「好きな仕事で生きていく」の不都合な真実…熱意のない若手エリート社員ほど人生の満足度が高い本当の理由
※本稿は、古屋星斗『会社はあなたを育ててくれない 「機会」と「時間」をつくり出す働きかたのデザイン』(大和書房)の一部を再編集したものです。

■社会人の半数は「仕事とはそもそもつらいものだ」と考えている
私が所属する研究所において行った調査(「ワークス1万人調査」、2024)で、「仕事とはそもそもつらいものであり、そこに楽しさを見出すことは困難だ」と思うかという質問をしたことがありました。
世の中には、「好きな仕事で生きていこう」「仕事のやりがいを考えよう」「会社や仕事へのエンゲージメント」といった、仕事を楽しむことを善とする価値観があふれています。では翻って「仕事を楽しめない」ことはマズイ状況なのでしょうか。様々な仕事と向き合うことになるこれからのライフキャリアにおいて、この点を検証したかったのです。
質問に対しての全回答者の回答結果は図表1のとおりでした。

「そう思う」が7.5%、「どちらかといえばそう思う」が23.7%、「どちらでもない」が37.7%、「どちらかといえばそう思わない」が22.1%、「そう思わない」が9.0%。「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計は31.2%、「どちらでもない」が37.7%、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」の合計が31.1%。
つまり、「そう思う」の合計と「そう思わない」の合計が拮抗した結果です。正規分布に近い形となっており、多様な考え方が存在していることがわかります。
■労働にうんざりして「必要な仕事だけする」人たち
まず、この結果を見てあなたはどう感じたでしょうか。この受け止め方も様々です。ある人は「“楽しめる”と思っている人がもっと多いと思っていた」、はたまた別の人は「こんなに“楽しめる”と考える人がいるんだと驚いた」と言っていました。
「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人に注目してみましょう。「仕事とはそもそもつらいものであり、そこに楽しさを見出すことは困難だ」と考える人々です。
米国労働市場において2022年に注目された言葉に「静かな退職(quiet quitting)」がありました。
この背景にあると指摘されていたのが、「アンチワーク」(anti-work)」という価値観です。BBCでは、アンチワークを思想的背景とする一人の哲学者(ボブ・ブラック)の言葉を引用しつつ以下のように整理しています(※1)。
※1:BBC、2022年1月27日、The rise of the anti-work movement
「『多くの働き手が仕事にうんざりしている。単なる本能的な仕事の拒否ではなく、意識的に拒否する動きかもしれない』とブラックは書いており、人々は必要な仕事だけをし、残った時間を家族や自分の情熱に捧げるべきだと提言している」(※2))
※2:引用元原文は以下のとおり。日本語訳は筆者によるもの。“‘Many workers are fed up with work...There may be some movement toward a conscious and not just visceral rejection of work,’ writes Black, suggesting people do only necessary work and devote the rest of their time to family and personal passions.”
各種のキャリア理論や企業で唱えられてきた“キャリア自律”、そして内発的動機づけや“Will”の重要性。しかしそれと真逆なものとして、実は仕事に対して反感や諦めといった気持ちが存在している。これまでよりも私たちと仕事の関係は複雑化していきます。全ての知人と同じように付き合うことがありえないことと同様に、その全ての仕事・全ての業務と同じ付き合い方をすることもありえません。
では、その付き合い方の幅はどれくらい広いものなのでしょうか。
■「そもそもつらいもの」ととらえる人が多い属性とは
こうした「仕事とはそもそもつらいもの」観を持っているのはどんな人に多いのでしょうか(※3)。
※3:ここでは、「仕事とはそもそも辛いものであり、そこに楽しさを見出すことは困難だ」という設問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した者
日本の就業経験者で特に「そもそもつらいもの」観が高い傾向なのは、「男性、大卒以上、正規社員、大手在籍、若手」という結果でした(図表2)。

まず男女別では、男性34.3%、女性28.0%と男性が高いです。
学歴では大卒未満(中学校、高校、高等専門学校、専門学校・各種学校、短期大学卒業)が29.1%、大卒以上(大学、大学院修士課程、大学院博士課程卒業)が32.4%と大卒以上が高く、就業形態別では、正規の職員・従業員が35.0%と最も高いです。
大手企業在籍(現職従業員規模が正規・非正規合わせて1000人以上の者)かどうかでは、大手在籍者が36.2%、大手在籍でない者が29.5%と大手在籍者のほうが高いです。また、年代別では20歳代が45.0%と最も高く、年齢が上がるにつれて低下する明確な傾向が見られます。
私はこの結果を見て、正直、意外に感じました。日本社会において比較的に恵まれたキャリアパスを歩むことができるとされる属性の人が高く出ているからです。大手企業の正規の大卒以上社員といえば、総合職として幹部候補で入社し、所得も地位も上がりやすいキャリアパスを選びやすい。まさにそういった人たちが、「仕事とはそもそもつらいもの」だと言っているのです。
■「つらいもの」と思っていようがいまいが年収差はほぼない
なお、若手の年収と労働時間と「そもそもつらいもの」観の関係を見たところ(雇用形態間で差が大きいため、この集計は20歳代の正規雇用者で実施)、大企業勤務者で「そもそもつらいもの」観が高いことを反映しているためか、「そもそもつらいもの」観を持つ人のほうが年収がやや高く、労働時間がやや短い結果となっていますが(図表3 ※4)、その差はほとんどないと言えるでしょう。

