「学校の8:00始業は早すぎる」米国小児科学会が出した子供を睡眠不足から守る"適切な始業時間"
※本稿は、リサ・L・ルイス『子供睡眠不足社会 親と学校に何ができるのか』(太田出版)の一部を再編集したものです。

■8時間睡眠は「必要最低限」
米国疾病予防管理センター(CDC)が全国青少年危険行動調査に10代の睡眠の項目を加えた2007年、翌日学校がある晩に8時間以上眠れていると答えた高校生は31%しかいなかった。2019年までに、この割合は22%にまで下がった。
ひとつ指摘させてもらうなら、この8時間というのは必要最低限の睡眠時間である。全米睡眠財団(National Sleep Foundation)は、14〜17歳の10代に一晩あたり8〜10時間の睡眠を推奨している(これが大人と同じ7〜9時間に減るのは18歳になってからだ)。
自分の睡眠時間がまったく足りていないことを、当の10代たちもわかっている。ジェシカ・レーヒーは、10代の薬物乱用防止について書いた2020年の本『The Addiction Inoculation(10代を依存から守るために、親ができること)』でこう述べている。「思春期にどのくらい眠るべきかを伝えると、彼らは笑ってしまう。講堂いっぱいの中高生がみんな、頭をのけぞらせて大笑いするのだ。言わんとすることはよくわかる。笑ってしまうほど、10代たちは十分な睡眠をまったく取れていないのだ」。
レーヒーが著書で論じているように、10代の睡眠不足は薬物の使用と密接な関係があるばかりではない。ほかのいくつもの理由からも、憂慮すべき事態なのだ。
■早起きを強いる社会的要因
睡眠不足の10代は危険な行動をしやすく、不安を抱えたり、抑うつ状態になったり、自殺願望を持ったりする率も高い。学校では成績が悪くなり、欠席や遅刻も多くなる。睡眠不足のアスリートはけがをしやすくなるし、眠気を抱えた10代のドライバーは事故を起こしやすくなる。
思春期に起こる睡眠サイクルの変化が睡眠不足の主な要因だ。だが、社会的要因もある。10代たちはやることが多すぎて、いつも時間が足りず、学校の始業時刻の都合で無理して早起きさせられる。その結果として睡眠不足になるのは無理もない。その影響は広範囲に及んでいる。
あまりに早く始まり、夜遅くまで続く1日を、10代たちは眠たい身体を引きずるようにして過ごす。そして早朝にアラームが鳴り、その1日がまた最初から繰り返される。
この問題に強く意識が向くようになったのは、2015年の秋、息子が高校に進学したときだ。朝7時30分に始まる授業に出るために毎朝苦労して起き、午後に疲れ切って帰ってくるのを見て、なぜ学校はこんなに早く始まるのかと疑問に思った。地元の中学校は8時45分の始業だったから、高校に上がってからはますますきつそうだった。
■学区では10代の自殺が相次ぎ…
カリフォルニア州南部のインランド・エンパイア都市圏にあるこの小さな町では、多くの住民が地元育ちで同じ高校に通っていた。私が話を聞いた住民で、学校がこんなに早く始まらなかった時代を覚えている人はいなかった。早く始まるのは地区の10代たちを学校に送り届けていたバスの都合だと思っていた人もいたが、スクールバスはもう運行していない。
まったく意味がわからなかった。
年上の10代を持つ親たちに話を聞くと、肩をすくめながら、「その時期はもう過ぎた」と安堵している様子だった。けれども、静かに苦しんでいる10代たちがいることは、明らかだ。息子が高校1年生だった年、この学区では自殺が相次いで起きた。
日常的に多くの10代たちが、眠気と闘いながら何とか登校し、始業時間に間に合わせようとしていた。私は毎朝、学校の向かいにある開店したばかりのスターバックスに、生徒たちが列を作っているのを目にした。ほかの親たちに話を聞くと、遅刻が重なっている子もいれば、1時間目を避けるために、オンライン授業など別の選択肢を静かに選んでいる子もいることがわかった。
私はすぐに、これはひとつの学校や地域にとどまる問題ではないと気づいた。2015年8月、息子が高校に進学したのと同じ月に、CDCが公表した全国調査の結果によると、全米の中学校・高校の4分の3以上が、推奨されている午前8時30分よりも早い時刻に授業を開始していた。

