【考察】『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』ピーターはどうやって生活していたのか? ─ ナゾの収入源について考える
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が公開中だ。スパイダーマン歴代映画の精神を結集させたような出来栄えに、評価も高い。初週末だけで世界9億2,700万ドル(約1,462億円)を稼ぎ出し、映画史上2位のオープニング成績を叩き出す歴史的ヒット。ファンの間では、ほとんど完璧なスパイダーマン映画と評されている。
一方、この映画ではピーター・パーカーについて説明されていない重要な側面もある。それは、物価の高いニューヨークで暮らすピーターはいったい何を収入源として、どのような経済生活を送っているのか、ということだ。
シリーズ前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、ピーターは大切な人々を守るため、魔術を使って自分自身に関する記憶を世界中の人々から抹消。その結果、愛するMJや親友のネッドも自分のことを忘れてしまうことに。それから4年、ピーターは家族も恋人も友人も持たない孤独なヴィジランテ生活を送っている。
MJとネッドはMITに進学し、キャンパスライフを謳歌していた。ピーターは進学が叶わず、SNSを通じて2人の様子を見守るのみだ。それ以外の時間、ピーターはニューヨーク市警のジーン・デウォルフ刑事と連携を取りながら、ひたすらに悪党たちとの戦いに明け暮れている。
(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVELここで疑問となるのが、ピーターは何を収入源として生活を続けているのかということだ。例えばサム・ライミ版『スパイダーマン』トビー・マグワイアのピーター・パーカーはフリーランスのカメラマンとしてデイリー・ビューグル紙に写真を納品していたほか、『スパイダーマン2』ではピザ屋の配達アルバイトにも勤しんだ(クビにされたが)。『アメイジング・スパイダーマン2』でのアンドリュー・ガーフィールド版ピーターも、スパイダーマンの写真をデイリー・ビューグルに売っていることが示されている。
しかし今作のピーターには、働いている様子はおろか、収入源をうかがわせる描写すらなかった。
(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVELピーターは独自のテクノロジーを追求するために、「アスベストのひどい」倉庫部屋を借りて、コンピューターや各種ガジェットを並べ、独自の研究設備を整えている。こうした機材を調達する資金も必要なはずだし、自室や倉庫部屋をどれだけ格安で借りられたとしても、ニューヨークの家賃相場は高額だ。そのほか、物価の高いニューヨークでの食費や光熱費、通信費も当然ながら発生する。
一体、ピーターはどうやってニューヨークでの生活を維持していたのだろうか?いくつかの可能性を考えてみたい。
まず考えられるのが、前作『ノー・ウェイ・ホーム』で死亡したメイおばさんが残した遺産や生命保険金である。前作でメイは突然命を落としており、ピーターを受取人とする生命保険や、預貯金などの遺産が残されていた可能性はある。
© 2017 Columbia Pictures Industries, Inc. and LSC Film Corporation. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & 2017 MARVEL.ただし、それだけで4年間の生活費と研究費を賄えたとは考えにくい。メイがピーターに巨額の財産を残せるほど裕福だったことを示す描写はなく、ニューヨークで部屋を借りながら、倉庫まで確保し、高性能なコンピューターや実験機材を揃えるとなれば、相当な資金が必要になる。
続いて考えられるのは、トニー・スタークから遺産の一部を受け継いでいた可能性だ。トニーは生前、ピーターに高価なスーツや人工知能、衛星システムまで託していた。教育資金や生活費を用意していたとしても、その人物像からして不自然ではない。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、「予期せぬ死に備えて」愛娘へのホログラムメッセージも残していたほど用意周到なトニーである。生前、莫大な資産をどのように配分するかを考えていたはずで、自身が見出した若き才能であるピーターに、その一部を与えようとしていたとしてもおかしくない。
© 2017 Columbia Pictures Industries, Inc. and LSC Film Corporation. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & 2017 MARVEL.もっとも、まだ若かったピーターにまとまった資産を一括で渡すよりも、学費や生活費などを必要に応じて受け取れる信託を設けていたと考える方が自然だろう。ピーターはトニーを心から敬愛していたので、受け継いだ資産にはできるだけ手をつけず、トニーの遺志を継いだヒーロー活動に集中できる最低限の金額だけを受け取りながら、質素な生活を送っていたのかもしれない。
