\20,000,000……子のいない伯父(享年81)の死から5年後、甥が伯父のタンスから見つけた巨額の資産が眠る「預金通帳」【CFPが解説】
10年以上、預貯金の出し入れがない口座は「休眠預金」として預金保険機構に移管されます。毎年、日本国内でどれほどの預金が休眠扱いになっているか、ご存じでしょうか。同機構によると、令和6年度中に移管された休眠預金は1,694億円、口座数にして631万件にのぼります。遡れる範囲で資料を確認すると、毎年1,300億円〜1,600億円もの預金が休眠扱いとなっており、これほど巨額の資産が眠り続けていることがわかります。休眠預金になる原因として多くを占めるのが、故人の預金口座の存在を遺族が誰も知らないパターンです。もし相続手続き後にこうした預金の存在が明らかになった場合、相続トラブルが複雑化する可能性も……。子どものいない叔父夫婦とその甥の事例を通して、財産の見落としによる相続トラブルの原因とその回避策についてみていきましょう。
「休眠口座」は600万件以上…放置されたまま眠る巨額の資産
休眠預金のなかには、引っ越しなどで使わなくなった口座が単に忘れられているケースもあるでしょう。しかしそれ以上に、高齢で亡くなった方の遺族が、口座の存在自体を把握していないケースが大半を占めると推測されます。また、死亡届は提出されていないものの、データ上100歳を超える名義人のなかには、すでに亡くなっている方も含まれていると考えられます。
こうした状況を踏まえ、金融機関では長期間動きのない高齢名義人の口座について、生存確認を強化しはじめています。
「うちの家族に限って、そんな大金を見落とすはずがない」「それほどの財産を放っておくはずがない」とは、誰もが思うことです。しかし、相続の過程で情報整理が十分に行われず大きな資産が埋もれた結果、手続きに行き詰まる家族がいるのも事実です――。
※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当て、一部脚色を加えて記事化しています。
遺産は「自宅と1口座だけ」?…あっさり進んだ遺産分割
事のはじまりは5年前、Aさんの伯父であるBさんが亡くなったことでした(享年81)。伯父夫婦には子どもがいなかったため、法定相続人はBさんの妻のCさんと、離れて暮らすBさんの妹・Dさん(Aさんの母)の2人となりました。
CさんはBさんの生前、財産管理はすべて夫に任せきりでした。Cさん自身、高齢なこともあり、複雑な相続手続きを前に、なにから手をつけていいかわからない状態に。一方でDさんも、兄夫婦と会うのは冠婚葬祭のときが中心で、それほど深い交流があったわけではありません。「兄の奥さんであるCさんが手続きを進めてくれているだろう」「Cさんがいっている財産がすべてだろう」そんなふうに、「思い込み」と「遠慮」がありました。
また、Dさんの息子であるAさんも、そんな母のことを気にかけてはいたものの、直接の当事者ではないため、なんとなく見守るだけで深入りはしませんでした。
結果として、徹底的な財産調査は行われることなく、夫婦が住んでいた自宅と、Bさんが生活口座として使っていた1つの預金口座のみが「Bさんの遺産」として扱われ、遺産分割はあっさり終了しました。
タンスの奥から出てきた「2,000万円」の通帳
それから5年が経過し、今度はBさんの妻・Cさんが亡くなりました。直接の血縁はないものの、子どものいない夫婦の甥として、生前から暮らしのサポートをしていたAさん。遺品整理のために自宅の片付けをしていたところ、古いタンスの奥から見覚えのない「1冊の通帳」が出てきました。
名義人の欄には、伯父Bさんの名前が書かれています。恐る恐るページを開いたAさんは、そこに刻まれた数字に目を疑いました。残高はなんと2,000万円。想像もしなかった大金です。
BさんとCさんのあいだでは「どの銀行にいくら預けているか」といった情報共有はなされておらず、Cさんもこの通帳の存在を知らぬまま5年間を過ごしたようです。
妻は逝去、妹は認知症…甥が直面した「遺産相続」の八方塞がり
数千円であれば「まあいいか」と諦めることもできるでしょう。しかし、2,000万円ともなると、そう簡単に引き下がれる金額ではありません。Aさんはなんとか相続手続きをやり直そうと動きはじめましたが、ここで難題が立ちはだかります。
まず、伯父Bさんの相続人であるDさん(Aさんの母)は、すでに老人ホームに入所しており、認知症の症状が進み手続きを単独で行える状態ではありません。さらに、もう一人の相続人であるCさんはすでに他界しています。そのため、Cさんの法定相続人であるCさんの兄弟姉妹に連絡を取り、協力を仰ぐ必要が出てきました。
しかしAさんにとって、義理の叔母Cさんの兄弟姉妹は、過去に会ったかどうかも定かではないほど縁遠い存在です。また、みな高齢となり、連絡を取れたところできちんと話ができるかどうかわかりません。手続きは難航し、2,000万円の預金に関する手続きは一向に進まないまま、時間だけが過ぎていきました。
相続の混乱を避け、遺族の負担を軽くする「生前準備」
「お金の話は卑しいもの。他人が踏み込むべきではない」という思い込みから、自身の財産を家族にすら内緒にしている人は少なくありません。
その気持ちは理解できますが、そのまま放置しておくといざ万が一のことが起きた際、遺族が故人の財産の全貌をまったく把握できないという状況に陥ります。特に、細かな手続きを進めるのが難しくなる高齢の遺族の場合、より事態は深刻になります。
こうした事態を避けるためには、万が一の際に確認すべき情報をまとめたメモを作成したり、大切な書類の保管場所を事前に共有したりしておくようにしましょう。
また、実務では令和7年4月1日から「口座管理法」に基づく新たな制度が始まりました。事前に金融機関やマイナポータルを通じてマイナンバーを銀行口座に紐付け(付番)しておけば、相続人が故人の口座情報を一括して照会できる仕組みです。こうした対策をとるだけでも、今回の事例のような悲劇を防ぐことができます。
いま、この瞬間にも休眠口座は増え続けています。せっかく準備した大切な資金を次世代へ確実に託したいのであれば、いますぐ財産を整理する生前準備をはじめてみてはいかがでしょうか。
森 拓哉
株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン
代表取締役

