フジテレビをめぐる問題で、テレビの制作現場はどうなっているのか。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「スポンサー離れのしわ寄せが、下請けの制作会社を直撃している。制作費や人件費を削らざるを得ず、番組制作にいちばん大事な『ヒト』の流出を招いている」という――。
写真=時事通信フォト
報道陣の取材に応じるフジテレビの清水賢治社長=2025年2月27日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■制作会社が窮地に立たされている

元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルに端を発する問題は、フジテレビが初期段階からこの事態を把握していたにもかかわらず、適切な対応を取らず隠匿していたと指摘された。そのことが大きな批判を呼び、スポンサーの撤退や経営陣の辞任が相次ぎ、フジどころかメディア全体の信頼性が大きく揺らいでいる。

いまは3月に発表予定の第三者委員会による調査報告書が待たれるが、私にはフジの苦境や株が爆上がりしているといった単なる“ミクロの”事象ばかりが報道され、「木を見て森を見ず」となっているように思えて仕方がない。それはなぜか。

このプレジデントオンラインの前稿で述べた「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」にまで議論が行き届いてないと感じるからだ。

最初に明言したい。今回の問題のあおりを受け、当のフジより深刻な事態に陥っているのは、「番組制作会社」である。私は、テレビ東京在職時代にテレビ東京制作という系列の制作会社に出向していた。だから、制作会社の事情が手に取るようにわかる。制作会社の一員としてNHKなどの他局とも仕事をしていた。だから、どれだけ制作会社がテレビメディアを支えているかということもよく知っている。

テレビ局で進む「制作会社依存」

そんな制作会社で構成される一般社団法人・全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)は、2月5日の公式サイトに「フジテレビへの要望書」を掲載した。そして、1月30日付でフジの清水賢治社長に対してこの要望書を提出したことを報告した。清水氏はこれに対して、「制作会社、スタッフなどにはなるべく影響が及ばないようにと一番の方針にしております」と答えた。

日本のテレビ局は、制作会社への依存度が非常に高い。特に、フジなどの在京の大手テレビ局は番組制作の多くを外部に頼っている。その形態は大きくわけて、「番組の発注」と「人材派遣」である。前者は局から制作会社に番組制作を依頼すること、後者は制作会社から局に人材を派遣することだ。

例えば、フジはグループ会社の共同テレビジョンやフジクリエイティブコーポレーションをはじめとして、東映や東宝、テレビマンユニオンなど数多くの制作会社と取引があり、これらの会社が多くの人気番組を制作している。こういった「制作会社依存」はほかのテレビ局においても同様である。

■得をするのはテレビ局の社員だけ

なぜ、このように制作会社への依存という現象が起こるのか。

その主たる理由は「制作コストの削減」と「外部の専門的な技術やノウハウの活用」だ。だが、私はもうひとつ、「リスクヘッジ」という点を挙げたい。制作現場は過酷だ。労働環境や就労時間が労働法によって厳格に管理されている社員を酷使することはできない。その点、外に任せてしまえば、管理責任はその会社に負わせることができる。社員が起こす取材時のトラブルやミスも回避できる。

また、発注者という強い立場を利用して制作費の「買い叩き」をすることも可能になる。「買い叩き」は下請法で禁じられているが、現実的にはさまざまなかたちで暗黙裡におこなわれている。「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」とは、親事業者(テレビ局など)が下請事業者(制作会社など)に対して不当に不利な条件を押しつけることを防止するための法律である。

ATPからフジに出された「要望」とはどんなものだったのか。その要望に隠されている「真意」は何か。それらを丁寧に紐解いてみると、テレビ局と制作会社との関係に潜在する問題点が明らかになる。本当に制作会社は今回のフジの問題で切迫した状況にあるのか。関係者や現場で働くクリエイターへの独自の取材をおこない、その現状と問題点を洗い出してみる。

今回のフジの問題をこういうかたちで徹底的に検証することは、「業界の膿を出し切るいいチャンス」だ。制作会社やテレビ業界全体にとっても、現場やクリエイターが正当な環境や健全な状況下で仕事ができるようにするためのいい機会になるのではないだろうか。