ただし、この場合は『ノー・ウェイ・ホーム』後に不都合が生じる。世界中の人々がピーター・パーカーの存在を忘れてしまったため、トニーの資産を管理する担当者も、ピーターとの関係を覚えていないはずだからだ。
信託契約や過去の支払い記録に「ピーター・パーカー」という名前が残っていたとしても、担当者からすれば、トニーがなぜ見ず知らずの青年を受益者に指定したのか分からない。もちろん、担当者がピーターのことを知らないというだけで、信託の条件を無視して勝手に受益者から外すことはできないだろう。
しかし、本人確認や給付の根拠を改めて精査するため、支払いが一時的に保留されることは考えられる。特に、一定額が自動的に振り込まれる仕組みではなく、受託者が生活費や学費の必要性を確認し、その都度給付の可否や金額を判断するよう信託文書に定められていた場合だ。
トニーが慈善的な目的から複数の若者を受益者に指定していたのでもない限り、彼との関係が一切思い出せない青年への継続的な給付記録は、担当者の目にも異例に映っただろう。書類上は正当な受益者でありながら、なぜトニーが支援していたのかを誰も説明できないとなれば、給付の経緯が調査されても不思議ではない。
逆に、魔術の後も資金が問題なく支払われ続けていたとすれば、トニーが設計した資産管理システムが、人間による判断をほとんど介さず、契約や本人認証に基づいて自動的に給付を続けていたのかもしれない。人工知能を駆使していたトニーなら、あり得ない話ではない。
最も現実的なのは、映画で描かれていない時間に、ピーターが何らかの仕事をしているという可能性だろう。
ピーターには、同世代をはるかに上回る科学、工学、プログラミングの知識がある。ウェブ・シューターや特殊機器などを独力で開発できる人物であり、プログラム開発や電子機器の修理、オンライン教師、技術資料の作成や科学コンサルティング業などで収入を得ることは十分に可能だ。出勤時間の決まった仕事ではスパイダーマン活動との両立が難しいが、納期さえ守れば働く時間も場所も選べるリモートワークなら都合がいい。
(C)& TM 2026 MARVELもっとも、「科学コンサルタント」のような専門職として企業と正式に契約するには、学歴や職歴、身分証明、納税者番号などが求められる。大学に進学できず、職務経歴も持たないピーターにとって、大企業の研究案件やコンサルティング業を受注するのは簡単ではないだろう。むしろ小規模なプログラミング案件やウェブサイト制作、故障した機器の修理といった、本人の能力を直接換金できる身近な仕事の方が現実味はある。
倉庫に並ぶ機材についても、すべて新品で購入したとは限らない。廃棄された電子機器を修理したり、ジャンク品から部品を回収したり、これまで戦った犯罪者たちの装備を研究用に転用したりしていれば、調達費用は大幅に抑えられそうだ。ピーターほどの技術力があれば、一般人には価値のない廃品から、高性能な装置を組み上げることもできるはずである。
もうひとつの可能性は、協力関係にあるジーン・デウォルフ刑事、ひいてはニューヨーク市警から報酬を受け取っているというものだ。
現実のニューヨーク市警も、捜査に秘密情報提供者を利用している。また、匿名の情報が凶悪犯の逮捕と起訴につながった場合、情報提供者が報奨金を受け取れる制度も存在する。したがって、警察に情報を提供する正体不明の協力者に金銭が渡ること自体は、まったくあり得ない話ではない。
しかし、これはスパイダーマンを市警の正式な外部職員として雇うこととは別問題だ。覆面をつけ、法的な身元を明かさない人物に、市が毎月の給料を支払うことは現実的ではない。世間に対して匿名であることと、報酬を支払う機関に対してまで完全に匿名であることは同じではないのだ。
デウォルフが捜査協力費や情報提供料として少額を私的に渡している可能性なら残されている。しかし、スパイダーマンは情報を伝えるだけでなく、現場で容疑者を追跡し、直接戦闘を行う。その場合、もはや協力者や情報提供者というより非公式な賞金稼ぎであり、法的責任や捜査手続きの面で問題だらけだ。生活を支える安定収入としては、あまり現実的ではない。
以上を踏まえると、ピーターの経済生活は、ひとつの大きな収入源によって成立しているのではなく、複数の手段を組み合わせたものではないだろうか。メイの遺産や保険金を新生活の初期費用に充て、普段はプログラミングや機器修理などの仕事で最低限の生活費を稼ぐ。研究機材には中古品や回収した部品を活用し、場合によっては警察から捜査協力への謝礼を受け取る。これなら、決して豊かではないものの、どうにかニューヨークで暮らし続けていることには説明がつくかもしれない。
『ブランド・ニュー・デイ』はピーターの孤独を丁寧に描いた一方で、彼がどうやって食い繋いでいたのかは、公式には空白のままだ。1人の青年が、生活とヒーロー活動をどう両立しているのか。その答えは、次回作でぜひ見てみたいピーター・パーカーの日常である。
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』は公開中。

