「シーマン」がAI会話エンジンとして再始動、BOCCOの次世代モデルに「ロボット言語」搭載へ
シーマン人工知能研究所とユカイ工学は7月30日、ロボット向けの会話エンジンの開発で提携すると発表しました。

シーマン」といえば1999年、ドリームキャストで登場した育成ゲーム。ちょっと上から目線の人面魚を捕まえて育てるという内容で、当時としては画期的な「話しかけた言葉に反応する」という会話エンジンが組み込まれていました。夢に出そうなシュールなルックスの人面魚は、世代でなくても記憶している人も多いのではないでしょうか。



そのシーマンをデザインしたゲームクリエイターの斎藤由多加氏は今、日本語のAI会話エンジンを研究しています。シーマン人工知能研究所は、その斎藤氏が立ち上げたベンチャー企業です。

ただし、同社は「シーマン」のようにギョッとするルックスの会話ロボを作るわけではありません。同社が初めてリリースするAI会話エンジンは、親しみやすい見守りロボット「BOCCO」の次世代機に搭載されます。

▲BOCCO emo

■日本語を理解し「ロボット言語」で返す


ユカイ工学のロボット「BOCCO」は、手に乗るサイズの小さなロボット。スマホとの通話や伝言の機能を備え、離れた場所にいる家族や留守番する子どもを見守るロボットとして開発されました。

同社がこの秋リリース予定の次世代機「BOCCO emo」は、表情や動きが豊かになった、より愛らしいロボットになっています。このBOCCOに、シーマン人工知能研究所が開発した「ロボット言語」が搭載されることになります。



ロボット言語は 「人間には理解できない言葉」としてシーマン人工知能研究所とユカイ工学が独自に定義したもの。ロボット(の音声認識エンジンは)は人間の話す言葉を認識しますが、その返答は「ピュ〜ピュ〜」や「ピロピロ」といった"音"で返します。その音は人間には理解できず、発音できませんが、聞いているとなんとなく規則性があることが分かります。



20代後半〜30代半ばの人ならニンテンドウ64の『ピカチュウげんきでちゅう』をイメージすると、ピンとくるかもしれません。あるいは、ペットの犬や猫との会話もこれに近い体験があるでしょう。「何を言っているのか分からないけれど、意思疎通している感覚」を体験させるのが、「ロボット言語」の目的と言えます。

■"シーマン的会話エンジン"も開発中


シーマン人工知能研究所の斎藤代表は、現在、特許出願の準備中としている新たな日本語会話エンジンも披露しました。斎藤氏が新たな会話エンジンで目指すのは、日本語という言語特有の「曖昧さ」をくみ取ることです。

英語のような文法がきっちり構造化されている言語に対して、口語日本語は文法が曖昧でも意味が通じてしまいます。

たとえば 「今日は、ボク、お酒は、ウイスキーがいいな」というフレーズ。日本語話者なら意味を理解は難しくありませんが、文法から構造的に解釈しようとすると途端にハードルが高くなります。

こうした、日本語ならではの言葉のゆらぎに対し、「日本語読解辞書」のようなものを作って対処すれば、よりスムーズな日本語会話エンジンを作れるのではないか、というのが斎藤氏が抱くアイデアです。

斎藤氏は開発中の会話エンジンをデモンストレーションとして披露しました。特許出願のため撮影NGとされたものの、斎藤氏のもってまわった返答に対して、「言葉の置き換えで確認する」という会話エンジンの特徴を紹介しました。

シーマン人工知能研究所の斎藤由多加代表

たとえば、斎藤氏がAIに性別を問われて「女じゃないよ」と答えたらAIは「変な答え方しますね、女じゃないということは、男、という事ですね」と返答。年齢を聞かれたときに斎藤氏が「50代半ば」と答えたら、AIは「なんだかぼんやりした答え方しますね。 てことは、55歳くらいですかね。本当は何歳なんですか?」と返します。

こうした会話はあらかじめすべてのパターンを想定して、シナリオを仕込んでおけば柔軟な対応ができる(ようにみせる)ことができます。斎藤氏が説明した手法は、そのシナリオ対応を大幅に拡大したものと捉えることができます。つまり「50代半ば」を「55歳くらい」と判断するような曖昧な表現を言い換える表現を組み込むことで、日本語話者の柔軟な応答に対応しようというものです。



斎藤氏が披露したデモンストレーションは開発中の会話エンジンのプロトタイプにすぎず、実装はまだこれから。日本語会話エンジンの成熟が不十分なことから、BOCCO emoに組み込まれる「ロボット言語」では「解釈はするが返答は日本語ではない」という形での実装となっています。

ただし、BOCCO emoのロボット言語でも「発話の理解」の方は研究を進めるとしています(BOCCO emoの商用製品に発話を記録する機能を組み込むかは未定)。

「毎日話しかけていたロボットがある日突然話せるようになる」といったエモーショナルな未来が現実に訪れることになるかもしれません。