食べている間だけはショックな気持ちを忘れられた…<過食嘔吐>に苦しむわが子との接し方とは。元当事者「『否定の言葉』は使わないで。子どもを注意したいときは…」
東京都福祉局のデータによると、全国の摂食障害の外来患者は約21万人と推計され、女性や若年層に圧倒的に多くみられるそうです。そんな中、摂食障害に苦しんできた元当事者であり、その経験を活かして摂食障害に悩むご本人やお母さんたちの心のケアにあたっている公認心理師・大橋とも先生は「むちゃ食いする・食べ吐きする・食事を食べない。それは『わがまま』ではなく『心の病気』です」と語ります。そこで今回は大橋先生の著書『わが子が摂食障害になったら読む本』より一部を抜粋し、回復へと至る道筋と、お子さんとの温かなコミュニケーションが復活するノウハウをお届けします。
【書影】子どもの「治りたい」気持ちを引き出す言葉がけをロールプレイで習得。大橋とも、松本功『わが子が摂食障害になったら読む本』
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子どもの気持ち「私はダメな存在」
中学1年から7年間、摂食障害を抱えて過ごしたという女性とお話したときのことです。拒食、過食、過食嘔吐を行ったり来たりしたという彼女は、こんなことを言いました。
「過食嘔吐が一番やめられない。拒食に戻りたい」
大量に食べることで一瞬だけ気持ちが落ち着き、ストレスから解放されます。その後に襲ってくる「食べ過ぎた罪悪感」や「太ることへの強烈な恐怖」も、吐いてしまえばリセットできました。
でも、「過食嘔吐していることは恥ずかしい。だから、友だちにも彼氏にも絶対に知られたくない」ときっぱり言ったのです。
拒食の場合、「痩せている体型」や「食べる量や体重をコントロールできること」に達成感があり、一時的に自己肯定感が高くなる傾向があります。
反対に、過食や過食嘔吐では、自分の食べ方や体型を「恥ずかしい」と思っていることが多く自己肯定感が非常に低い状態にあります。拒食と過食では正反対に見えますが、根本に「ありのままの自分に自信がもてない」ことが共通しています。だからこそ、摂食障害のお子さんにかける言葉は慎重に選ばなくてはなりません。
繊細なお子さんは、周囲からのささいな一言や、何気ない表情一つで心が深く傷つき、その後、長く心を閉ざしてしまうことがあるのです。
軽い注意の言葉が強い否定として受けとられる
Bさんは中学3年生。1年前に、拒食から低体重になりました。学校には通えなくなり、家で毎日過ごしています。
夏休み前に進路希望調査がありました。Bさんは小さい頃から絵を描くことが好きで、美術部のある高校に行きたいと思っていました。今は学校には通えないけど、好きな絵が描けるなら高校には通える気がする。私が外に出られるようになれば、両親もきっと喜ぶはず。
ところが、そんな気持ちを両親に伝えると、意外な返事が返ってきました。両親は、美術部のある高校は遠方のため、今のBさんの体力ではまた通えなくなってしまう、というのです。
「通信制の高校に行きなさい。絵なんて家で描けばいいじゃない」
両親は両親でBさんの体調面を心配してのことだったのですが、自分なりの人生設計が崩されてしまったBさんは納得できません。進学先を勝手に決められてしまったことも納得がいかないし、絵を描きたい、という大事な気持ちをないがしろにされたようで、腹立たしい思いもありました。
二学期に入ると周囲は進路を決めて準備を始めているのに、白紙状態のBさんは焦りを募らせていきます。それなのに、以前と変わらない両親の様子に、わだかまりは膨らんでいきました。
ある日、Bさんは自分の想いをわかってもらうために、今まで描いてきた絵を両親に見せました。すると、父親は厳しい表情でこう言ったのです。
「いつまでそんなことしてるんだ。学校に行かないなら、バイトでもしたらどうなんだ。社会はそんなに甘くないんだぞ」
Bさんはショックを受けると同時に、感じたことのない空腹感が襲ってきました。
食べている間だけは忘れられた
