これが横綱の調整力!万全ではないながらも場所を勤め上げ、大団円の決着で場所を締めた千秋楽結びの一番に感嘆の巻。

写真拡大 (全3枚)

これが横綱の調整力!

さすが大横綱・白鵬。そして横綱・鶴竜。横綱の美技と巧みなる調整力にうなる、大相撲名古屋場所でした。今場所は場所前から大関・貴景勝が休場を決めたほか最終的に4大関がすべて休場するという体たらく。今場所4大関だったものが、下手すれば年内にはゼロになるんじゃないかという状態です。大関陣の調整力たるや、まったくなっておりません。

↓4人もいて全員休みとは…やはり大関は8人くらい必要かもしれない!


いや、むしろ9人いれば「カド番のときは何故か大関戦で全勝(※最終成績8勝7敗)」みたいな調整ができるから、9人ほしい!

9人いれば大関体制は安泰だ!

先場所は平幕・朝乃山に優勝を許し、米国トランプ大統領も「これがYOKODUNAか…」とカンチガイして帰国しただろうことを思うと、上位のチカラ・格というものを見せつけることは今場所の重要事項でした。にも関わらず大関どもは早々にいなくなり、勝ち越した途端に休むという清々しいまでの現実路線を見せつけている。それを「ラクだな」と思う気持ちも当然ありつつ、「いつまで俺たちが頑張らないといけないんだ!」と思う気持ちもゼロではないでしょう。

いかな大横綱でも時間に逆らうことはできません。白鵬34歳、鶴竜33歳まもなく34歳、肉体的な衰えは否めません。白鵬は夏場所休場の要因となった右上腕二頭筋断裂の負傷を抱え、鶴竜も腰に不安を抱えている状態。そのなかで横綱としてのつとめである「千秋楽結びの一番まで優勝争いを演じる」をやり切ること。そして来場所もさ来場所もたぶんそれをやらないといけないこと。そのためには限られた体力を上手に使い、さらなる怪我など負わずに、上手くやりおおせないといけません。大関陣がいないことは優勝争いがラクになる面もありつつ、自分たちが不意の怪我などで脱落することはできないという難しさでもあるのです。

そんななか、調整を困難にさせたのは幕尻で奮闘をつづける照強でした。中日まで6勝2敗、そこからさらに勝ち星を積み上げて11勝2敗で14日目を迎える好調ぶり。その時点で白鵬・鶴竜ともに1敗。あるいは優勝決定巴戦まであるかという展開でした。「またこのパターンか…」と自分たちが直接ストップできないところでの大勝ちに、「くそぅ、アイツさえいなければあと2つくらい負けられるのに!」という苛立ちもあったのではないか…心中を思いやるばかりです。

↓それでも14日目、照強が3敗目を喫して一気にラクな展開に!


「よーし、負けたな!」
「これでもう2敗まではOK!」
「あとはイイ感じに盛り上げて終わる!」
「イイ感じの展開と」
「イイ感じのストーリーで!」

不確定要素がなくなって、目指すゴールへまっしぐら!

整えていくぞ!


さぁ、これで無理をする必要はなくなりました。終盤戦、疲労もあります。まず白鵬は14日目、通算対戦成績56勝6敗と圧倒している琴奨菊を相手にチカラなく寄り切られます。「右上腕二頭筋断裂」の影響は「やはり」否めないのか。あるいは左腕にもチカラが入らないのかもしれません。無理にこらえるようなところはまったくなく、アッサリと土俵を割りました。今場所、白鵬は寄り切られる姿が目立ちます。ひとつ前の取組で御嶽海をくだし1敗を守っていた鶴竜は、これで再び単独トップに立ちます。

世間的には「これで明日白鵬が勝てば2敗同士で優勝決定戦だ!」とさらに盛り上がったかもしれませんが、この時点で僕は当初より見込んでいた鶴竜の優勝を確信しました。実力十分、状態で上回り、さらに白鵬には「やはり」今場所万全ではないあたりが見えています。「あぁ、これは今場所は鶴竜だな」というところが「やはり」見えています。

