なぜこのタイミングで三菱が?

梅雨明け前に関東は気温が30度オーバー。そんな7月9日に都内で、あっと驚く記者発表が行われた。自動車メーカーがヒューマノイドロボット事業に参入するというのだ。

【画像】三菱がヒューマノイドロボット事業にサプライズ参入!スタートアップ『ハイランダー』と基本合意 全6枚

しかも、それがトヨタ、ホンダ、日産といった日系大手ではなく、三菱自動車工業(以下、三菱)であることにメディアの注目が集まった。『なぜこのタイミングで三菱が?』という観点である。


7月9日に都内で行われた記者発表では、ヒューマノイドロボットが歩行して入場。    桃田健史

パートナーの対象となったスタートアップは、東京大学発のAI(人工知能)、ロボティクスを得意とする『ハイランダーズ』(Highlanders)。創業は2023年とまだ若い企業で、契約社員を含めて社員は46人だ。

では、発表内容について振り返ってみたい。

大筋としては、『人とロボットが共に働く新しい産業基盤の実現に向け基本合意書(MOU:メモランダム・オブ・アンダースタンディング)を締結』したというもの。

そう聞くと、将来を見据えて基礎的な研究開発からコツコツ始めて……というイメージを持ち人がいるかもしれないが、かなりハイペースでことが進みそうなのだ。

ロボットといっても様々な種類がある中で、両社の連携で最初に導入するのはヒューマノイドロボット。いわゆる人型ロボットであり、海外ではテスラなども普及に向けた事業計画を発表している。

まずは三菱の自社工場でハイランダーズのヒューマノイドロボットを導入。使用データ、運用ノウハウを蓄積しながら、ヒューマノイドロボット領域における知見を深めていく。

熟練工による匠の技を継承する可能性

では、ヒューマノイドロボットが三菱のどの事業所でどのような作業を行うのか。

会見で三菱の取締役会長兼代表執行役CEOの加藤隆雄氏は、ひとつの例として京都工場でのエンジン関連製造を引き合いに出した。


左からハイランダーズCEOの増岡宏哉氏、三菱の取締役会長兼代表執行役CEOの加藤隆雄氏。    桃田健史

作業としては、荷物の積み下ろしをする荷役のような単純作業だけではなく、熟練工によるエンジン部品の加工なども念頭に置いているようだ。

溶接や塗装の領域では三菱に限らず、ほとんどの自動車メーカーで産業用ロボットを活用した自動化がすでに進んでおり、ヒューマノイドロボットには熟練工による匠の技を継承することもあり得る。

国が進めるAI普及施策においても、いわゆる暗黙知(あんもくち)を学習することで、日本でのモノづくりのレベルをさらに引き上げようという動きがある。今回の三菱の事例は国の動きと今後、連動する可能性があるのではないだろうか。

将来を見据えて、即断即決

では、そもそも三菱とハイランダーズとはどのようにして出会ったのか?

加藤CEOによれば、最初は生産領域における将来的な人手不足などの解決策を練る中で、アメリカや中国で本格普及に向けた動きが加速しているヒューマノイドロボット領域のリサーチを始めたという。

その過程で、複数のヒューマノイドロボット関連企業と意見交換をしたが、ハイランダーズに高いポテンシャルを感じ、実施的に面談は1回だけで協業に向けた話が始まったことを明らかにした。

こうした即断即決、またその後も物事が極めてハイペースで進む三菱の企業姿勢に対して、ハイランダーズの増岡宏哉CEOも感銘を受けたという。

月産1000台規模でヒューマノイドロボットを量産

さらに今回の会見で驚いたのは、三菱がハイランダーズのヒューマノイドロボットを量産することを視野に入れている点だ。しかも、具体的な計画を明らかにした。

プレスリリースには、『京都工場の遊休建屋を活用して、2027年の早いタイミングで生産開始を検討』とあり、加藤CEOは記者団の質問に対して2027年の中頃から後半という目処を示した。


京都工場の遊休建屋を活用して、2027年の早いタイミングで生産開始を検討するという。    桃田健史

生産台数は、なんと月産1000台。

むろん、今後のハイランダーズによるヒューマノイドロボットの開発動向や、日々進化するAI技術によるヒューマノイドロボットのアップグレードの度合い、さらに受注状況など不確定要素があるものの、当初から月産1000規模で生産可能な設備を整えるというのだ。

量産車などと比べると低い投資規模

投資規模について、加藤CEOは量産車などと比べると低いという認識を示した。投資に対する売上げ、さらには今回の記者発表で立証したメディアからの高い関心などを鑑みれば、コスパが高い事業だと言えるのかもしれない。

また、記者団からはルノー、日産、三菱アライアンスにおける日産との関係や、日産とホンダによる知能化領域での協議に関連したホンダ向けなど、他の自動車メーカーに対するヒューマノイドロボット販売について質問があったが、現時点では具体的な協議はないものの、将来的な可能性については否定しなかった。

また、三菱社内での受け止めについて、加藤CEOは現時点では社内で広く知られていない段階であるものの、新しい挑戦に対してポジティブな声を聞いているという。

あっと驚く、三菱の新規事業。今度の動向に注目だ。