ふと台所を見ると、菓子パンが目に入りました。いつもなら、糖質制限をしていたので、決して口にすることはなかったのですが、この日に限っては、すごくおいしそうに見えました。恐る恐る袋を開け、菓子パンを一口食べると、口のなかが甘さでいっぱいになりました。あっという間に菓子パンを食べ終えると、「もっと! もっと食べたい!」と今まで抑えていた食欲が爆発し、家にあったお菓子も猛烈な勢いで食べ始めました。
食べている間だけは、父親から言われた言葉もショックな気持ちも忘れられたのです。「こんなに食べちゃった」と罪悪感に襲われたBさんは「明日からはやめよう」と思いました。しかし、それからというもの、何かにとりつかれたかのように食べ続けることがやめられなくなっていきました。

<『わが子が摂食障害になったら読む本』より イラスト:しゅんぶん>
過食をするのも体力を使うため、食べ終わった後は、しばらく動くことができません。菓子パンやお菓子のゴミや食べかすが部屋に散乱したまま、Bさんがぼーっとしているのを、たまたま部屋にやってきた母親に目撃されてしまいます。母親はBさんの姿に顔をしかめて言いました。
「なに、そんなに食べ散らかして! みっともない」
母親は「部屋が汚れている」という意味で言ったつもりです。しかし、Bさんの心にはこんな風に届いたのです。
――あなたはみっともない――
ほどなく、Bさんが食べる菓子パンの量は3個から5個となり、5個となったときから食べ吐きも始まったのでした。
否定の言葉は使わず、注意したいときは「要望」として伝える
過食や過食嘔吐を抱える人は、「人に知られたくない」と隠そうとします。だから、過食の最中やその痕跡を見られるということは、とてつもなく恥ずかしくダメージが大きいのですが、さらに否定的な(とBさんが感じた)言葉をかけられたことで、ダメージはより深く大きなものとなりました。
どんな状況でも、例えばお子さんにひどく腹が立ったときでも「あなたはダメね」「こんなに食べるのはおかしい」といった直接的な否定の表現は、使わないようにしてください。
とくに慎重になってほしいのが、本人の振る舞いを注意するときです。Bさんの場合は「食べ散らかして、みっともない」でした。食べることだけでなく、例えば「服を脱ぎっぱなしはみっともない」「お風呂に入らないのはだらしない」などと伝えるときも、言い方に工夫が必要です。
本人自身を否定しているのではないのですが、自己肯定感が落ちているお子さんは「私の存在がみっともない」「私はだらしないから生きる価値がない」と受けとめ、ひどく傷ついてしまうことがあるからです。
注意するときは、どう伝える?
では、振る舞いや服装を注意するときは、どう伝えればいいのでしょうか?
まず、お母さんの「要望」として伝える方法があります。
×服の脱ぎっぱなしはみっともない
お母さんは、脱いだ服は洗濯かごに入れてほしいな
×お風呂に入らないのはだらしない
お母さんは、お風呂に入るとさっぱりすると思うよ
Bさんのケースなら「提案」を使ってもいいでしょう。
×なに、そんなに食べ散らかして、みっともない
食べるのが止まらなくて苦しそうだけど、お母さんにしてほしいことはある?
お子さんの状態を指摘するのではなく、「お母さんはこう思う」「お母さんはこうしてほしい」と伝えたり、「お母さんにしてほしいことがある?」と尋ねたりすることで、お子さんの安心感を増やすことができます。やがて、些細な言葉が突き刺さり、傷つくことが日常だったお子さんの緊張も、ほどけていきます。お子さんが落ち着くほど、過食や拒食の症状も穏やかになっていきます(これは「Iメッセージ」という手法です。)。
お母さんへ
「あなたはダメ」「あなたはおかしい」と直接的な否定や指摘はしない。
振る舞いや生活態度について話すときは、「お母さんはこう思う」と伝える。
過食や過食嘔吐を知られたくないという気持ちを尊重する。
※本稿は、『わが子が摂食障害になったら読む本』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

