(※写真はイメージです/PIXTA)

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「もしいま、仕事を失ったら生活が行き詰まる」という恐怖は、人を組織に従順にさせ、時に理不尽な環境を我慢し続ける原因になります。しかし、手の中に「いつでもこの場を去れる」という切り札を一枚握っているだけで、職場の景色は180度変わります。本記事では佐藤恒一さん(仮名)の事例とともに、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が組織に人生をコントロールされないための「経済的自立」について解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。

「窓際社員」と呼ばれても動じない55歳男性の正体

佐藤恒一さん(仮名/55歳)は、地方の大企業グループ会社で新卒から働いています。佐藤さんの仕事は、工場で製造された部品を出荷指示に従って発送する業務。月収は35万円です。繁忙期こそ忙しくなるものの、高度な専門性を求められるような仕事ではないといいます。

入社以来、30年以上同じ会社で働き続けてきましたが、昇進への意欲はいつしか失われ、与えられた仕事だけを淡々とこなす、いわゆる「指示待ち社員」になっていました。

私生活では独身を貫き、80歳を超えた母親と実家で二人暮らし。職場でも特に親しい同僚を作ることはなく、必要最低限の会話だけで一日を終えるのが日常でした。

やる気が見えない態度のせいか、社内での評価は高くありません。年下の上司からは、「そろそろ引き際を考えたらどうですか?」といった嫌味をいわれることもしばしば。同僚たちも陰で「あの人は窓際だから」と噂しています。

しかし、当の佐藤さんは一切動じる気配はありません。上司にはただ「そうですか」と答え、反論もしなければ怒りもせず、陰口を叩く人には「俺は窓際だから」と開き直る始末。翌日もいつも通り出勤していました。

なぜここまでいわれても平然としていられるのか、その理由を知る社員は、一人もいませんでした。

上司を心の中で嘲笑う「金融資産2億円」の余裕

実は、佐藤さんには誰にも明かしていない秘密がありました。金融資産が2億円を超えているのです。

その大半は、20代のころからコツコツ積み立て続けてきた金融商品です。入社間もないころ、当時の友人の勧めで海外の金融商品を使った積立投資をスタートし、コツコツと30年間継続してきました。

実家暮らしのために生活費がほとんど掛からず、結婚もしなかったため、給与の大部分を30年以上投資へ回した結果、これまでの積立分だけで約1億5,000万円以上にまで資産は膨らんでいたのです。

さらに昨年、父親が亡くなり、かつて立ち退きによって売却した田んぼの代金などを原資とした資産のうち、およそ5,000万円を相続しました。その資金は外貨建て保険で運用しており、現在ではそこから毎年約200万円を受け取っています。つまり、いますぐ会社を辞めて働かなくなったとしても、十分に暮らしていけるだけのお金の基盤がすでに完成していました。

だからこそ、年下の上司から嫌味をいわれても、「この人は住宅ローンも教育費も抱えて大変なんだろうな」「俺はいつ辞めても困らないけどな」などと心の中で考え、鼻で笑いながら聞き流していました。同僚が陰口をいっているのを耳にしても、「会社にしがみつかないと生活できないんだろうね」と、見下すように思っていました。

佐藤さんにとって職場は、生活のためにお金を稼ぎに行く場ではなく、「他人を観察するための場所」になっていたのです。その姿は周囲からみれば「給料泥棒」かもしれないですが、本人は会社に依存しない人生を手に入れた結果、なにをいわれても揺らがない精神的な余裕を手にしていました。

「会社を辞められない人」と「いつでも辞められる人」の違い

金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」によれば、50代の金融資産保有額は平均では1,000万円を超えるものの、中央値は数百万円にとどまります。つまり、一部の資産家が平均値を押し上げており、多くの人は決して十分な資産を持っているわけではないことがわかります。

職場の人間関係で悩みながらも、生活のために辞めることができない人は少なくありません。精神的に限界を迎え、体調を崩してもなお働き続ける人もいます。その背景にあるのは、「会社を辞めたら収入がなくなる」という恐怖です。

一方、佐藤さんは違いました。金融資産という裏付けがあり、「いつでも辞められる」という選択肢を持っていたからこそ、周囲の評価に振り回されることがなかったのです。

もちろん、佐藤さんのように向上心を失い、「指示待ち社員」として会社に居続けることは感心できません。しかし、「一つの会社に依存しない」という状態そのものは、人生に大きな選択肢を与えてくれます。

そして、その状況を実現するのは金融資産だけに限らないでしょう。副業で収入を得られる力、独立できるスキル、いまの勤務先を辞めても他社から必要とされるスキルや経験でも構いません。重要なのは、「この会社しかない」という状態から抜け出すことです。

そのためには、自分が本当に望む人生には毎月いくら必要なのか、どれだけの資産があれば安心して暮らせるのかを把握し、長期的な資産形成や収支管理を考える必要があります。経済的な自立は、お金を増やすことだけが目的ではなく、人生の主導権を自分自身の手に取り戻すための手段でもあるのです。

「いつでも辞められる」というスタンスの本当の意味

今回の佐藤さんのケースからは、良くも悪くも「会社に依存しない状態」が、人の心にどれほど大きな余裕をもたらすのかを学ぶことができます。

職場での評価や人間関係に悩む人は少なくありません。しかし、その苦しみの根源を辿ると、会社を失うことへの金銭的な不安に行き着くケースがほとんどです。だからこそ、資産形成やスキルアップ、あるいは副業への挑戦などを通じて、「いざとなれば別の道を選択できる」という逃げ道を作っておくことが、精神的な自由につながります。

ほかの誰かに人生をコントロールされるのではなく、自分の意思で働き方を選択できる状態こそが、本当の意味での経済的な豊かさではないでしょうか。

小川 洋平

FP相談ねっと

ファイナンシャルプランナー