トランプが当選した2016年のアメリカ大統領選において、Facebookはどのような役割を果たしたのか。Facebookの元幹部サラ・ウィン=ウィリアムズ氏の著書『ケアレス・ピープル 権力と欲望、失われた理想の物語』(訳:池田真紀子、すばる舎)より、一部を紹介する――。(第2回)
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ドナルド・トランプ氏(写真=Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons) - 写真=Wikimedia Commons

■大統領選においてFacebookがやったこと

リマまでの10時間のフライト中、広報チームのエリオットは、Facebookがいかにしてドナルド・トランプを当選させたかをマーク(ザッカーバーグ)に根気強く説明した。エリオットの話には説得力があり、しかも懸念すべき内容でもあった。

Facebookは数カ月にわたり、サンアントニオにあるトランプのデジタルチームの拠点にスタッフを常駐させていた。トランプ陣営のプログラマー、コピーライター、メディアバイヤー、ネットワークエンジニア、データサイエンティストも一緒だった。

Facebookの常駐スタッフとともに選挙運営を指揮したのが、ブラッド・パースケールというトランプ側の中核スタッフだった。パースケールは、誤情報や先導的な投稿、寄付を募るメッセージなどで有権者を狙い撃ちした。これは“クソ投稿”を武器としてホワイトハウスへの道を拓くという、それまでにない政治手法だった。

広告チームを率いていたアンドリュー・ボズワーズ(“ボズ”)は、この手法を「一人の広告主による史上最高のデジタル広告キャンペーン。以上」と評価した。エリオットは、順を追ってマーク・ザッカーバーグに説明した。

■陣営がもっていた2.2億人のデータ

Facebookとブラッド・パースケールの合同チームは、商業広告主向けにFacebookが設計したデータツールを使ってユーザーをマイクロターゲティングし、エンゲージメントを最大化するため、広告に細かな調整を重ねた。

私が理解するかぎりでは、トランプ陣営は“プロジェクト・アラモ”というデータベースを構築し、2億2000万人を超えるアメリカ人のプロファイルを蓄積していた。銃の登録状況、選挙人登録情報、クレジットカードや購買の履歴、閲覧したウェブサイト、所有車両、居住地、最後の投票日など、オンライン・オフライン双方の行動データを網羅していた。

トランプ陣営はFacebookの〈カスタムリストからカスタムオーディエンスを作成する〉機能を使い、そのデータベースに登録されている個人とFacebookのアカウントを照合した。次にFacebookの〈類似オーディエンス〉アルゴリズムを用いて、既知のトランプ支持者と“共通の特性”を持つ、見かけ上“似ている”ユーザーを抽出した。

つまり、トランプ支持者が特定の種類のピックアップトラックを好むとすれば、同じ種類のピックアップトラックに関心を示しているが、まだ投票先を決めていないユーザーを探して広告を表示する。

写真=iStock.com/101cats
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/101cats

広告の文言からボタンの色まで微調整

次にトランプ陣営は、そのターゲティング戦略とメッセージテストで得られたデータとを組み合わせた。「国境に壁を建設せよ」というメッセージに反応しそうな層にはまさにそのような広告を、育児に不安を抱えている母親にはトランプ政権下では「保育費が100パーセント税控除対象になる」という広告を見せた。

さらに、広告の文言から画像、〈寄付〉のボタンの色に至るまでのディテールを絶えず微調整する専門チームも設置されていた。ごくわずかな違いでも、響く相手はまるで異なるからだ。

選挙期間中、トランプ陣営はつねに数万種類の広告を同時進行で展開していた。最終的には数百万種類にもなった。そういった広告は、Facebookの〈ブランドリフト〉調査を使ってテストされ、ユーザーが広告のメッセージをどれだけ理解したかを測定し、その結果に応じた調整が行われた。

