AI加工された「実在しない裸」、初の児童ポルノ認定も…専門家「無理な解釈」と異論…名古屋地裁判決を検証
実在する女子児童の写真を生成AIで加工し、作成された裸の画像を所持したなどとして、児童ポルノ禁止法違反などの罪に問われた元小学校教諭に対して、名古屋地裁は懲役3年6カ月(求刑:懲役6年)を言い渡した。
松本高明裁判官は「一般人が見れば当該女子児童の裸の姿態が撮影されたものであると誤信するに足りる精巧なもの」として児童ポルノと認定した。
性犯罪やわいせつ事件にくわしい奥村徹弁護士によると、生成AIによる「性的ディープフェイク」を児童ポルノと認めた司法判断は初とみられる。
一方、奥村弁護士は、着衣の児童の画像にAIで裸体を描き加えたものは、従来の判例に照らせば「児童ポルノにはあたらない」と指摘する。そのうえで、現行法の無理な解釈ではなく、時代に合わせた新法の整備をうったえている。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●認定された15の罪状、AI画像はその一つ
判決で認定された罪となるべき事実は計15件。担任する女子児童らへの一連のわいせつ行為や盗撮、公然わいせつなどに加え、AI画像の所持が含まれており、懲役3年6カ月はこれらを併せた量刑だ。
判決要旨によると、被告人は、担任クラスなどで撮影された女子児童(当時8歳)の写真を、同様の嗜好を持つ教員グループに秘匿性の高いアプリ「エレメント」で提供。
メンバーがAI画像編集サイトで胸部や陰部を露出された姿態を描写したものであるように認識される画像を作成し、被告人が携帯電話に保存して所持していたとされる。
判決はこれを「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した」児童ポルノにあたると判断した。
松本裁判官は「身体部分はAIによって描写されたものであるが、顔貌部分やポーズは元の写真と同一であって、一般人が見れば当該女子児童の裸の姿態が撮影されたものであると誤信するに足りる精巧なもの」で「性的画像が拡散、悪用される可能性がある危険な状態を作出した」と指摘した。
ただ、AI画像が児童ポルノにあたるとした判断について、判決要旨上は、踏み込んだ理由づけは示されておらず、「誤信するに足りる精巧なもの」との評価は量刑理由で述べられているだけだ。
●児童の裸の姿態が実在せず「初めてだと思います」
奥村弁護士は慎重な姿勢を見せる。
──生成AIで加工した「性的ディープフェイク」を児童ポルノと認定した司法判断として、今回が初めての事例と評価できるでしょうか。
児童は実在するものの、その児童の裸の姿態が実在しない場合にも児童ポルノとされたのは、初めてだと思います。
──AI加工による性的画像の所持は、量刑(懲役3年6カ月)にどの程度影響したと考えられますか。
単純所持罪(7条1項)は法定刑が比較的軽い罪であり、対象となった画像数も少ないので、この点に関する量刑としては1〜2カ月だと思われます。
●今回のAI画像は「児童ポルノ」なのか
──裁判所は「身体部分はAIによって描写されたもの」であっても、実在児童の写真を使い「一般人が誤信するに足りる精巧なもの」だとして児童ポルノと認定しました。この「精巧さ」や「一般人の誤信」を基準とする考え方をどう評価しますか。
聞くところによると、今回問題になったのは、普段着の児童の全身写真を全裸に加工したものだったようです。
そのような画像が、児童ポルノ法2条3項3号の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀(でん)部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているもの」に該当するかが問題となります。
法文上、同号の「児童」は、同条1項に定義される「18歳未満の実在人」を意味しますので、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」というのも、「実在する児童」の「実在する(裸の)姿態」を意味することになります。
他の条項を見ても、姿態をとらせて製造罪(7条4項)、ひそかに製造罪(同条5項)も、児童ポルノは「実在する姿態」を記録したものであることを前提にしています。
さらに、児童ポルノ製造目的人身売買罪(8条)では端的に「第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的」とされています。
この観点から見れば、着衣の児童の画像をAIで加工した場合、加工された部分は「実在する児童」の姿態でも「実在する姿態」ではないため、児童ポルノには該当しないことになります。
●過去の裁判例に従っても「児童ポルノにならない」
──「一般人の誤信」という基準は、過去の裁判例にもあるものでしょうか。
先例として、児童のヌード写真集を素材にCGで児童の裸体を描いたとされる事案があります(東京高判平成29年1月24日)。この判決における「一般人の認識」という基準は、素材となった実在の児童と、それをもとに作られたCG画像とが同一かどうかを判断するために用いたものと解しています。
そのうえで、実際の姿態と若干の差異があっても、なお「当該児童を描写したといえる程度に、被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には、その児童の権利侵害が生じ得る」として、処罰の対象になるとしました。
つまり、この判決の「一般人の認識」は、あくまで実在の児童と画像との同一性を測る基準です。これに従えば、顔だけが実在で、乳房や陰部を想像で描いたような画像は、「当該児童を描写したといえる程度に……同一であると認められ」ないので、児童ポルノにはなりません。
──児童ポルノ規制法2条3項の「児童の姿態」という要件との関係では、どう考えますか。
法文上、「児童」については実在性を要件として、「児童の姿態」については実在性を要件としないというのは、矛盾します。
7条4項、5項、8条の場合は「児童の姿態」は「実在する姿態」を意味すると理解されますが、1項の場合だけ実在性を要件としないとするのは、法の解釈として一貫性を欠くでしょう。
●架空の児童であれば「児童ポルノとされることはない」
──仮に実在する児童の写真を一切使わず、完全に架空の児童をAI生成した画像だった場合はどうでしょうか。
検察庁も「実在しない児童を描写したポルノについては、2条第3項にいう『児童ポルノ』に該当しないとされており」と説明しています。
そのうえで日本は、サイバー犯罪に関する条約9条の「2b 性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者」「2c 性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像」を留保していますので(※1)、現行法の児童ポルノとされることはないでしょう。
●「無理な解釈ではなく、新規の立法を」
──生成AIによる性的画像の被害に対して、現行法はどこまで対応できているのでしょうか。今後、どのような対応が必要だと考えますか。
生成AIによる性的画像の問題は、児童に限ったものではありません。従来は、わいせつ物の罪(刑法175条)、名誉毀損罪(刑法230条)、児童ポルノ法、著作権法などで対応されてきましたが、対応しきれていないのが現状です。
そのため諸外国では、これを新規に規制する法律が検討・制定されているようです。
たとえば韓国では、本人の意思に反して性的欲望を誘発する形に映像を編集・合成・加工したり、それを流布したりする行為が処罰の対象とされ、対象者が児童の場合には刑が加重されるようです(※2)。
日本においても、児童ポルノ法の無理な解釈で対応しようとするのではなく、新規の立法をしっかりと検討すべきだと思います。
(※1)島戸純「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」警察学論集57巻8号
(※2)「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」「児童・青少年の性保護に関する法律」、外国の立法 No.302-1(2025.1)
【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/

