Amazon時代に書店チェーンはどう生き残るか バーンズ&ノーブル が選んだ「分権型運営」とは

記事のポイント
各店舗に権限を渡す分権型運営が書店再建を実現している。
出版社の有料棚を廃止し棚づくりを店側へ委ねて販売力を高めている。
小型店から大型店まで柔軟に出店して地域需要に応えて成長している。
過去6年間で、バーンズ&ノーブル(Barnes&Noble)のCEO、ジェームズ・ドーント氏は米国最大の書店チェーンを事業運営の面から完全に立て直した。現在では成長モードに入り、かつて苦境にあった同社は「書店をどう救うか」の代表例となっている。
小規模書店で培った運営哲学
元銀行員である同氏は、1990年に英国で自身のインディー書店「ドーント・ブックス(Daunt Books)」を立ち上げた。
「自分の個人的な興味とできるだけ一致したビジネスをつくりたかった」とドーント氏はModern Retailに語った。
「読書はその筆頭であり、だからこそ書店は自分にとって最適だったのだ」。
当時の10年間は小規模書店にとって厳しい環境で、英国では景気後退や湾岸戦争があり、さらにAmazonがECの巨人として台頭し、ウォーターストーンズ(Waterstones)などの大手チェーンが成長していた。
このような状況のなかで、ドーント氏は書店員としての規律とスキルを磨き上げ、好不況の波を経ても成功へ導いた。ドーント・ブックスは今日ではロンドンを中心に10店舗へ拡大している。
分権型運営の原型は、小規模チェーンで確立した店主体の文化
同氏がこの小規模チェーンを運営した経験こそが、バーンズ&ノーブルの新たな企業文化の起点となった。そこでは、階層をフラット化し、店舗レベルのスタッフに権限を与え、各店舗がスタッフ構成、商品の見せ方、さらには価格設定に至るまで管理するという考えが根付いている。
ドーント氏の哲学は、「書店をできる限り興味深く魅力的な場所にし、そこに親切で博識な書店員を置くこと。彼らは顧客との時間や自分の仕事を楽しんでいるべきだ」というものであった。
「これは本来ならどの書店でも特別なことではないはずだが、実際にはそうではなかった」。
2011年、大手チェーン書店のウォーターストーンズが破産したとき、ドーント氏は投資家らに働きかけ、この事業を引き継ぎたいと考えた。自身に書店運営の能力があると確信していたうえ、最大書店チェーンの消滅は業界全体を著しく弱体化させると考えたためだ。
同氏はチェーンを再建するためにプライベート・エクイティへ資金を求めたが、書店チェーンの業績が低迷しはじめていた時期で、さらにキンドル(Kindle)の登場が紙の書籍産業の将来に疑念をもたせていたことから、出資者は現れなかった。
しかしロシアの実業家アレクサンダー・マムート氏が2011年にブランドを買収し、ドーント氏をマネージングディレクターに任命した。ドーント氏がウォーターストーンズに持ち込んだ中心的な仮説は「各店舗を適切に運営できれば、成功できる」というものだった。
「『適切に運営する』とは、人々が買いたい本が置かれ、きれいに整えられた店舗をつくり、そこに幸福で十分に訓練された魅力的な書店員のチームを置くということだ」とドーント氏は言う。
「これは、小売体験としてほとんどほかに類を見ないものだ」。
ガーディアン紙(The Guardian)によると、同氏はウォーターストーンズを再編し、すべての店舗に同じ本を販売させる中央集権的な指示を廃止し、各店に一律で送られる陳列台の写真(プラノグラム)も撤廃した。またパブリッシャーと結んでいた店内の特等席を売る販促契約も終了させた。
2017年、同チェーンは黒字化を果たした。
「正直なところ、書籍においては、世界で最悪の小売業者であっても十分にやっていける条件がそろっていた」とドーント氏は述べる。書籍はすぐに腐るわけでもなく、返品すればパブリッシャーから全額クレジットが得られる。
「チェーン書店を弱体化させていた原則をひっくり返しさえすれば、成功できたのだ」。
成功モデルを米国へ持ち込む
ウォーターストーンズの成功後、エリオット・アドバイザーズ(Elliott Advisors)は2018年7月に同社の過半数株式を取得。
そして2019年、エリオットはバーンズ&ノーブルを約6億8300万ドル(約1024億5000万円)で買収し、ドーント氏はウォーターストーンズのCEOに加え、バーンズ&ノーブルのCEOにも就任した。彼はロンドンからニューヨークへ移住した。
期待されたのは、同氏が英国と同様に本社主導の指示ではなく「各店舗への権限委譲」を基軸にした戦略を持ち込むこと。その戦略によって、低迷していたバーンズ&ノーブルを再建することが望まれていた。
CNBCによると、買収前の5年間で同社は市場価値を10億ドル以上失い、Amazonからの継続的な圧力にさらされていた。
