金利が1%上がれば「返済額2000万円増」…!それでも若者が「50年・変動金利」を選ぶワケ
「4人に1人が超長期ローン」の現実
前編で触れたように、政策金利は2026年6月に1.00%となり、フラット35も初めて3%を超えた。
こうした金利上昇局面で、住宅ローンの返済期間に大きな変化が起きている。
――前編はこちら――『「今買わないと、もう買えない」…20代の持ち家率が20年で2倍に!「NISA世代」がマイホームを買い始めたワケ』
今年1月に、住宅金融支援機構が住宅ローン利用者に対し実施した調査によると、返済期間36年以上を選んだ人の割合は23.4%と、2021年4月からの約5年間でおよそ3倍に急増した。
かつて「最長35年」が住宅ローンの常識だったことを考えると、約5年で様変わりした。
住宅価格の高騰と金利の上昇が重なる中で、月々の返済額を抑えるために期間を延ばすという選択が広がっている。
金融機関側も変動型で最長50年の商品を用意するところが増えており、1年前と比べて約24ポイント上昇し、57.5%の金融機関が50年商品を提供している(住宅金融支援機構、2026年3月)。
インフレ前提で「賢く借りる」
なぜ若い購入者は、金利が上昇しているのに変動を選び、返済期間を長くするのか。
その論理は意外にも合理的だ。
現場で聞く若い購入者の声に、「金利だけが上がることはない。金利が上がるということは物価も給料も上がるはずなので」というものがある。
インフレと金利の連動という経済の基本を、SNSやYouTubeで学んだ世代が、自分の判断として選択している。
現在も住宅ローン利用者の75%が変動を選んでいるのは、こうした確信を持った上での判断だ。
超長期ローンについても同様だ。
50年かけてゆっくり返すことは義務ではなく、「50年かけて返せる権利を得た」という発想の購入者が多い。
インフレが続けば物件価値は上がる。
20〜30年後に売却すれば残債より高く売れる--そう読んでいるのだ。
住宅ローンを長期で借り、手元の流動性を確保しつつNISAでの資産運用も続けるという戦略は、金融リテラシーの高い世代らしい発想だ。
ただし、この論理が成り立つためには「インフレが続く」「給料が上がる」「物件価値が維持される」という前提が崩れないことが条件になる。
変動金利には「5年ルール」と「125%ルール」という保護の仕組みがあり、金利が上がっても5年間は月々の返済額が変わらない。
しかしこのルールは「返済額が変わらない」というだけで、利息は増え続ける。
その分が元本に上乗せされ、残債が減りにくくなるという「見えない負債」の問題は理解しておく必要がある。
金融機関も同様に見ていて、住宅ローンの審査に使う「審査金利」を4%程度まで引き上げるところが増えており、自分の計算では借りられるはずだったのが審査を通過しないケースも出始めている。
「借りられる最大額まで借りる」という判断には慎重であってほしい。
金利1%上昇で支払いは「約2,000万円」増
若い世代の論理を理解した上で、数字の現実も確認しておきたい。
1億円を金利1%で借りた場合、35年返済なら月々の返済額は28万円程度だが、50年返済にすれば21万円程度まで下がる。
月7万円の差は大きい。
しかし返済期間を延ばすことは、それだけ金利変動のリスクにさらされる期間が長くなることを意味する。
試算すると、1億円・35年返済で金利が1%上昇した場合、月々の返済額は約5万円増加し、年間で約60万円、35年の総額では約2,000万円の差が生じる。
「インフレで給料も上がるから大丈夫」という見通しが外れた時の影響は、決して小さくない。
「ペアローン」の意味
金利上昇の中でも購入を実現させるために、夫婦それぞれがローンを組む「ペアローン」の利用も広がっている。
リクルートSUUMOの調査によると、首都圏の新築マンション購入者のペアローン利用率は2025年で36%に達した。