フジテレビ問題で制作会社が訴えたこと

ATPは要望書で、以下のように述べている。

「納品済み番組の緊急再編集、取材先のキャンセルによる急な内容変更など、その影響は製作会社だけでなく撮影・編集などの協力会社にも及びます。現場スタッフの疲弊につながる過重労働も避けなければなりません。零細企業も多いATP会員社にとって、番組終了や発注キャンセルが即倒産につながるケースも容易に想定されます」

そして、「レギュラー番組の通常予算や本数の確保」「局の都合による休止や仕様変更にともなう作業への対価の補償」「予算一律カットなどを行わず双方で適正な製作取引を目指す」「4月編成の見通しを早期に提示いただく」ことなどを訴えた。

全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)が公式サイトに掲載した「フジテレビへの要望書」

以上のような具体的な項目は下請法には記されていない。しかし、「不当な価格引き下げ」や「一方的な契約変更」などは下請法で禁止されている行為である。制作会社との取引において公正な条件を維持し、適正な製作取引を目指すことは、下請法の基本的な趣旨に沿った親事業者の責務である。

このように下請法で保証されている「商取引の常識」のようなことを、ATPはなぜこのタイミングで言わなければならなかったのか。その点に私は強い違和感を抱いた。また、清水社長が述べた「制作会社、スタッフなどにはなるべく影響が及ばないようにと一番の方針にしております」というコメントも“取ってつけた”ように感じた。

これらを裏返して考えれば、これまでも「レギュラー番組の予算や本数を削られる」ことや「局の都合による休止や仕様変更にともなう作業への対価が支払われない」こと、「一方的な予算一律カットを行われる」ことなどがあったことを暗示していないか。

■募らせてきた「不満」と「不服」

そしてそれによって、往々にして「制作会社、スタッフなどに影響が及ぶことがあった」ということなのではないだろうか。つまり、ATPの要望はテレビ局への「不満」や「不服」に他ならないのだ。

これまでもATPは、2022年10月18日付HP「製作会社の権利」の「要望・声明」欄で、「放送事業者の皆様へ」という呼びかけで「適正な管理費の確立へのお願い」を訴えている。

同HPによると「具体例としては、見積書上の管理費がバッファ扱いされることで、その部分を値切られる、場合によっては管理費を計上できていないというケースも報告されています」とある。

「管理費」というのは、番組制作に直接関わらない経理、総務、人事などのスタッフ人件費や事務所の家賃や光熱費など、会社運営に不可欠な費用である。だが、局のプロデューサーのなかには、この「管理費」を「利益」と誤認して、「管理費のパーセンテージを下げてほしい」「この分の利益を削って全体額を下げてほしい」と要求して、半強制的に管理費を削ったり、「ゼロ」にしたりする者がいる。

管理費は必要経費なので、それを削られると制作費にしわ寄せが行き、結果的には制作費削減と同じになる。このように、かたちを変えて巧妙にテレビ局から制作会社への「買い叩き」はおこなわれてきた。

■フジHDには「かすり傷」、制作会社には「致命傷」

フジのCMがほとんどACジャパンに差し変わった状況を見て、「フジは危ないのでは」と思っている人がいるだろうが、実はそうでもない。

フジの親会社であるフジHD(フジ・メディア・ホールディングス)の総売上高のうち、フジの売上が占める比率はおよそ40%だ。2024年4月から9月までのフジの売上高は1156億円で、そのうち放送収入はおよそ712億円。その割合はおよそ62%である。したがって、フジHD本体で見れば、フジの放送収入は全体のおよそ25%に過ぎない。

撮影=石塚雅人

フジHDは放送事業以外にも多岐にわたる事業を展開している。営業年間利益で見てみると、特に不動産事業や都市開発、観光事業がグループ全体の335億円の半分以上に相当する195億円を稼いでいる。

