板東英二さん死去で思い出される「植毛は経費だと思っていた」発言の真相
スポーツ転身組のパイオニア
22日、プロ野球選手でタレントや俳優としても活躍した板東英二さんが、慢性心不全のため亡くなった。86歳だった。「ゆで卵好き」を事あるごとに公言するなどエピソードに事欠かず、スポーツ選手からタレントへの転身組の成功者としては、パイオニア的存在だった。一方で所得隠しを国税当局から指摘されたこともある。その釈明会見の際に飛び出した「植毛は経費だと〜」発言は平成の芸能史に色濃く刻まれるものだったと言えるだろうか。
板東さんは1940年、旧満州で生まれた。1958年、夏の甲子園に徳島商のエースとして出場し、チームを準優勝に導いた。1大会83奪三振の記録は今もなお破られていない。プロ野球の中日に入団して11年で77勝をあげた後に退団。野球解説者として活躍する一方、クイズ番組「マジカル頭脳パワー!!」で司会を務めるなど、タレントとして成功を収めた。1989年に公開された降旗康男監督の映画「あ・うん」では日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞などを受賞するなど俳優としても足跡を残した。

2012年12月の報道
そういった光の部分とは対照的に陰の部分として記憶されているのが、2012年12月に報じられた所得隠し問題だろう。ざっとその内容を紹介しておこう。
・板東さんが役員を務めていた番組企画制作会社が、名古屋国税局の税務調査を受け、過去7年間で計約5000万円の所得隠しを指摘されていた。他の経理処理を含めた申告漏れ総額は約7500万円、重加算税を含めた追徴税額は約2800万円。
・同社は当時、板東さんの個人事務所の機能を果たしていた。2010年の決算期の売り上げは約5.5億円。
・同社はテレビ番組の企画の一部を外注する際、外注先に対して架空の発注をするなどしていた。板東さん個人の費用についても会社の経費に付け替えたと見られる。国税当局はそれらの行為を「法人所得を故意に圧縮する隠蔽・仮装行為」と判断した模様だ。
板東さんは名古屋国税局から感謝状を贈られたこともあるほど、国税当局の納税PRに協力してきた立場だった。そのイメージ反転のダメージは大きく、タレント活動の謹慎を余儀なくされ、「世界ふしぎ発見!」などテレビ、ラジオを合わせ週9本あったレギュラーは降板や打ち切りとなった。
涙の会見
2013年11月、涙の会見を行った板東さん。なぜ1年近くも沈黙を守る空白期間を置いたのか。それについては、今も野球選手の血が流れており、現役選手が努力している中、自身のプライベートで紙面を汚すことは看過できないとプロ野球のシーズンが終わるまで会見を見合わせていたからだと説明した。その中で出たのが「植毛は経費」発言だった。
板東さんは《約20年近く、植毛をずっとやってまいりました。経費で落ちると思っていた》《カツラが経費として落ちると聞いていたので、当然植毛もと思っていた。今回の調査で植毛は美容整形と同じだと、初めて(経費にならないと)分かった次第です。それが大きな見解の相違の中の1つ》などと説明。「カツラと植毛の間にある長くて深い溝」の存在を世間は知るところとなった。
「カツラは芸能活動において必須だと認められれば経費計上は可能かもしれません。一方の植毛は施術であり、カツラのように着脱は不可能。プライベート時とタレント活動時を分けられないため、経費にも医療費控除の対象にもならないという判断は今もそうかもしれません」(国税OB税理士)
部分カツラに変えた
「ちなみにですが、経費計上に関してホステスが身に着けるものも俎上にあがることがありますが、仕事でしか着ていないドレスなどは経費計上が認められ得る。この架空外注は、税法上で最も悪質な『隠蔽・仮装』に該当するため、ペナルティの重加算税が課されることとなりました。お客さんに来てもらって売り上げアップのために必要不可欠だと強く主張できるならばマツエク(まつ毛エクステンション)であっても経費計上は可能です」(同)
板東さんに話を戻すと……。
「本件はカツラと植毛の話題が注目されて実態はあまり理解されないままだったかもしれませんが、国税当局は“板東さん本人が10年以上にわたって架空外注を主導した”ことの方を重要視していたと記憶しています。所得隠しに協力してくれた外注先に板東さんの会社から謝礼を支払っていた疑いがあったためです。この架空外注は、税法上で重加算税の対象となる『隠蔽・仮装行為』に該当するため、厳しいペナルティが課されることとなりました。さらに、納税意識向上の旗振り役として味方だと思っていた板東さんに裏切られたとの“実感”も当局にはあったはずです。それゆえ、社会的影響の大きさからも範を示させる意味合いを含め、一切の妥協なき厳しい判断が行われたものと推察されます」(同)
痛手を負った板東さんはその後、タレント活動復帰を果たすも、露出減は避けられなかった。ただ番組に出演した際には、持ち前のサービス精神を発揮して「植毛をやめて部分カツラに変えた」事実を明かし、笑いを誘ったこともあった。タレント魂を見せつけるシーンだった。
デイリー新潮編集部
