舘ひろし「僕のセリフの直前になると共演者たちの顔に、妙に力が入るのよ」『あぶない刑事』撮影現場で緊張感が走った理由【『免許返納!?』対談】
〈発売中の『婦人公論』7月号から記事を先出し!〉6月公開の映画で初共演した舘ひろしさんと吉田鋼太郎さん。《ダンディ》を地で行く舘さんの指南により、吉田さんはとある「人生初体験」をしたそうで……(構成:上田恵子 撮影:木村直軌)
【写真】運転がちゃんとできるかどうかが現役としての最後の砦と語る二人
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とんでもない《沼》に誘われて
吉田 今日、僕が着ているスーツ、実は舘さんと一緒に仕立てに行ったんですよね。
舘 かっこいいじゃない。
吉田 お世辞でも何でもなく、舘さんは僕にとって大スター。今回、初めて共演させていただきましたけど、こんなに素敵な人を僕は見たことがない。
舘 いやいや、急にどうしちゃったの?(笑)
吉田 そんな舘さんみたいにかっこよくスーツを着こなしたくて、鏡の前でアスコットタイを巻いてみたりしたけど、全然うまくできなくて。それを現場でお話ししたら、「吉田さん、こういうスーツを着てみたら? きっと似合うよ。一緒に作りに行こうよ」とお誘いくださった。
舘さん行きつけのテーラーで、アドバイスをいただきながら作った人生初のオーダーメイド。この着心地が本当に最高で! 体にフィットして、ストレスが全然ないんですよ。
舘 僕が仕立てたわけじゃないけどね。
吉田 舘さんが仕立てていたら、ニュースになってます。(笑)
舘 仕立て職人に、「もうちょっと襟をこうして、ボタンはこれ、パンツはこんな感じに」と、細かく指示を出しただけ。
吉田 仕立て職人の彼、汗だくになってましたよ(笑)。一着作ってみたら、もうとんでもない沼だとわかりました。かっこいい大人の嗜みですね。
舘 僕は芝居はけっこういい加減だけど、洋服にはものすごくこだわるんです。(笑)
吉田 舘さんは、演劇畑の俳優から見れば、別世界に住んでいるような存在で、高倉健さんや若山富三郎さんと同じく生粋の映画スター。おそらく演技のメソッドも経験も、僕らとは全然違うと思うんです。舘さんとお芝居したのは初めてだったので、貴重な経験になりました。
舘 いやいや、僕はセリフを言うだけで精一杯。よくぞ50年も続けてこられたなと思います。たぶん歴代の監督たちは、「こいつは俺の作品に出たら、もうちょっとうまくなるだろう」と思いながら付き合ってくれてたんじゃないかな。
吉田 何をおっしゃってるんですか。でも、そんなふうに言えるのが、またかっこいいんですよ。
舘 でもね、実際のところ、昔の自分と今を比べると、ちゃんと台本を覚えるようになったなと思います(笑)。昔は現場で《NG大賞》と呼ばれるくらい、全然セリフを覚えなかった。東映時代に始まり、「あぶない刑事」シリーズでお世話になった村川透監督は、ワンシーンをワンカットで一気に撮るんですね。
吉田 それは緊張感がある……。
舘 そう。たとえば共演者のセリフの応酬が続くワンシーンの後半に、僕のセリフが1行だけあるとするでしょう。そこで僕がNGを出すと、全員で頭から撮り直し。本当に迷惑をかけました。『あぶない刑事』を改めて観てみたら、僕のセリフの直前になると共演者たちの顔に、妙に力が入るのよ。(笑)
吉田 アハハハ! 「頼む、NGを出さないでくれ!」と全員に緊張感が走るんですね。(笑)
舘 こんなことでいいのかと思うけど、甘やかされてここまできてしまった。あと、気分次第で現場から帰っちゃったこともありました。……あれ? 気分で帰りますよね?
吉田 帰りませんよ!(即答)
舘 ある時、僕は「20時にデートの約束があるから、18時までに上げてくれ」と言っていたんです。そうしたら、共演の仲村トオル押しで18時半まで撮影が続いて。なので、「バイバイ!」と帰っちゃった。
吉田 すごいですね。
舘 そうしたら近藤課長役の中条静夫さんが、「舘さんがお帰りになったから、今日はここまでにしましょう」って。それでみんな帰ったそうです(笑)。そういった自由な空気が、今はなくなっちゃいましたね。システムのなかで映画を作らなきゃいけなくなった、と言うのかな……。
本来この世界って、自由でいい加減で、何が起こるかわからないくらいがちょうどいいと思うんです。でも今はみんな、セリフも間違えずにピシーッとやるでしょう?
吉田 そういう話が聞きたかったんですよね! 舘さんから聞けるのがすごく嬉しいです。
舘 僕らの仕事って、キチッキチッとしたところじゃなく、遊びやゆとりのなかに生まれてくるもの。もうちょっと余裕があってもいい気がしますね。
<後編につづく>

