バーテンダーから風俗嬢へ…世界中から人が集まるアメリカの売春宿が客にも従業員にも優しい理由
やりたいことを何でもできるような人間に憧れた
<世界最古の職業>と謳われる売春。日本では非合法だが、暗黙の了解として性を売る人々の存在があることは誰もが知るところだ。昨年11月11日に開かれた衆議院予算委員会で、我が国の総理が法務大臣に売春防止法の規制に関する検討を指示。とはいえ未来永劫、このビジネスは無くならないだろう。
アメリカ合衆国において唯一、売春を合法とするネバダ州。正確には、売春宿の経営を認めている。本シリーズで過去に紹介した“伝説の娼婦”は、年間最高175万ドルを稼ぎ出したそうだ。
同州で営業中の19の売春宿のうちの一つ、Chicken Ranchを訪ねた。
日曜日の午前10時。初夏を思わせる日差しが差し込むフロアーに、気怠そうな表情のリア・サンシャインがやってきた。
ソファに腰掛けるや否や「写真は撮らないで。寝起きだから」と言った。誕生日、つまり年齢も答えなかった。
「ネバダ州リノで生まれて、カトリックの学校に通った。父は30年くらい、大型ブルドーザーの部品を作る会社に勤めていた。鉱山や建設、スキーリゾート開発の工事に使われるブルドーザーよ。結構稼いでいて、よく遊びに行った。実の兄が1人、義理のきょうだいは3人、私は2番目だった。
私は幼い頃、ロックスターになりたかった。特に歌が好きってわけじゃなく、格好良くて、人に賞賛され、お金もあって、やりたいことを何でもできるような人間に憧れたの。高校卒業後は進学して、医療アシスタントと介護助手の資格を取った。ビジネスで成功したかった」
しかし、ロックスターのような優雅な生活は送れなかった。
「バーテンダーになって、子供が生まれた。20代前半は楽しんだし、旅行もした。本当にエンジョイしたわ。プライベートジェットに乗ったり、マイアミの海を大型ボートで移動したり」
バーテンダーの稼ぎで、煌びやかな暮らしを手に入れたわけではない。サンシャインは、微笑しながら説明した。
「ニューヨークでバーテンダーをしていた時、常連客の一人がこの世界に入るきっかけを作ってくれた。まあ、いくつかの要素があったんだけど……。当時の交際相手が弁護士だったので、彼の助けを受け、ニッチな職やその役割、あるいは社会学的な視点での側面を調べた。複数の仕事を掛け持ちしながらあくせく働いて、子供に会えないような生活をするのは嫌だった。
当時から、ちらっと娼婦を見かけることはあった。アメリカ国内のあちらこちらでね。初めて風俗店に行ったのは、ウィネバッカっていう小さな町。好奇心からよ。その後、Ranchの存在を知った。で、ある女性のお客さんに相談してみたの。バーのお客さんって失礼な連中が多かったんだけど、彼女は信頼できた。メールを送ったら返信が届いて『いいんじゃないの。あなたは結婚しているわけじゃないし、やってみなよ』って。それで、決めた。振り返れば、彼女が種を蒔いてくれたわ。お陰で今、この場所で仕事をしている。そう、本当に種が蒔かれたのよ」
サンシャインはこの仕事の魅力の一つに「仕事と私生活の境界線がはっきりしている点」を挙げた。
「Ranchでは、とてもいい生活が送れる。毎日毎日、充実しているし、環境が申し分ない。私の契約は2週間働いて2週間休み、って感じ。もう、9年になるかな」
“伝説の娼婦”のようにミリオネアにはなれたのか。
「う〜ん。トップクラスの女性が、そのくらい稼ぐって話を耳にしたこともある。あんたがここでインタビューしたのは、エアフォース・エミーでしょう。彼女は100万ドル〜500万ドルくらい持っているかもしれない。でもね、エミーは投資家なの。プラスアルファのカネが入ってくる。わかるでしょう? そういうことよ。全てをRanchで稼いだとは思えない。鵜呑みにしちゃダメだと思うな。
