「高市総理も文春もみんな”この男”に踊らされてしまったのか…」誹謗中傷動画を告発したキーマン・松井氏に《深刻な疑義》
今年2月末、高市総理の名を冠した暗号資産「SANAE TOKEN(サナエトークン)」が発表された。実は、その発行元の合同会社NoBorder DAO(以下、ノーボーダー)の幹部であり、サナエトークンの首謀者こそが、松井健氏だ。
では、松井氏が文春や共同で告発しはじめた「動機」は何か? 高市総理がサナエトークンとの関係を否定し、計画が崩壊したことへの「腹いせ」にもみえるが、それだけではない。筆者は松井氏が過去にも暗号資産関連で複数の投資トラブルを引き起こしてきたことを報じてきた。
【前編記事】『ゼロからわかる“サナエトークン首謀者”松井健という男の正体「彼はどうやって高市総理に接近したのか」』よりつづく。
なぜメディアに出てきたのか
松井氏は、'18年には作家の竹田恒泰氏が計画していた暗号資産の新規上場計画に乗じ、勝手に資金集めをして投資家とトラブルに。'20年には宇宙ベンチャー企業と連携して暗号資産をシンガポール市場に上場させると吹聴し、少なくとも約4.5億円を集めた。しかし、進捗報告もなく、こちらも返金トラブルになっている。
挙げ句の果てに、サナエトークンを巡る「プレセールス(事前販売)」問題だ。松井氏が代表の株式会社neuは、トークンが取引所で流通する前に、「優先受領権」や「優先購入権」を提供するとして、投資を募った(NCC会員サービス)。松井氏と近しい関係者は、「少なくとも15億円程度が集まっていた」と語る。
政府関係者は「暗号資産の事前販売にあたり、資金決済法に違反する可能性がある。集めた資金の流用が確認された場合、刑法上の詐欺罪になるおそれもある」と明かす。契約者からは返金要求が相次いでいるが、松井氏は対応を先延ばしにし続けている。
本誌が松井氏の本性を暴く中、彼は勝負に出た。4月以降、弁護士同伴で『週刊文春』の取材を受け、「高市陣営として誹謗中傷動画を作成し、流布した」などと告発していく。急所となる「サナエトークン」から「誹謗中傷動画」へ世間の注目を逸らそうとしたのだ。サナエトークンに事前に投資した契約者が明かす。
「松井氏はこの間、私が返金を要求しても、『国会対応で忙しい』と応じなかった。溝口氏がYouTubeチャンネルで『捕まったら全部喋る』と話したように、政権を牽制すると同時に、時間稼ぎを図っているのでしょう。やろうと思えば、海外逃亡や資金移動もできる。被害者同士で連絡をとりあっていますが、『俺を攻撃したらどうなるかわかっているな』と逆ギレされた人もいます」
松井氏の“告発”に踊らされるメディアたち
松井氏は信頼に足る人物とは言いがたい。そして、いまや松井氏によるメディアへの「告発内容」にも深刻な疑義が生じている。
共同通信社は6月12日に公開した松井氏のインタビュー記事について、内容の訂正と写真の削除に追い込まれた。提供された「総裁選期間中に作成した」とする動画に、今年2月の衆院選における高市総理の写真が使われていたのだ。時系列がおかしく、松井氏が取材用に捏造した可能性が高い。
「松井氏は動画の痕跡をすべて消したと説明しているが、木下氏もアカウントを知らされていなかった。松井氏が実際にどれだけ動画作戦をやっていたのか、極めて怪しいのです」(松井氏周辺)
共同通信のみならず、松井氏の「独占告白」をいち早く報じた『週刊文春』も深刻な問題を抱える。同誌に問い合わせると「誌面で検証する」と答えたが、世論が松井氏の虚言に惑わされ、逃げ切りのための時間稼ぎに利用されたとすれば、その罪は重い。
松井氏の「ウソ」はこれだけではない。共同通信や週刊文春は松井氏の経歴について、「自民党副総裁の麻生太郎氏が関係する麻生グループ運営の専門学校卒業後に、同グループ中核企業・株式会社麻生に入社した」と紹介している。だが、同社の管理本部長はこう答える。
「事実ではありません。グループ中核の麻生本部ではなく、'13年に私どもが福岡で営む新飯塚ステーションホテルというビジネスホテルに1ヵ月半だけ在籍しており、同年の5月22日を最後に出勤していません。共同と文春からは、在籍確認はなかった」
麻生本体ではなく、麻生グループが運営するビジネスホテルにわずかな勤務歴があるだけなのだ。メディアは裏取りもせず、松井氏が語る虚偽の経歴を垂れ流していた。
本当にカネを返す気があるのか?
松井氏の返金問題はいまだ片づいていない。前出と別の契約者は「業を煮やして金融庁に相談に行った」と明かす。
松井氏は本当にカネを返す気があるのか? 質問状を送ると検察出身の顧問弁護士から電話があった。
―合意書の締結を契約者に打診しているが、返金する気はあるのか? 刑事的な責任を逃れるための時間稼ぎでは。
「私はあくまで代理人ですが、返す気がないならやらない」
―(松井氏が)メディアに提供した資料について弁護士として真偽をチェックした?
「チェックしたが、私一人でやれる範囲には限度がある」
―あなたは松井氏の投資トラブルの後処理をたびたび請け負っているが、元検事として良心は痛まない?
「それは河野さんの評価で、私は私の考えでやっている」
木下氏に改めて、松井氏とのやりとりの詳細などを尋ねると、「高市事務所においては、週刊誌報道にあるような動画を作成・発信するといったことは一切行っておらず、第三者に依頼したこともありません。松井氏がどのような活動をしていたのか一切承知しておりません」と回答した。
松井氏を知る人は、彼は「人の欲を刺激すること」に長けていると語る。金銭欲や選挙での勝利、スクープへの欲求。「選挙結果は操作できる」という魅惑的なストーリーを描けば、人はのってくる。総理事務所も、メディアも、皆、踊らされた。インテリジェンス強化を掲げる高市政権だが、ちゃんちゃらおかしい。
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取材・文/河野嘉誠(ジャーナリスト)
'91年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、『サンデー毎日』『週刊文春』の記者を経てフリーに。主に政治を取材している
「週刊現代」2026年7月6日号より

