2019年10月の台風で多摩川から越水した場所。そばにある世田谷区の看板には「想定浸水深 5.0m」とある

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九州や東海では豪雨で河川が氾濫するなど甚大な被害が生じている。氾濫と言えば、首都圏でも2019年10月の台風19号で、「ニコタマ」(東京・二子玉川)や「ムサコ」(川崎・武蔵小杉)といった「住みたい街」ランキング常連の街も大きな被害に遭った。大雨や台風の季節を再び迎え、備えが今どうなっているのか、取材した。

東急田園都市線と大井町線の二子玉川駅(東京都世田谷区)は、近くに玉川高島屋S・Cや大型複合施設「ライズ」などのショッピングセンターがある一大商業拠点だ。近年は再開発が進んでタワーマンションが林立し、「セレブな街」というイメージを持たれている。

二子玉川、土嚢で暫定措置 住民からはまだ心配の声も

昨年の台風19号は「かつてない記録的な大型台風」とされ、駅のすぐ南を流れる多摩川が増水。堤防が整備されていなかった場所から川の水があふれ出し、近くのマンションなどが浸水する被害が出た。背景に、かつて一部の住民が「堤防ができると景観が損なわれる」などと反対していたこともあり、「人災では」と話題となった。

被害を受け、国土交通省は堤防が未整備だった場所に、暫定的に土嚢(どのう)を設置する工事を行った。2020年6月に完成したばかりだ。担当した同省京浜河川事務所によると、今年11月には本格的な堤防の工事を始める計画だという。河川事務所の幹部は説明する。

「景観の件もあって利害調整は続けていますが、堤防の整備におおむね合意は取れた状況です。昨年の台風被害もあって、工事着手のペースを早めました」

現地を記者が確認すると、土嚢は全体が緑色の大型のシートに覆われ、強い水流で土嚢の一部が流出したり土嚢の間から水が漏れ出したりする恐れは少なそうだった。浸水したマンション前の道路の路面からは高さが1メートル数十センチ。これが数十メートルにわたり連なっている。マンションから出てきた住人の女性は8日、こう話した。

「また『想定外』の洪水で水が乗り越えてこないか心配。何より、こうやって悪い方の話題になって街のイメージが下がるのが嫌ですね」

地下に浸水のタワマンは大丈夫? 「反省」の川崎市は再発防止策

東急東横線、目黒線とJR南武線、横須賀線が交わる武蔵小杉駅(川崎市中原区)は、渋谷や品川、横浜に各15分ほどで行ける利便性が人気で、近くには多くのタワーマンションが立ち並ぶ。

昨年の台風19号では、街の雨水を川に流す排水管へ増水した多摩川の水が逆流し、市街地にあふれ出た。さらに一部のタワーマンションでは地下にあった電気設備が浸水して停電や断水が起きた。地下や1階に電気設備があるタワマンは他の地域にも多くあり、「うちのマンションも危ない」と騒然となった。

市によると、多摩川への排水口には水門があり、これを閉じれば排水管への逆流は防げたが、街中の雨水を排出できなくなると判断して、閉じなかったという。この反省を踏まえ、市ではこの春に検証報告書をまとめ、水門の操作手順を改めて逆流が確認された場合は全閉するなど再発防止策を決めた。

一方、浸水で停電したタワマン「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」(地上47階建て、643世帯)では、管理組合が中心となって被害の原因を調べるとともに、次の水害に備えて再発防止策づくりに着手。応急措置として、地下に水が流れ込まないよう、止水バルブを昨年流入があったと想定される経路すべてに設置したり、建物の出入口に止水板を設置して、より少ない人でも対応できるよう訓練も行ったりした。

脆弱さが指摘された、地下にある電気設備については、浸水リスクがない場所への移動も含めて「前向きに検討を実施中」(対応にあたった管理組合の理事)だという。