※4:年間所得は副業・兼業からの収入を含め、賞与・ボーナスも含めた数値。週労働時間は「ここ数カ月の平均的な1週間の労働時間」として回答を得た。複数の仕事をしている場合にはその合計。異常値を除外するため、週20時間以上、60時間以下の回答者で集計
では、「そもそもつらいもの」観は、日々の仕事や生活とどのような関係があるのでしょうか。こちらも、20歳代の正規の職員・従業員を対象に分析しました(なお、以下の結果は、全年代・合計でもほとんど同様の結果が出ていました)。
まずは仕事面との関係について見てみましょう。
「そもそもつらいもの」観を持つかどうか別に、(1)ワーク・エンゲージメント(仕事への熱意、思い入れ ※5)と(2)仕事満足度(※6)、(3)キャリア進捗満足度(※7)との関係を見たのが図表4です。

※5:ここでは、Shimazu et al, 2008より「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「職場では、元気が出て精力的になるように感じる」「仕事は、私に活力を与えてくれる」等の項目の因子負荷量が高い因子を用いた。
Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S.et al. (2008). Work engagement in Japan: Validation of the Japanese version of Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.
※6:ここでは、「現在、あなたは今の仕事に満足している」「私が担当している仕事はだんだんレベルアップしていると感じる」「私は将来の仕事における自分をイメージできる」「私は将来の仕事で、どのような可能性があるかを考えている」の設問(リッカート尺度、5件法)に対する最尤法・プロマックス回転による因子分析において因子負荷量の高かった因子を仕事満足度因子と呼称
※7:「自分のキャリアにおいて、これまで成し遂げたこと」「自分の目標とするキャリアに向けた、これまでの進み具合」「自分の目標とする将来の収入に向けた、これまでの収入の増え具合」「自分の目標とする社会的な地位に向けた、これまでの進み具合」「自分の目標とする新しい技術・技能の獲得に向けた、これまでの進み具合」に対して、リッカート尺度、5件法(満足している〜不満である)の回答を最尤法・プロマックス回転による因子分析の結果として1因子で分析したもの。Spurk, Abele & Volmer,2011を参考にリクルートワークス研究所にて邦訳
Spurk, D., Abele, A. E., & Volmer, J. (2011). The career satisfaction scale: Longitudinal measurement invariance and latent growth analysis. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 84(2), 315-326.
■仕事への期待が低いからこそキャリアに満足しやすい

仕事面の充実に「そもそもつらいもの」観はネガティブな影響を与えると考えられそうですが、予想のとおりワーク・エンゲージメントと仕事満足度のスコアについては、「そもそもつらいもの」観を持つ人のほうが低い傾向が見られます。ただし、ワーク・エンゲージメントではその傾向差が大きいのに比べて、仕事満足度の差は小さくなっています。
一方、キャリア進捗満足度ではその関係が逆転していました。つまり、「そもそもつらいもの」観を持つ人のほうがスコアが高いのです。こうした状況からは、キャリアの初期に「そもそもつらいもの」観を持つことがキャリア形成に与える影響(※8)の複雑性が見えてきます。目の前の仕事へのエンゲージメントは低いものの、仕事に期待することが少ないために満足を感じやすいのかもしれません。
※8:なお、先に「全年代の結果でもほぼ同様であった」旨記載したが、このキャリア進捗満足スコアのみ20歳代と全年代合計で差異が見られ、全年代合計ではほとんどスコアに違いがなかった。
■仕事への情熱はなくても人生への満足度は変わらない
次にプライベートの満足感について分析してみましょう。図表5の各項目の「満足している」割合を分析すると、ほぼ同水準であり、やや「そもそもつらいもの」観を持つ人のほうが高い傾向が見られました(なお、5%水準で有意な差があった項目は、「現在、あなたは生活全般について、満足している」のみ)。いずれにせよ、「そもそもつらいもの」観の有無はプライベートの満足感には大きな差異をもたらしていないのです。

つまり、「そもそもつらいもの」観を持つ人は傾向として、「ワーク・エンゲージメントは低く、キャリア進捗の満足度は高く、プライベート満足度はやや高い」と整理できます。こうした結果はライフキャリア全体を通じた分析からは「仕事はそもそもつらいものであり楽しもうとすることは無駄だ」という仕事観が一律に“悪い”とか“良い”とは言えないことを意味しています。
ライフキャリアの形成とその満足感に関して、「仕事に対してある種割り切って付き合う」「熱意はないが仕事をするのだ」というスタンスが一括りに悪い影響を持つとは言えないのです。
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古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所主任研究員
一橋大学大学院社会学研究科修了。経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。17年より現職。労働供給制約をテーマとする2040年の未来予測や、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。法政大学キャリアデザイン学部兼任教員。著書に『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社)、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)など。
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(リクルートワークス研究所主任研究員 古屋 星斗)