例えば、サンケイビルやグランビスタホテル&リゾートのホテル事業が好調だ。グランビスタホテル&リゾートは、銀座や札幌のグランドホテルやホテルインターゲートブランド、鴨川シーワールドなどを経営している。そのため、フジテレビ単体としては放送収入が激減しているので厳しいのは確かだが、グループ全体として考えればまだ余裕があると見ていいだろう。

だが、そんな事情は、フジと取引している制作会社のような業者にとって何の安心材料にもならない。そして、今後、親会社フジHDが子会社のフジを支えきれなくなったときに、フジのさらに下請けである制作会社に本格的な危機が訪れる。

■制作会社が直面する“3つの危機”

では、その危機とは何か。それは、以下の3つである。

1.番組制作費の削減
2.倒産の危機や経営難
3.人材の流出

1つ目は「番組制作費の削減」という危機だ。読者は、私が前述したようにフジの赤字を親会社のフジHDが補填できるのであれば、番組制作費の削減をおこなう必要はないのではないかと思うだろう。ATPもそう要望しているし、清水社長もそう確約している。

だが、4月から半年間、放送収入が得られなければ、700億円規模の売上減となるという試算も出ている。700億円と言えば、ちょうど2024年4〜9月期の同局の売上高に匹敵する。これは、半年間、収入が「ゼロ」であることを意味している。

一方で番組制作費などの経費は出てゆく。したがって、実質的には赤字を計上してゆくことになる。これでは、どんなに大きく強い屋台骨も崩れてしまうだろう。それを当のフジHDはよくわかっている。だから、いずれフジHDによる「番組制作費の削減」の判断は下されると私は見ている。では、その時期はいつなのか。それとも、もうすでに制作費の削減は始まっているのだろうか。

フジの番組を制作している関係者に取材してみた。

ある制作会社の社員は、「今回のフジの問題が制作現場に何か影響を与えているか」という私の質問に対して、「4月以降の番組には何の影響も出ていない」と断言した。制作費削減に関しても、「おこなわれていないし、要請もない」と答えた。

そして「以前と何も変わらない」という言葉を繰り返した。また別のフジのバラエティ番組のスタッフは、「ギャラなどの値切りはあるか」という質問に「ない」と即答し、「4月以降も変わりなく番組は続くと聞いている」と力強く述べた。

撮影=石塚雅人

■「以前と何も変わらない」とは言うけれど…

これらの証言は「想定内」であり、納得がいくところだ。いま削減に踏み切ると、さまざまなところからバッシングを受ける。少なくとも、3月の調査報告書が出るまではおとなしくしておこう。そんな考えが働いても不思議ではない。

フジはこれ以上、自己のステイタスが下がるのは避けたいはずだ。いま番組制作費の削減という強硬策に出れば、レピュテーションリスクが高まることも知っている。「特効薬」はなるべく先延ばしにするに違いない。何とかATPの要望や清水社長の約束通りに制作費削減は据え置き、4月クールは乗り切るつもりだ。そう私は推察している。

しかし、前述の制作会社社員への取材のなかで気になる返答もあった。私の執拗な質問に対して「ほら、田淵さんに言うと書かれるから」と言い、「名前や素性は明かしませんよ」と食い下がった私に、「いや、誰が言ったと犯人探しが始まるのが怖いですから」と語ったのだった。始終、歯切れの悪さも目立った。そこで、さらに取材をしてみることにした。

■「すでに制作費の削減は始まっていますよ」

制作会社同士のつながりは想像するより深く、情報交換も活発におこなわれている。それはそうだろう。「どの局のどのプロデューサーは気をつけた方がいい」「あのタレントはギャラが高い」などの情報は彼らが商売をしてゆくうえでの「生命線」だ。

とりわけ業界内での顔が広い、ある制作会社の社長に話を聞いた。すると、彼ははっきりと言った。

「フジに出入りする制作会社では、すでに制作費の削減は始まっていますよ」

彼の会社では、番組セットをフジ系の美術会社に発注しているが、以前は収録の3カ月後に請求書を出してくるペースだったのに、1月以降は収録が終わるとすぐに請求書を出してくるようになった。それを見て、「ああ、経営が苦しいんだな。きっとフジから制作費を削られているんだ」と確信したという。