そして迎えた千秋楽結びの一番。大事なのは勝敗以上に盛り上げです。「さすが横綱」と観衆が満足し、大団円で終わる。勝って強し、負けてなお強し、そんな姿を見せること。しかも、ここで余計な怪我を負ったり追加でもういっちょとなってサービス残業をすることなく、スッキリ1回で決める。立ち合い強く当たってあとは流れで…百戦錬磨の実力者が日頃の申し合いで培ったものを発揮するのはこういう場面です。

しかし、取組内容は予想外のものでした。立ち合い強く当たって土俵際へ…の最初の見せ場は白鵬がスッと左にかわってやんわりと拒否します。「寄って、土俵際まで追い詰めて、そこから戻す」という鉄板の見せ場はどうにも作れそうにないという雰囲気に、鶴竜はすかさず呼応。序盤の攻防は「寄って、こらえて」ではなく、巻きかえ合戦という手技に切り替えます。

右下手で投げを打ちながら、左をねじこんで両差しを狙う鶴竜。それをさせじとこらえる白鵬。いったん右四つに組みかけるも、再度両差しを狙って巻きかえる鶴竜。さらに鶴竜は窮屈になった右の差し手を抜いて、上手を取り直します。これで右四つ⇒左四つにスイッチし、土俵中央で両者がガッチリと組み合い、動きを止めます。従来なら「寄って、こらえて、土俵中央に戻る」で迎えていた「館内大歓声」の場面を、巧みな巻きかえの連打で土俵中央から動かずに生み出した。それはまさに熟達したプロレスラーが、チョップとエルボーの応酬だけで試合を作るような美技でした。

白鵬の右腕、チカラが出ない。互いにもっとも得意とする右四つではない左四つの体勢、うかつに動けない。拍手と歓声を受け止める十二分な時間を、説得力ある形で生み出した両横綱。「よし、盛り上がったな」という手応え。ここから鶴竜軽く寄って、白鵬こらえて、白鵬寄り返しながら鶴竜の右上手を殺しにかかると、鶴竜さらに巻きかえて再び両差しに。巻きかえに次ぐ巻きかえの果てに、ようやくの両差しから一気に寄るという王道決着は、白鵬をも「ここらが潮時」と納得させる鶴竜の展開でした。しっかりと寄り切って止まる鶴竜と、「あー」と天を仰ぐ白鵬。勝って強し、負けてなお強し。納得感のある千秋楽結びの一番でした!

↓確信はしていたけれど、納得の優勝!お見事でした!

魅せた!盛り上げた!納得!

日頃の稽古の賜物です!


もちろん誰もが優勝はしたいわけですが、それはハナから無理なことですし、より大切なのは「この先も相撲をつづけていく」こと。そのためにはまず余計な仕掛けは慎まねばなりません。土俵際でヘンにこらえて逆転の技などを打てば、それは怪我にもつながりやすいわけで、どちらが勝つにせよしっかりと寄って厳かに決めていくことが肝要。立ち合いでの引き技バッタリなどはしない、両者の強さを見せ合って館内大歓声、最後はしっかりと寄って決める。これぞ「正攻法」という内容は、本当にお見事でした。

これで鶴竜は1年遠ざかっていた賜杯を手にし、「やはり横綱」と改めて強さを見せつけました。白鵬も筋断裂から復帰し、十分な存在感を見せつけました。今場所で定年を迎えるという宮城野部屋の床山に対しても、千秋楽まで髷を託すという最高のはなむけができました。体調管理、場所の盛り上げ、千秋楽の美しい決着。その基盤となる「強さ」。大関陣にも「これが横綱なんだ」というところをしっかりと学んでもらいたいもの。両横綱がいたことでしっかり場所が締まったこと、「やっぱり大相撲はすごいなぁ」と世間を納得させられたこと、大関陣にも「次は自分がその役を」と奮起してもらいたいものですね!
一番困るのは千秋楽結びまでもたず早々に優勝が決まるパターンです!