寄り添うことを教えてくれた犬セル。悲しみを乗り越えてつなぐ、優しさの物語。/犬からの手紙が教えてくれたこと(4)

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◆寄り添うことを教えてくれた犬セル。悲しみを乗り越えてつなぐ、優しさの物語。/犬からの手紙が教えてくれたこと(4)

犬はあなたに愛されて幸せだった――5分で泣ける、愛犬との17の感動物語。

◆【第4話】さよならの続き〜ミニチュアダックスのセル・メル・チョコ・ベル〜




(C)皐月コハル・さかぐちまや/スターツ出版 無断転載禁止

 ――故郷の友人である飼い主のひろみ。死別した愛犬セルとメルが教えてくれた優しさの話。



 セルは、ミニチュアダックスのブラックタンの、小さな女の子。一緒に暮らすメルより一つ年上で、どこかお姉さんぶっていて、それでいて甘えん坊だった。

 そしてメル。ブラックタンの男の子。セルのあとを、いつも少し遅れてついていくような、優しい子。二匹は、本当に仲が良かった。

 セルが十二歳になった年、病院で告げられた言葉は、あまりにも無慈悲だった。

 「骨肉腫です。余命は、半年ほどでしょう」

 頭では理解したつもりだった。でも、心はついてこなかった。

 それから一か月後のことだった。 セルがいつものようにトイレでオシッコをしようと頑張っていた。少し時間がかかっていて、苦しそうで。次の瞬間――ガクッ、と。音がしたような気がした。
 
 そして、そのまま、セルは動かなくなった。あまりにも突然で、あまりにもあっけなくて、私は何もできなかった。
           
 (私が、殺してしまったんじゃないか)

 その想いは、今でも胸の奥に残っている。セルは痛かったに違いない。 あんなに我慢強い子だったから、きっとずっと耐えていたのだろう。

 思い出すたびに、涙がこぼれる。犬を失うと、人は、自分を責める。 終わることなく、何度も何度も。

 ――でも、あの時の私には、メルがいた。ご飯をあげなきゃ、お世話をしなきゃ、それだけで、なんとか毎日を繋いでいた。けれど、メルは違った。セルとずっと一緒にいたメルにとって、あの喪失は「半分の世界が消えた」ようなものだったのだと思う。

 ある日、ふと気づいた。――あれ? メル、聞こえてない? 

 病院で言われた言葉は、静かだった。

 「ショックの影響かもしれませんね」

 メルは聴覚を失っていた。 いや、もしかしたら―― 心の一部を失ったのかもしれない。

 それでも、私たちはやっていけた。もともとハンドシグナルで「待て」も「おいで」も通じていたから。 言葉がなくても、伝わるものがあったから。ただ、メルは少しずつ理解していった。 セルが、もう戻らないということを。

 そして、時は流れて――メルは十五歳で、静かにその生涯を終えた。てんかん発作だった。

 あの時、寝ながら足をピクピクさせていたのを見て、「走ってる夢なんだな」って、笑ってしまっていた。今ならわかる。あれは、兆候だったのかもしれない。

 倒れて、痙攣して、急いで病院へ連れて行った。二日後の朝六時、電話が鳴った。

 「亡くなりました」

 迎えに行った病院の空気は、冷たかった。

 その時、私は初めて、完全に崩れた。セルの分も、メルの分も、二匹分の喪失が一度に押し寄せてきた。悲しくて、苦しくて、息ができないみたいだった。

 「もう、二度と犬は飼わない」

 そう誓った。『虹の橋』も、『犬の十戒』も、怖くて見られなかった。 名前を聞くだけで、涙が出そうだった。――それから数年後。

 ホームセンターの中のペットショップで、娘が言った。

 「チョコタンのダックスいるよ」

 見なかった。 見ないようにした。もう、関わらないって決めていたから。でも、誕生日の近く、その子を抱っこした瞬間、時間が止まった。――メルに似ている。

 家族全員で抱っこして、連れて帰ることに決めた。名前はチョコにした。でも家に迎えた日は一切、声を出さなかった。ペットショップで辛い経験をしたのかもしれなかった。

 臆病で、不器用で、 昨日仲良くなったはずなのに、次の日には全部リセットされているような子。甘え方も知らない。 抱っこも長くは嫌がる子だけど、可愛かった。

 ――そして、ベル。ブラックタンの女の子。

 ドッグ訓練スクールから引き取った子で、なんでもできる、明るくて、まっすぐな子。すごくセルに似ていて、生まれ変わりなの?と思うくらいだ。

 ベルは、セラピードッグをしていて、老人ホームやデイサービスを訪問する活動をしている。利用者に抱っこしてもらったり、「読書介助犬」といって、子どもが犬に本を読み聞かせる機会を提供している。最近は、チョコも見習いとしてベルの隣で、訓練中だ。

 私は、時々考える。あと何年、この子たちと一緒にいられるのかな、って。

 寄り添うこと。 認めること。 信じること。

 それを教えてくれたのは――セルだった。あの子には、厳しくしてしまったことを後悔している。娘の面倒を見てくれるすごく優しい子だったのに。だから、セルに厳しくしていた分、ベルとチョコには優しくしたいと思う。

 今の私があるのは、セル、メル、チョコ、ベルのおかげだから。

 窓の外に風が吹いて、ふと、誰かが尻尾を振っているような気配を感じた。

 ――セルとメルは、きっと今もどこかで一緒にいるような気がする。
 
 ふたりの優しい世界の中で。




(C)皐月コハル・さかぐちまや/スターツ出版 無断転載禁止