「フジだけではないですから。少し自分の身が危なくなったら、出入り業者を切ったり、ダンピングしたりするのは、どこのテレビ局でもやってますよ」

制作費削減は今に始まったことではないというのだ。そしてさらに、ほかの制作会社で起こっていることは「明日は我が身」と苦々しそうに語った。

写真=iStock.com/zamrznutitonovi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zamrznutitonovi

■「人件費を切るしかない」

2つ目は、「倒産や経営難」という危機である。いまはまだ本格的な制作費削減はおこなわれていないというのが私の見立てだが、問題は7月クールである。

そこまで持つ体力がフジHDやフジにあるかどうか。そんな先行きを見越して、フジ以外でも番組制作をおこなっている制作会社は、他局に制作費の見直しをお願いしたり、早め早めの制作費請求をしたりするようになってきているのだった。

2023年1〜9月期のテレビ番組制作会社の倒産が、前年同期(6件)の2.3倍の14件になったというニュースは、業界を震撼させた。この数字は、過去10年間で最多である。2024年度のデータはまだ発表されていないが、業界の斜陽ぶりを鑑みると、倒産件数は増えることはあっても減ることはないだろう。

そしてこの「倒産や経営難」の危機という波は、制作会社だけでなく、芸能事務所やロケ用弁当の仕出し業者など、幅広い業種に及ぶ可能性がある。

そして1つ目の「番組制作費の削減」や2つ目の「倒産の危機や経営難」以上に恐ろしいのが、3つ目の「人材の流出」である。「フジに出入りする制作会社では、すでに制作費の削減は始まっている」と断言した制作会社の社長は、それが「人件費の節減」につながっていると指摘した。

「だって、制作費を切り詰めるって言っても無理ですよ。人件費を切るしかない」

■退職したテレビ局員をカバーし、仕事量が増加

ただでさえ忙しく、決して高給とは言えない制作会社で、さらに給料を下げられるとなると、モチベーションは下がり、辞めたくなるのは当たり前だ。さらに、人材の流出は「カネ」だけが理由ではない。

「うちは、人を守るために、フジから撤退を決めました」

ある制作会社の社長は、自分の会社から優秀な人材が逃げ出すという憂き目に遭った。仮にこの制作会社の名前を「Aプロ」とする。テレビ番組の制作スタッフはピラミッド構造になっている。一握りの局P(プロデューサー)の下に局のD(ディレクター)、その下に制作会社のDがいる。1月27日の二度目のフジの記者会見を見て、愛想を尽かした局のPやDが大量に辞めた。

そのことによって、フジに人材を派遣していたAプロにも影響が及んだ。辞めた局員をカバーするために、Aプロのスタッフがやらなければならない仕事が増えたのだ。彼らは局の管理下にはないため、局員は時間外や過重労働を気にすることなく、いくらでも仕事を振ってくる。フジの名前を出すと取材先でも嫌な顔をされるなどのメンタル面で参っていたAプロのスタッフは、体力的にもつらくなり、次々と辞めるようになったという。

「これ以上、人がいなくなると無理だ」

そう判断したAプロの社長は、長年取引していたフジから撤退した。こういったAプロのような例は1つや2つではない。そうなると、当然、フジ全体の番組制作のスピードやクオリティは落ちてゆく。

写真=iStock.com/microgen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/microgen

■まるで「退職ドミノ」

フジ社員の間では、「制作会社に発注するより、フリーのスタッフを集めて番組を作ったほうが、安くて気が楽だ」という逃げ腰のような声も上がっている。「フジHD本体が持ちこたえられなくなった7月以降は、再放送ばっかりになるのでは」という声も聞かれる。フジ社員は自虐的に「意外とその方が視聴率獲れたりして」と話しているという。