私は自分のペースで働いている。Ranchにいるのは、収入だけが理由じゃない。カネが全てでもないわ。仕事が人生ってわけじゃないし、人間関係の良さで続けているってことでもない。快適な空間、楽しんで仕事できるところが魅力。休みの度に旅行に行けるしね。私は、その日その日をエンジョイしながら過ごしたいの。で、将来の計画なんかは口にしない。私の動きを誰かに知らせる必要はないから」
誰も拒絶しない最後の場所
サンシャインは、「幸福」という言葉を何度か使った。
「私は、“おいしい離婚”を経験した。<卒業>して、鳥のように自由になり、健康的に男性とデートを重ね、キレイな家に住んでいるわ。今の生活が好き。時に、『甘やかされた専業主婦のような生活を送っているように見える』なんて言われるけれど(笑)。毎日の実生活の中で、クライアントと交渉したり、体験を作り出したりすることに喜びを感じる。自分がどれほど幸せかを分かっているから、それがお客さんにも伝わって笑みを浮かべてくれる。一瞬一瞬を心から楽しめている。
私は自分自身をオープンで明るく、気さくな人間だと思っている。誰でも温かく迎え入れるような感じね。クライアントは安心感と安全を感じているはず。彼らが今どこで、どんな状況にあるのかは分からないけれど、私はいつも彼らを受け入れる。注目や関心、欲望を求めて訪れる地であり、誰も拒絶しない最後の場所がここなんじゃないかしら。私はいつだって、お客さんを最大限に理解しようと努める。陽気な人、内気な人、アグレッシブな人、受け身な人、物静かな人、様々なタイプがいるけれど、私は特に、クライアントの皆さんに合わせたり、新しいことを話すわけじゃないの。ただ、自分があなたといて楽しい、とストレートに表現している。そんな私を支持してくれるクライアントとの出会いが、また格別なのよ」
どこの職場でもそうだが、Chicken Ranch内も同僚よりも光らなければ、給与は上がらない。このRanchでは労働の対価として客が支払う金額を娼婦とRanchで二分する。サンシャインに、自分の強みは何か?と訊ねると、ハスキーな声で応じた。
「セックス、そして私のビジネス感覚を駆使しながら、私はお客さんたちと交渉する。その際、どんな些細なことでも、自分のイメージをしっかりと示すようにしている。ひとかきのスプーンのアイスクリーム、映画、車……常に五感を研ぎ澄ませて、インスピレーションを大事にするの。男性との会話や行為や状況、1秒1秒がお客さんにとって大事だし、満足してほしい。私にとっても、必要な時間だから。歴代大統領の考え方やスピーチからだって、プラスになる要素はいくらでもあるわ」
サンシャインの次の発言は、なるほど会話を弾ませるものだった。
「私、日本に興味があるの。歴史はよく分からないけれど、ただ、好きなのよね。まずもって言葉が美しい。素人の耳にはそう聞こえるし、文化もすごく神秘的。お寺や仏像など古代人の繊細さを感じるし、奥が深いでしょう。触れてみたい。日本を歩いてみたいわ」
娼婦たちは、幾許かのカネを元にビジネスを立ち上げたいと話すタイプも少なくない。彼女はその質問にこう答えた。
「人生で一度もやったことのないことをするっていう目標はある。会社を立ち上げて、他者を幸せにしてみたいわね。一生懸命働いて経済的な安定を得て、ある程度の評判も手にしたいかな」
悪戯好きの少女のような視線を向けながら、サンシャインは続けた。
「その反面、午前9時から午後5時までの仕事に戻りたいなって、感じることもある。私は自分の生活を大切にしているし、仕事を楽しんでいる。今のところ順調だし、自由な時間も持てているわ」
彼女は別れ際に付け加えた。
「日本人のお客さんもウェルカムよ。是非、会いに来てほしいな!」
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