ウォーターストーンズと同様、ドーント氏は基本原則を導入した。
「各店舗のチームが、自分たちの顧客にもっとも適した本やその見せ方を判断する」。地域の書店員のほうが、自分たちのコミュニティがどのような本に関心を持つかをより的確に把握しているという信念があった。
「中央集権的にやりたいなら巨大なインフラが必要で、非常にコストがかかる。そして以前の我々はまさにそうだった。非常に高コストな大規模本社組織が、この仕事をうまくこなせていなかった」とドーント氏は語る。
「皮肉なことに、責任を店舗ごとに下ろすと、彼らははるかに上手にやってくれるのだ」。
Modern Retailの過去報道によると、ウォーターストーンズのときと同じく、ドーント氏がバーンズ&ノーブルで最初に行った改革のひとつは、出版社から店頭の主要広告枠への広告掲載料を受け取る慣行を廃止したことだという。
またドーント氏は、他カテゴリーの小売経験者をマネージャーとして配置するのではなく、店内からの内部昇進を優先することで、専任の書店員による組織づくりを重視してきた。
財務数字は非公開だが、ドーント氏はどうやら成功しているようだ。
売上減少と店舗閉鎖の10年を経て、バーンズ&ノーブルは再び拡大している。チェーンは2025年に約60店舗をオープンし、2026年にも同規模での展開を見込んでいる。
伝統的な小売アプローチを捨てる
ほかの小売企業が大量の研修や共通インフラに投資し、どの店舗も同じ雰囲気、同じ基準になるよう整えるのに対し、新生バーンズ&ノーブルはまったく逆を行く。
同社では現在、各店舗が「地域の買い手層が求めるカテゴリー」に特化して独自性を持つことを奨励している。ある店舗は児童書に力を入れ、別の店舗は第二次世界大戦やアメリカ独立戦争関連書籍の品揃えを強化することもある。
「我々はその『ルールブック』を完全に逆転させた」とドーント氏は言う。
「店に入ると、何があるのか、どんな価格なのかも、完全には予測できない」。
バーンズ&ノーブルのブック戦略担当シニアディレクターであるシャノン・デヴィート氏は、この変化を12年以上にわたるキャリアのなかで直接見てきた。彼女はオハイオで書店員として働きはじめ、バイヤーとして本社へキャリアを伸ばしてきた。
「何十年ものあいだ、我々は『小売店のように』運営されてきた」とデヴィート氏は語る。つまり店舗レベルの判断は本社の指示に従うだけで、各店舗は自律的に運営されていなかった。
「何も考えなくてよい、といわれるような仕事だった。『この本をここに動かして』という指示の紙が届き、特定の日にそのとおりに置き換えるだけ。本当に子ども扱いだった」。
店舗スタッフのスキルレベルはさまざまなため、店舗側にこの新しい考え方を浸透させ、何が「よい書店」をつくるのかを教育するには時間がかかったという。しかしデヴィート氏は、ドーント氏のアプローチが、かつての硬直した企業ヒエラルキーを崩し、新しい文化を根づかせたと感じている。
店舗チームは、何を強調すべきか、何を構築すべきかについて、より批判的に考えるようになった。
「以前は完全に企業バブルの中で働いていた」とデヴィート氏は言う。
「今では店舗の人たちと話すのが本当に楽になった。メールで簡単にやり取りできるし、相手が『ファンタジーが得意な店舗』なのか『サイエンスに強い店舗』なのかも把握できる。これは私の仕事をよりよく、何よりずっと面白いものにしてくれた」。
ドーント氏は今でも「地域書店員」の感覚を持ち続けているとデヴィート氏は証言する。彼らは互いに好きな本、苦手な本について意見を交換することがよくあるという。
さらに同氏のリーダーシップは「意図ある質問」で成り立っている。「彼はよく質問を投げてきて、こちらが自分のやっていることをより深く考えるよう導くのだ。『今までそうしてきたから』という理由で続けないよう促してくれる」とデヴィート氏は語る。
「ただ同時に、彼は『よい書店員ならどうするか』という議論にも応じてくれる。『彼のやり方が絶対だ』という態度ではない」。
コミュニティの集いの場へ
地域ごとの店舗最適化に加え、バーンズ&ノーブルは現在、店舗面積が3万5千平方フィートの大型店から5千平方フィートのモール内小型店まで、あらゆるサイズのスペースで出店するようになった。
「バーンズ&ノーブルは、地域コミュニティからの明確な需要がある場所に出店している」とドーント氏は述べる。大型店と小型店の両方を展開できることで、「以前なら検討されなかった場所にも成功裏に出店できる」と言う。
「要するに、我々は柔軟であるがゆえに、より多くの店舗をオープンでき、さらに一貫して成功できている」。
この柔軟性により、同社はより多様な地域のニーズに機敏に応えられるようになった。実際、同社はビッグ・ロッツ(Big Lots)やパーティー・シティ(Party City)といった衰退チェーンの跡地にも店舗を構えている。
