記事のポイントI-neは自社研究所「JBIST」を設立し、ファブレス型R&Dモデルで研究と生産を分担して効率化を図っている。東京大学や佐賀大学との共同研究を進め、マイクロニードルなど革新的技術を確立し特許出願を完了した。AIエージェント導入やM&A推進により、売上1000億円・営業利益110億円の中長期目標に挑戦している。
「BOTANIST(ボタニスト)」「YOLU(ヨル)」に代表されるヘアケアブランドや、美容家電「SALONIA(サロニア)」などを展開するビューティカンパニー I-ne(アイエヌイー)は8月25日、今後のビジネス展望や新たな施策に関する説明会を開催した。ファブレスでマーケティングに強い特性を活かし、次々とイノベーションを生み出してきた同社は2024年に過去最高の売上450億円、営業利益45億円を達成。2025年の業績も好調で、ヘアケア美容家電を除くスキンケアほかカテゴリーについても、その通年実績を上期時点で上回る勢いだ。自社研究所の設立や次世代AIエージェントの共同研究、アカデミアとの共創、新たなM&Aに取り組むことで、さらなる成長をめざす。

急成長中のスキンケアを新たな成長の柱に

社長の大西洋平氏

ドラッグストアで500円以内のシャンプーが主流だった時代に、1400円の「プレミアムマス」カテゴリーをテレビCMなしにデジタルマーケティングで開拓したBOTANIST。店頭や美容室でしか買えなかった2万円以上するヘアアイロンを、同等品質の製品でありながら3000円台のD2Cで販売したSALONIA。I-neは競合がひしめくレッドオーシャンにおいて、アイデアとデジタルマーケティングの力を駆使し、持ち前のベンチャーマインドを発揮することで新たな市場を切り開き、ヒットを量産してきた。主力事業であるヘアケア美容家電のほか、スキンケア、オーラルケア、柔軟剤に健康食品……と、ライフスタイルに寄り添う約20ものブランドを幅広く展開してきた同社は、なぜ相次いでヒットを生み出せたのか。それは年間1万以上のアイデアによって半歩先のコンセプトメイキングを可能にする「ブランド創出力」、3000万人を超えるオンラインアカウントを有しながら6万5000のオフライン店舗にも配荷する「OMO」、そして独自のブランドマネジメントシステム「IPTOS(イプトス)」による高速PDCAという3つの強みがあるからだ。好調な業績を背景に掲げた中長期目標(28〜30年目処)は、売上高1000億円、営業利益110億円。5年以内に昨年実績の2倍以上もの数字に挑むことになるが、代表取締役社長の大西洋平氏は「現在6割を占めるヘアケアに関しては5%以上の成長を図りつつ、ゆくゆくは全体の約4割に。急成長中のスキンケアなど、その他のカテゴリーを新たな成長の柱として育成し、新規M&Aも積極的に進めることで、より強固でバランスの取れたポートフォリオを構築していく」と自信をのぞかせている。

ファブレス型R&Dの自社研究所「JBIST」が始動

現在のビューティ市場ではユーザーの成分に関する知識が向上し、「機能的価値」が重視される傾向にある。加えてトレンドの移り変わりが速く、開発から商品化までに求められる「スピード」も増す一方だ。そうした市場ニーズに応えるために、パフォーマンスエンジニアリング技術のリーディングカンパニーであるフィックスターズ(Fixstars Corporation)と、マーケティング領域における先進AI活用の共同研究を開始。IPTOSに次世代AIエージェントを実装し、リサーチ・構想・仮説検証などの初期工程を再構築することで、意思決定の質と速度を飛躍的に高めていくという。また、これまでI-neの成長を支えてきた3つの強みをさらに磨き上げる社長直下型組織として、自社初となる研究所「日本美科学研究所(Japan Beauty Institute of Science and Technology)」、通称「JBIST(ジェービスト)」を8月1日に設立した。その特徴は、差別化技術や独自処方のプロトタイプやエビデンス構築といった核となる部分は自社で開発や特許取得を進め、製剤化や量産に関してはOEM・ODMパートナーとのネットワークを活かして多様なモノづくりを可能にする「ファブレス型R&D」モデルを採用していることだ。併せてマーケティングと研究開発の融合や機動的な意思決定体制により、「ブランド創出力の進化」「IPTOSの肝であるアイデア検証の高速化」「コストの最適化」を図っていく。JBIST所長の竹内啓貴氏は「インハウスラボができたことによって、2週間かかっていたプロトタイプの開発期間を約85%も短縮することが可能になり、初期段階でのアイデアを具現化する速度と精度が格段に上がる」と、その効果に期待する。

コンソーシアム型の共創体制によって、価値創造を加速

JBIST所長の竹内啓貴氏

8月21日には東京大学生産技術研究所 金範筇教授との共同研究によって、新規化粧品用途のマイクロニードル技術を確立し、特許出願も完了。この技術による製品化は2027〜29年の予定で、他社への技術供与も考えられるほど革新的なものであるようだ。JBISTでは金教授とのマイクロニードル技術のほかにも、佐賀大学の徳留嘉寛教授とのドラッグデリバリー技術の共同研究など連携を拡大し、コンソーシアム型の共創体制を本格始動することで価値創造を加速。そして処方設計や品質管理プロセスにもAIを導入することで効率性を高め、少数精鋭でも大きな成果を生み出せる体制を構築し、2026年にはJBISTの研究成果を市場に投入する予定だという。I-neという社名に込められているのは、「Innovation Never Ends」の思い。創業19年目を迎えた上場企業でありながら、「ベンチャーマインドこそが、I-neの真の強み」と語った大西氏。今後も価値を創造し続ける決意を述べて、説明会を締めくくった。

主力事業であるヘアケア美容家電をはじめ、スキンケアやオーラルケアの領域でも成長している

取材・文/山本千尋写真/戸田美子