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外食市場がコロナ禍からの完全復活を遂げる一方で、足元の原材料高と深刻な人件費高騰は、資本力に乏しい中小企業の経営を激しく揺さぶっている。そうしたなか、2026年1〜3月期の飲食M&A件数は過去最多を記録した。なかでも市場に衝撃を与えたのが、松屋フーズHDによる「六厘舎」の91億円にのぼる巨額買収だ。なぜ今、大資本はこぞってラーメンブランドを欲するのか。単なる「救済」に留まらない、持続的成長を見据えた大手と名店の「時間を買う」戦略、そして加速する業界再編の裏側にある構造変化を読み解く。

1〜3月の飲食M&Aは64%増、ラーメン店に大資本の触手

2026年1〜3月期の飲食業界におけるM&A(企業の合併・買収)件数は36件に達し、過去最多だった前年同期と比べて64%増加した。中でも買収額が最も大きかったのは、松屋フーズホールディングス(HD)による、「六厘舎」を展開する松富士の買収だ。

大手資本によるラーメン店の買収はこのところ目立っており、同期間の買収額第2位もラーメン関連の案件だった。原材料費や人件費の高騰、価格転嫁の難しさに悩むラーメン店と、ブランド力を迅速に獲得したい大資本の利害が一致した格好だ。

松屋による「六厘舎」買収は91億円

飲食業界のM&A仲介を手がけるM&Aプロパティーズ(東京・新宿)が、全上場企業に義務づけられている適時開示情報などから集計した。案件は公表時期ではなく、株式取得が完了した時期(クロージング日)を基準に各期へ計上している。

1〜3月期で規模が最も大きかったのは、松屋フーズHDによる松富士の完全子会社化で、買収額は約91億円にのぼった。松富士は関東を中心に「六厘舎」や「舎鈴」など著名なラーメン店を直営しており、埼玉県にはセントラルキッチンも保有している。

松屋フーズHDは同社の買収について「マルチブランドの推進と収益構造の高度化を中長期戦略の柱に据え、ラーメン領域を取り込むことで業態ポートフォリオを拡充し、持続的な企業価値向上を図る」と説明。同社の新規出店のノウハウやロジスティック網と、松富士の商品・ブランド運営力のシナジー創出を目指すとしている。

「三田製麺所」も魁力屋の傘下に、ブランドはそのまま

次いで買収額が大きかったのは、ラーメンチェーンを展開する魁力屋によるエムピーキッチンホールディングスの子会社化で、約51億円にのぼった。同社はつけ麺専門店「三田製麺所」の運営会社を傘下に持つ。エムピーキッチンはM&Aの目的について、「今後の事業運営をより安定的・継続的かつスピーディに進めていくことを目的としたものであり、当社の事業およびブランド運営はこれまで同様に継続する」としている。

3番目は、居酒屋「磯丸水産」などを展開するクリエイト・レストランツ・ホールディングスによる、洋食レストラン「グリルRON」などを手がけるロンの買収で、約9億円だった。

富士経済の調査によると、外食産業の国内市場は2025年に35兆7116億円と新型コロナウイルスの感染拡大前である19年の規模に近づき、26年にはこれを超える見通しだ。市場全体が回復基調にある一方で、緊迫する中東情勢をはじめとした地政学的リスクの高まりや、足元での資源・原材料価格の高騰を背景に、中小の外食産業の経営環境は厳しさを増している。ラーメン業界のように寡占化が進んでおらず、資本力に乏しい企業が多い業界では、今後もこうした合従連衡が加速しそうだ。