多くの広告には扇動的な誤情報が含まれており、それがエンゲージメントを押し上げ、同時に広告単価を引き下げた。人々が広告に反応すればするほど、広告費は安くなる。Facebookのツール群とVIPサービスの組み合わせにより、メッセージと受け手の両方について驚異的な精度のターゲティングが実現した。まさに広告の理想型と言えるだろう。

■莫大な資金を投じ、毎月数百万ドルを得る

トランプ陣営は、Facebook広告に莫大な資金を投じた。ヒラリー・クリントン陣営をはるかに上回る額だった。

世界全体で見ても、選挙直前の数週間、トランプ陣営はFacebookの広告主ランキングの常連だった。それが可能だったのは、データに基づくターゲティングによって、Facebookを通じて毎月数百万ドル規模の選挙資金を集められたからだ。実のところ、Facebookはトランプ陣営にとって最大の資金源になっていた。

パースケールのチームはそれとは別に、投票抑制キャンペーンも展開した。標的にされたのは、民主党支持層のうちの3グループ――若年の女性、バーニー・サンダースを支持しそうな白人リベラル層、黒人有権者だ。

彼らには、いわゆる“ダークポスト”――特定の対象者にしか表示されない非公開の投稿――が送られた。研究者やほかのユーザーのフィードには表示されない。狙いは、ヒラリー・クリントンへの投票を思いとどまらせるような情報を届けることだった。

黒人有権者向けには、ヒラリーの「アフリカ系アメリカ人はスーパープレデターだ」という1996年の差別的な失言をもとにした風刺漫画が配信された。最終的に、黒人有権者の投票率は民主党の期待を下回った。僅差で勝敗が決まる激戦州において、こうした要素が大きな影響を及ぼしたのだ。

■あまりにも醜悪な話

マークは無言で説明に耳をかたむけていた。すぐには受け入れず、反論したりしていたが、しだいに好奇心が募ったようだった。その仕組みを理解しようと質問を重ねた。

サラ・ウィン=ウィリアムズ『ケアレス・ピープル 権力と欲望、失われた理想の物語』(訳:池田真紀子、すばる舎)

Facebookがそのような形で利用されることを不快に思っている様子はなかった。むしろその巧妙さに感嘆しているようだった。もともと誰でも利用できる形で提供されていたツールだ。それをこんな風に活用した発想の鋭さに感心したのだろう。

私はエリオットの説明を聞きながら愕然としていた。といっても、初めて聞く話ではなかった。選挙の数日後、シェリル(Facebook最高執行責任者)の事業運営会議でその話が出たときも、同じ衝撃を感じた。そんなことをするような会社で働いているのだと思うと、ねっとりとまつわりつくような嫌悪が湧いた。

自分が創業者だったら、いったいどんな気持ちになるだろう。きっとあのときの機内でパニックを起こし、飛行機はメキシコあたりのどこかに緊急着陸する羽目になっていたのではないか。あまりにも醜悪な話だ。それほどの責任を自分が負うなんて想像もできない。

事業運営会議で同じ説明を聞かされたシェリルは、トランプ陣営の手口を理解するや、反感を示すどころか、それはすばらしく巧妙で革新的だ、トランプ陣営のそのブラッド・パースケールという人をFacebookに引き抜けないかと言った。誰もが黙りこんだ。

ぎこちない沈黙ののち、まずいことを言ったらしいと気づいたのか、シェリルは方向を変えた。「そうね、そんなのは無理よね。その人はいま、きっと引く手あまたでしょうから」一拍の間。

「でもトランプ陣営のほかの人なら、引き抜けたりしない?」

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サラ・ウィン=ウィリアムズ元Facebook幹部
国際弁護士。ニュージーランドの外交官として活動。その後、Facebookにみずからのポジションを売り込んで入社し、最終的にはグローバル公共政策部門のディレクターに就任。同社を退職後は、AIを含むテクノロジー政策の分野で活動を続けている。(c)Tom Trevatt 
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(元Facebook幹部 サラ・ウィン=ウィリアムズ)