ペアローンは2人分の収入を基に借入額を大幅に増やせる反面、夫婦それぞれが別々のローンを組み、互いが相手のローンの連帯保証人となる仕組みだ。
夫のローンを妻が、妻のローンを夫が保証し合う形になる。借入額を増やせる利点の裏側で、返済義務もまた2本立てになっている。「35年間の夫婦愛を金融機関に誓う契約」と言われるゆえんだ。
万一離婚という事態になっても、2本のローンはそれぞれ独立して残り続ける。
「相手のローンの保証人から外れたい」と思っても、金融機関の承認なしには外れられず、実務上ほぼ認められない。双方が合意の上で売却するか、どちらかが相手分のローンも引き受けるか--いずれも容易ではない。
育児休業や転職で一方の収入が一時的に減少した局面でも、返済は待ってくれない。
だからこそ、ペアローンで家を買う際に最も重要なのは、物件の選び方だ。売りたい時に売れる、貸したい時に貸せる--そして売却・賃貸の収入でローンが残らない。
そういう物件であれば、人生に何が起きても選択肢が残る。
もちろん、夫婦仲が良く、ご家族がずっと幸せであることが一番だ。
ただ32年この仕事をしていると、人生は思い通りにならないことを何度も見てきた。
だからこそ、幸せな時に「万が一」を想定した物件選びをしてほしいと思っている。
変動か固定か--正解より大切なこと
「変動か固定か」という問いへの答えは、金利水準の予測よりも「どちらのリスクを自分が許容できるか」で判断するのが現実的だ。
変動金利は現在の支払いを抑えられる半面、将来の金利上昇による返済増加リスクを借り手が負う。
固定金利はそのリスクを金融機関が負う分、金利が高めに設定される。
フラット35が3.140%、大手銀行の10年固定も3.5%に達した今、固定の「安心料」のコストは決して小さくない。
私が長年の現場経験から一つ申し上げるとすれば、「金利の選択より、物件の選択の方が長期的な影響は大きい」ということだ。
どれだけ有利な条件でローンを組んでも、値下がりリスクの高い立地の物件を選べば、資産としての価値は損なわれる。金利を0.1%改善しようと奔走する時間があれば、物件の立地と将来の流動性を見極めることに使った方がいい。
目安として、理想的な返済比率は年収の20%以内とされる。
金融機関は年収の40%程度まで融資することもあるが、それが上限であって適正水準ではない。
ライフスタイルの変化や不測の事態に対応できる余力を残した借り方をすることが、長く持ち続けられる条件になる。
住宅は数字より先に、家族のために選ぶもの
前編から後編を通じて、住宅を資産として合理的に捉える視点を中心に述べてきた。
インフレ時代において、こうした考え方は確かに重要だ。
しかし私は、32年間にわたって住宅の販売に携わってきた立場から、一点だけ申し上げたいことがある。
住宅は家族のために選ぶものだ、ということだ。
人生の変化は、誰にも正確には予測できない。資産価値だけを追って家を選ぶと、「そこに住んで本当に快適か」「家族にとってどうか」という問いが抜け落ちることがある。通勤、子どもの学校、日々の余暇、老後の医療アクセス--数字には表れない「暮らしの質」こそが、家の本質的な価値だ。
資産性と暮らしやすさは必ずしも相反しない。希少性の高い駅近の立地は、経済環境が変わっても需要が底堅く、売りやすく貸しやすい。そうした立地を選ぶことが、資産としての合理性と暮らしの満足度の双方を満たす。
「今のライフスタイルに合った家を買い、合わなくなったら売るか貸す」という前提で動くなら、その前提が成り立つ物件かどうかを最初に確かめることが重要だ。住宅ローンの条件に一喜一憂する前に、まず「この家を将来も持ち続けられるか」「次のステップへ移れるか」を問うてほしい。
住宅が資産として語られる時代だからこそ、その本質を見失わないことが大切だと思っている。
さらに連載記事『住宅「50年ローン」は有りか無しか?人生を左右する「超長期返済のリスク」をプロが徹底解説します!』でも、マイホームと金利の関係を論じているので、ぜひ参考にしてほしい。