「我々は実験している。大都市の一等地、路面店、モール内の小型店、郊外の大型店。なんでも試している」とドーント氏は語る。「要は、書店が存在しない場所にチャンスがあるかどうかを見ているのだ」。
この変化によって、バーンズ&ノーブルは地主や不動産仲介業者にとって魅力的なテナントとなった。
特にモール側は、Z世代を惹きつける体験型コンセプトを求めている。
アウトレット運営企業のタンガー(Tanger)は、デイブ&バスターズ(Dave&Busters)やメイン・イベント(Main Event)、チキン・ン・ピクル(Chicken N Pickle)、ポップストローク(PopStroke)などの体験型業態を導入しているが、そこにバーンズ&ノーブルも含まれている。
タンガーのリーシング担当エグゼクティブバイスプレジデントであるジャスティン・スタイン氏は、地域の購買傾向を反映した品揃えに注力することで、バーンズ&ノーブルは「地域の集いの場」として魅力を増していると述べる。それにより顧客が店内で過ごす時間が長くなり、売上も向上すると信じている。
「ブランドが店舗内のプロダクトミックスを適切にキュレーションすれば、店舗はより高い生産性を発揮し、売上も高くなる。それは関係者全員にとって利益だ」とスタイン氏は語る。
タンガーは現在、全41センターのうち2店舗のバーンズ&ノーブルを抱えているが、今後さらに増やしたい考えだ。同社は郊外の住宅増加地域や、リモートワーカーの増加によって定住地化が進む観光地など、地元住民の利用頻度が高いテナントにシフトしたいという。
そのため、食料品店や美容ブランド、そしてバーンズ&ノーブルのような書店が重要になる。
タンガーは2024年、デラウェア州リホボスビーチで新たなバーンズ&ノーブルを開業した。「我々がポートフォリオを進化させるうえで、バーンズ&ノーブルは非常に重要なパートナーだ」とスタイン氏は言う。
書店員のレベルアップ
ドーント氏が実施したもうひとつの大きな改革は、従業員が内部昇進できる機会を大幅に増やしたことだ。同氏は店舗組織を再設計し、現在は10段階の昇進制度が店舗レベルに整備され、各段階で大幅な昇給が行われる。
「店舗チームを育成し投資することで、より多くの社員が上位ランクに進み、さらに成長していく。それが今も続いている」とドーント氏は語る。
ただし、同氏は米国での取り組みには長期的な時間が必要だと認めている。米国の店舗は英国の店舗よりも巨大で、営業時間も長いからだ。
「こうしたことは指を鳴らせば実現するものではない。着実な小さな積み重ねで達成するしかない。成功は成功を呼ぶ」とドーント氏は言う。
「ビジネスをよくし、売上を伸ばし、利益率を改善し、新店舗を開く。こうした状態にならなければ、何も改革は進められない」。
同氏はフルタイム従業員の比率を、就任時の約15%から現在では約30%へ増やした。
「私のやり方で店舗を運営したいなら、パートタイムが多すぎると機能しない。店舗内に熟練したスタッフが足りず、在職期間も短く、経験も不足し、顧客サービスはかなり妥協されたものになってしまう」と同氏は語る。
さらに、従来は店舗が本社へ直接報告していたが、新体制では5〜6店舗を1グループとして相互支援する形に変更された。
「苦戦している店舗があっても、助けに来るのは同じアクセントを話し、すぐ近くの地域から来た人だ。ニューヨークから来た人にアトランタの店で怒鳴りつけられるような、あの嫌な雰囲気はなくなる」と同氏は説明する。
文化改革はゆっくりと積み重ねるもの
ドーント氏は、来年の計画について派手な新方針を持っているわけではないと言う。
「やることは今までと同じ。ただしもっとよくする」。つまり、既存店舗への投資と新規出店だ。
同氏にとって、職務が変わっても本質は変わらない。インディー書店の店主だったころからやってきたことを、責任範囲を広げつつ、より磨き上げているだけなのだ。
すべきことをひとつずつ、少しずつ直していく。その結果、同氏は単なる「書店チェーン再建の成功例」ではなく、ほかの小売リーダーにも役立つ実践的なプレイブックを築き上げた。
「文化を変えるには、人の働き方、給与のあり方、報酬の仕組み、承認の仕組みを変える必要がある。しかし、それはゆっくり、段階的にしか進められない」と同氏は語る。
たとえば、「今、新しい店舗を開けるのは、3〜5年前の建設のプロや店舗デザイナーといった不動産専門チームのおかげなのだ」と説明する。
「今日私が下すよい決断の成果が出るのは3年、4年、5年後だろう。それと同じように、今の事業で得られている成果は、3〜5年前の決断がもたらしたものなのだ」。
[原文:Barnes & Noble CEO James Daunt has mastered the art of the bookstore turnaround]
Mitchell Parton(翻訳、編集:藏西隆介)