だが、視聴率が獲れても、それをアピールする相手や評価してくれるスポンサーがいないと意味がない。「人件費の節減」という遠くない未来の危機。「フリーランスを歓迎」し、「再放送を容認」するフジ社員たちの思惑。それらを敏感に感じ取ったクリエイターたちが、すでに制作会社から離職し始めているのだ。

「退職ドミノ」が起こり、優秀な社員がいなくなるとどうなるか。人材育成や新規採用ができなくなり、次の世代が育っていかない。そんな悪循環が生まれ始めている。このままでは番組の作り手が枯渇し、テレビ業界全体が危機に瀕してしまうかもしれない。

そうすると日本の放送文化が滅びるということにもなりかねない。電波は私たち国民にとって大切な「公共財」である。その電波を有効かつ適正に運用することは、免許を得て放送事業をおこなっているテレビ局の義務である。

そう考えると、制作会社の存続如何はテレビ局にとっての責任問題でもあるのだ。

■「テレビ以外」の選択肢に乏しい

「制作会社は、これまでテレビ局にぶらさがっていた経営体質を改めるべきだ。その優れた制作力を使って、Netflix(ネットフリックス)やAmazon Prime Video(アマゾンプライムビデオ)などの配信に場を移せばいいではないか」

そう考える人もいるだろう。だが、NetflixやAmazon Prime Videoは革新的な企画には積極的だが、一方でその作品の収益形態にはものすごくこだわる。「誰と組めばどれくらいもうかる」や「誰と組めば安心」といった「座組み」にもうるさい。

かつて私もNetflixと仕事をしようとしたときに、それを強く実感した。おいそれと普通の制作会社が入り込めるものではない。もちろん、資金力やコネクションがある制作会社には可能だ。だが、そんな会社はすでに配信に食い込んでいる。

いま俎上にあるのは、これまで配信に制作の場を移さずにテレビの世界で頑張ってきたクリエイターたちである。そこには、資金力やコネクションがなかったという理由もあっただろう。しかし、「テレビが好きだから」「テレビを盛り上げたい」と思ってテレビの現場に携わってきた人たちも多くいるはずだ。

そんな「ヒト」を大切にしてこそ、テレビ局なのではないか。絶対に放送文化を絶やさない……フジテレビだけではなく、テレビ業界全体がそういった気概とプライドを持って、制作会社の存続問題に立ち向かってゆかなければならない。それがいまの窮地を脱する唯一の「処方箋」だと声を大にしたい。

テレビ局と制作会社の関係を見直す好機だ

以上に挙げてきた制作会社の危機を救うための解決策を、最後に述べたい。テレビ局は国から与えられた放送免許で国民の共有財産である電波を使って業務をおこなっている。特に民間放送は、その放送業務によって利益を得ている。いわば、既得権益を享受しているのだ。その利益を制作会社にも適正に分配するべきだ。

私は局員時代に、番組の著作権を保持するテレビ局が、出演者や制作会社をうまく丸め込もうとする局面に幾度となく直面した。地上波の出演料や制作費に配信の分を包括させてしまって金額交渉するようにと会社から指示されることがあった。そのたびに違和感を覚えていた私は、「配信で利益が得られるのだから、それはちゃんと一緒に番組を作った仲間に配分したい」と言って、別途契約を結ぶようにしていた。すると、「それは局の利益を損なうことだ」と非難されたりもした。こういった契約や利益配分に関する古き慣習も見直すときが来ているのではないだろうか。

現在、局内の限られた部署員だけでおこなわれている番組の予算会議に制作会社の担当者も参加できるようにするというのもいいだろう。全体予算の交渉や予算配分などに一緒に取り組んでもらえば、共有意識が高まって互いの理解や共感が深まる。

そして一体感や協力の意識が強くなり、番組制作の連携がスムーズになったり、コミュニケーションの質が向上したりする。そのことで、ATPの要望に表れていたような「不満」や「不服」も解消されるかもしれない。

テレビ業界全体の健全な発展のためには、そういったテレビ局と制作会社の関係の「再構築」を急がなければならない。

----------
田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員、放送批評懇談会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。
----------

(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)