26年4月13日、木下グループ入社式でダイナミックなリフトを披露。世界一のパフォーマンスに新入社員から大きな歓声が(写真:アフロ)

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【前編】「こんなに強くなるなんて」りくりゅうの恩師が明かす五輪で目撃した“三浦璃来の進化”と恩人支援者が明かした“今後”から続く

2019年7月。中京大アイスアリーナで行われたペア強化を目的とした連盟のトライアウトに、当時17歳の三浦璃来(24)が参加した。そこに、26歳になっていた木原龍一(33)も手伝いとして駆り出されていた。

そのリンクサイドには、のちに2人のコーチとなるブルーノ・マルコット氏(51)の姿も。連盟の招きで、カナダから来日していたのである。

三浦が小5のときから指導に当たっていた元ソルトレークシティー五輪代表の本田武史さん(45)は、旧知の仲であるブルーノ氏の付き添いのような感覚でそのリンクを訪れていたという。

ブルーノは選手時代からものすごくポジティブ。コーチとしても厳しさで追い込むというより、熱くて明るく、選手とよくコミュニケーションを取る。そして、研究熱心で、どうすれば世界で戦えるかをつねに考えている人でした。そんな彼が、トライアウトが終わった後、龍一と璃来を組ませることを提案してきたのです」

三浦は「わかりました」と応じ、木原と一度組んでみることになった。時間にして、わずか15分ほど。しかしその短い時間の中で、本田さんは異様なほどの相性のよさを目の当たりにした。

「初めて組んだのに、ぎくしゃくするところがほとんどない。ツイストの高さもスピードも、世界のトップペアに近いものがありました。あれは本当に奇跡的な15分だったと思います。とくにシングルツイストリフトを行うと、璃来の体は高く上がり、滞空時間も長くてスムーズでした。それを見たブルーノは、『世界で戦えるのは、この2人しかいない』と小声で繰り返していました」

ブルーノ氏に請われた本田さんは、高校生だった三浦の母親に会いに行った。木原と組み、ブルーノ氏が指導するカナダへ渡る必要があることを伝えるためだった。

本田さんが語る。

「僕のやることは、ブルーノが『五輪でメダルを狙うためには、2人が組むべきだ』という言葉を伝えることでした。英語も生活も不安があるでしょう。でも本気でペアをやるなら、これまでのように夏休みだけ海外へ行って、短期間だけ練習するというやり方では中途半端になってしまうと。そして、最終的に決めるのは璃来、あなたなんだよとも言いました」

■木原は9歳下の三浦を、競技面だけでなく生活面でも支えた

2019年8月、新しいペアが誕生。三浦と木原は、ブルーノ氏が待つカナダへ旅立った。

2人の拠点はトロント郊外のオークビル。木原はアパートに住み、高校生だった三浦はホームステイ。朝8時に始まる練習へ向かうときは、木原が車で迎えに行く。それが、2人の日常になった。

カナダに渡った2人について、多くのメダリストをサポートしたトロント在住のマッサージセラピスト、青嶋正さん(62)が語る。

「木原君は、ほとんど引退を覚悟していたところからのスタート。いろいろな所を痛めていました。マイナスからの出発でしたが『璃来ちゃんと出会って、もう一回、挑戦したいんです』と話していました。内側から本当に伝わってくる言葉でした。ラッシュアワーだと自宅から2時間かかる診療所まで毎日のように通ってきました」

一方で、三浦の気持ちは最初から木原と同じ熱量に達していたわけではない。青嶋さんは振り返る。

「璃来ちゃんはまだ10代で、最初はコンディショニングの必要性をそこまで感じていませんでした。木原君が施術を受けている横で、『マリオカート』をしていました。でも、ペアでは片方の不調がもう片方に直結する。たとえば、璃来ちゃんの軸が乱れると、木原君の体に負担が来るんです。本当は毎日、施術に来てほしい。セルフケアの大切さを2人で理解し、2人で対応できるようにする必要がありました」

背水の陣で臨んでいた木原は、9歳下の三浦を、競技面だけでなく生活面でも支えた。

「振付の指導を受けるために、モントリオールまで来てほしいと言われて、木原君は、オークビルから片道7時間、雪嵐の中を何度も往復していました。スケートばかりではストレスもたまると、璃来ちゃんの洋服や化粧品の買い物にも木原君がつきあってあげていました。また夕方の施術のときは、木原君が璃来ちゃんの分の弁当も作って持ってきていた。つねに木原君が『次はここ行くからね』『忘れ物はない?』とあれこれと世話を焼いていました」(青嶋さん)

責任感の強い木原が、三浦を牽引していく。ペア結成からわずか3カ月後に臨んだNHK杯では5位に入った。

木原に引っ張られるようにして、三浦の意識も少しずつ変わっていった。青嶋さんは続ける。

「璃来ちゃんも、セルフケアを意識するようになりました。セルフケアとは、自分でマッサージをすることではありません。自分の体や心の問題点を理解し、自分である程度対応できるレベルに達すること。璃来ちゃんもマッサージを受けることも練習の一つと捉えるようになったし、自分でマッサージできないところのケアや試合前に体を温めるために『貼るお灸』を使うようになりました」

本田さんが語る。

「前のパートナーと組んでいた時期は、短期間でも海外に行くと、ホームシックのようになって2?3日置きに愚痴のような電話が来ることがありました。でも龍一と組んでからはなくなりました。海外生活の経験がある龍一が生活面でも彼女を支えていたのでしょう」

2022年の北京五輪では、結成3年で団体戦の銀メダルに貢献。個人戦でも7位に入り、日本ペアの最高順位を更新。

さらに翌年の世界選手権では、金メダルを獲得するまでに成長していく。

そしてミラノ・コルティナ冬季オリンピックではショートプログラムでの失敗を乗り越え、見事、金メダルに輝いたのだった。