(※写真はイメージです/PIXTA)

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「優秀な孫には喜んで援助したい。でも、それ以外の孫たちには特別なことはしない」。こんな風に、祖父から露骨な差をつけられたとしたら――? 祖父母が教育費を援助すること自体は珍しくありませんが、その基準が「成績」や「期待度」だけになると、家族関係に深い傷を残すことも。今回はトータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、このような“孫差別”問題に対するお金と家族の距離感、そして孫への公平な向き合い方について解説します。

「将来有望な孫」にだけ惜しみなくお金を使った祖父

「俺にもしものことがあっても、誰も来てくれないかもしれないな……」

東京都内に住む甲斐一郎さん(仮名・現在80歳)は、そう肩を落とします。

65歳で完全リタイアをした一郎さんは、その当時、退職金に加え、預貯金や投資信託など約4,800万円の金融資産と土地付きの家を保有。夫婦の年金見込みも年間約340万円あり、老後資金への不安はありませんでした。

一郎さんには3人の子どもがおり、孫は6人。なかでも特別に期待を寄せていたのが、長男の子・翔太くんでした。

幼いころから優秀だった翔太くん。難関私立中学校へ進学した翔太くんに対し、一郎さんは授業料や塾代として3年間で約300万円を援助しました。一方、ほかの孫たちへの援助といえば、入学祝いの3万円程度です。

「翔太は将来、医者か弁護士を目指せる」
「お金っていうのは、こういう子に使ってこそ意味があるんだ」

お正月、親族が集まる場でも翔太くんを褒める言葉は止まりません。一方で、ほかの孫たちには、ほとんど無関心でした。

「翔太くんと、その他」……同じ“孫”のはずが、その扱いはまったく違う。孫も成長するにつれ、それを感じるようになっていたのです。

期待を一身に受けた孫に「まさかの事態」

その後も、翔太くんへの期待は強まるばかり。高校在学中に援助した教育費を合わせると、援助額は約500万円に達していました。

一方、翔太くんは、祖父の期待に応えようと必死でした。難関高校へ進学し、医学部を目指して毎日10時間以上勉強を続けます。しかし高校3年生の秋、体調を崩して学校へ通えなくなり、大学受験を断念。自宅療養が続くようになりました。

一郎さんは思わず口にします。

「ここまでお金をかけたのに……」

しかし翔太くんにとって、その500万円は応援ではなく「絶対に失敗できない」という重圧でした。

翔太くんはその後、地元の小さな会社に就職し、事務職員になりました。一郎さんが「医者か弁護士になる」と信じた孫は、ごく普通の社会人として人生を歩むことに。それは、一郎さんにとっては“期待外れ”といえる結果でした。

「その他の孫」が予期せぬ成功

一方、意外な姿を見せた孫がいました。次男の一番上の子、悠斗くんです。

悠斗くんは、翔太くんと同い年。公立高校卒業後、情報系の専門学校へ進学。一郎さんからの援助は一切なく、学費約260万円は、奨学金とアルバイト、両親の支援で賄いました。

在学中からアプリ開発を始め、卒業後はIT企業へ就職。26歳で独立し、中小企業向けの業務システム開発を手掛ける会社を設立します。売上は初年度2,000万円、3年後には年商8,000万円を超え、本人の年収も1,500万円ほどになりました。

「勉強だけが人生じゃない」――そう考え、自分の得意分野を磨き続けた結果でした。そんな悠斗くんの成功を、息子伝えで知ることになった一郎さん。

「悠斗……あの、ぼんやりした感じの子か?」

高校を卒業すると同時に、悠斗くんは一郎さんに会いに来ることはなくなりました。しかし、一郎さんは翔太くんが大学進学を諦めた途端に、孫という存在自体に無関心に。悠斗くんについて、ほとんど記憶になかったというのが正直なところでした。

それなのに、成功したという情報を知ると、一郎さんの中で悠斗くんが“特別な孫”になっていったのです。

妻の葬儀で気づいた「いつの間にか失っていたもの」

そんな中、一郎さんの妻・登美子さんが死去。葬儀を終え、久々に親族一同が集まった席で、一郎さんは悠斗くんにこう話しかけました。

「すごく成功しているらしいな。やっぱり、お前は俺の孫だったな」
「資金が必要なら相談しろよ、いつでも相談に乗るから」

悠斗くんは穏やかな、しかし極めて他人行儀な口調でこう返しただけでした。

「はい、仕事は順調です。でも、昔のことは忘れていませんよ」

それ以上会話は続きませんでした。

悠斗くんだけではなく、翔太くんも他の孫たちも一郎さんに必要以上に近づこうとせず、孫同士の会話もありません。一郎さんの子どもたちも、お互いどこか他人行儀です。一郎さんの“偏った援助”などから、深い溝ができていました。

昔から「翔太ばかりじゃなくて、ほかの子たちもちゃんと見てあげて」と言っていた登美子さん。話を聞かない一郎さんに代わり、“その他の孫”にこっそりとお年玉やお小遣いをあげていたのも、登美子さんでした。

登美子さんが亡くなり、一郎さんは一人の生活になります。しかし、子どもたちは自分ではなく妻に会いに来ていた。孫も、この様子では来てくれそうもない。では、この先は自分はどうなるのか――?

今や資産は運用で6,000万円を超え、老後資金という意味で困ることはありません。しかし、一郎さんは「家族との信頼関係」をとっくに失っていたことに気づいたのです。

専門家の視点|「孫差別」で家族を壊さないために

日本政策金融公庫によると、子ども1人あたり大学卒業までに必要となる教育費は、進学先や通学形態によって大きく異なり、幼稚園から大学まで私立を選択するなど条件によっては2,000万円を超えるケースもあります(※)。

こうした背景から、祖父母が教育資金を支援する家庭も少なくありません。ただし、その援助が「成績が良い子だけ」「期待できる子だけ」といった条件付きになると、子どもは「自分の価値まで比べられている」と受け止めてしまうおそれがあります。

子どもの可能性は、幼い頃には誰にも分かりません。勉強が得意な子もいれば、ものづくりや芸術、スポーツ、人とのコミュニケーションなど、それぞれ異なる分野で力を発揮する子もいます。将来の活躍は、偏差値や成績だけで決まるものではありません。

そのため、教育資金を「将来のリターン」を期待する投資として考えるのではなく、「あなたを応援している」という気持ちを伝えるための支援として考えることが大切です。

援助額に違いが生じる事情がある場合もあるでしょう。必ずしも全員に同じ金額を渡さなければならないわけではありません。しかし、その際は理由をできるだけ丁寧に説明し、それぞれの孫を一人の人間として尊重する姿勢が欠かせません。

家族のお金は、単なる経済的な支援ではなく、信頼関係を育むためのものでもあります。孫同士を比べるのではなく、一人ひとりの個性や努力を認め、応援しているという気持ちを伝えることこそが、長く良好な家族関係を築く何より大切な財産になるのではないでしょうか。

※日本政策金融公庫「教育資金はいくら必要?かかる目安をご紹介」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/ippan/kyoikuhi/cost.html

新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®