■小児科学会がリスクを勧告
調べるうちに、私は全米各地の親たちとつながり、さらに数十年前から蓄積されてきた研究成果にも行き当たった。多くの研究者、教育関係者、地域の人々と話し、実際に会う中で、この問題が臨界点に達しつつあることが明らかになっていった。長年にわたる慎重な研究を踏まえ、米国小児科学会は2014年、中学校と高校の始業時刻は午前8時30分より早くすべきではないという画期的な勧告を出した。その背景には、始業時刻が早すぎることと10代の睡眠不足、そしてそれに伴うさまざまなリスクとの明確な関係がある。CDCも、2015年に始業時刻に関する調査結果を公表し、この勧告に同意した。さらにその後、米国医師会と米国心理学会も、相次いで支持を表明した。
1990年代後半以降、全米各地では、すでに始業時刻を遅らせた学校の事例が積み重なっていた。しかも、その効果を示す研究の蓄積もある。始業時刻を遅らせることで、生徒はより多く眠れるようになり、学業成績が向上し、卒業率さえ高まった。それほど明確な健康上の勧告と確かなエビデンスがそろっていながら、現実には、私のような親がこの問題を提起しようとすると、取り合ってもらえないケースがあまりにも多くあった。
■「ロサンゼルス・タイムズ」紙に反響
私の地域と同じように、圧倒的なエビデンスが示されているにもかかわらず、従来の時間割を変えようとしない地域は数えきれないほどあった。子育て、教育、公衆衛生をテーマに取材してきたジャーナリストとして、私はここに自分が取り組むべき新たなテーマを見出したのだった。
2016年9月、学校の始業時刻を朝遅くすべき理由について書いた私の論説が、「ロサンゼルス・タイムズ」紙に掲載された。この論説には大きな反響が寄せられ、翌週末には読者の声が紙面に掲載されるほどだった。さらにこの記事は、高校生の子を持つアンソニー・ポータンティーノ州上院議員の目にも留まった。2017年初頭、彼はカリフォルニア州の中学校・高校に健康的な始業時刻を求める法案を提出した。私はその立法の道のりに深く関わることになり、数年にわたるプロセスを経て、全米で初となる法律の成立へとつながっていった。
私は、提言者としての新しい役割と、ジャーナリストとしての自分のあいだを行き来しながら、この物語をたどっていった。始業時刻を遅らせる改革を最初に実施した高校だけでなく、さらにその前へ――10代の睡眠をめぐる最初期の研究にまで、調査の視野を広げていった。そして行き着いたのが、かつて存在した、きわめて異例のサマーキャンプだった。「スタンフォード睡眠サマーキャンプ(Stanford Summer Sleep Camp)だ。
■パンデミックの思わぬ光明
知識を深めるにつれて、10代たちの睡眠を助けるための工夫を、実際に取り入れられるようになっていった。その結果、10代たちだけでなく、私自身の睡眠も改善していった。
本書では、私がこれまでに得た知見を凝縮した。50人を超える研究者や専門家へのインタビュー、そして約200本に及ぶ研究論文、報告書、書籍など、多岐にわたる資料をもとにまとめた。

この本を執筆中、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こった。世界中で人々の生活がまったく変わってしまい、学校は突如としてオンライン学習への移行を強いられた。しかしあらゆる混乱のなかで、多くの10代には予期せぬ光明がもたらされた。朝遅くまで寝る機会が増えたのである。通学がなくなっただけでなく、授業開始時刻が遅くにずれることも多かったので、10代たちはそれに合わせて目覚ましをセットできるようになった。
学校は始業時刻を変更できるだけでなく、迅速に実行できることが、疑いようもなく明らかになった。そして、変化したこの新しい現実の中で、10代たちには、睡眠がもたらす情緒的なレジリエンス(回復力)が、これまで以上に必要であることも明白であった。
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リサ・L・ルイス育児ジャーナリスト
長年にわたり、子ども、公衆衛生、教育など、幅広いトピックを取り上げてきた。2016年に「ロサンゼルス・タイムズ」紙に寄稿した論説がきっかけとなってカリフォルニア州で中等学校の始業時刻を遅らせる法案が提出されると精力的に活動し、同州の学校始業時刻に関する法律(全米初)の制定のために重要な役割を果たした。「ニューヨーク・タイムズ」紙、『アトランティック』誌、「ワシントン・ポスト」紙、「ロサンゼルス・タイムズ」紙、『スレート』誌、『Your Teen(ユア・ティーン)』誌など、数多くのメディアに寄稿している。2児の母。脳震盪、熱中症、パンデミック時の学校閉鎖、睡眠などといった執筆テーマの多くは、自身の子どもたちを取り巻く状況からインスピレーションを得ている。カリフォルニア州在住。
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(育児ジャーナリスト リサ・L・ルイス)
