は大事にされないでしょ。
 
 サッカー界だけでなく、新しいものが持ち上げられて、またそれで飽きたら新しいほうへと関心が移っていく。でも、ミーティングでも、監督からはオカへの決定的なリスペクトを感じる。褒め殺すぐらい、偉業をたたえていた。日本の管理職には見られない対応。それだけのことをやってのけた。代表で100試合、そうそうできることではない」
 
 そんなハリルホジッチ監督だからこそ、彼は「勝たせたい」という想いを強くする。
 
「部下に尊敬される、愛のある監督。結局は、ワールドカップの3試合で結果を残さないと、評価をしてもらえない。でも、監督の下であれば、たとえ負けたとしても抱き合える、最後まで闘える集団を作れるのではないかと思う」
 
 現在の本田は、勝負に徹するリアリストだ。チームを勝たせるために、自分はどのような役割をこなし、どのようにバランスを取るべきかを考え抜く。そして臨機応変にポジション取りや戦い方を変え、ゴール前での勝負にこだわり――日本の5ゴール快勝劇に導いた。
 
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)

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