岸和田に、なぜ貴重な動物の剥製が…?ワンダーランド「剥製の館」をご存じですか

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岸和田といえば、揃いの法被(はっぴ)に股引(またびき)を身につけた男達が、重さ約4トンのだんじりを引き回す、勇壮で豪快なだんじり祭の街として知られている。その岸和田市の旧市(きゅうし)と呼ばれる住宅街の一角にあるのが、きしわだ自然資料館だ。この資料館が、想像以上のお宝に満ち溢れている。地方の資料館と侮るなかれ。岸和田のワンダーランド、きしわだ自然資料館へようこそ。

なぜ岸和田に、貴重な動物の剥製が?

岸和田は、岸和田城を中心とする古い街並みが残る城下町だ。大正・昭和初期には紡績業が発展した。ユニチカの前身の一つが岸和田紡績株式会社で、2代目社長・寺田甚吉が1932(昭和7)年に造った近世スパニッシュ風の建物・自泉会館(設計:渡辺節)も残っている。また、NHKの朝ドラナンバー1の呼び声も高い、2011(平成23)年度後期に放送された連続テレビ小説『カーネーション』の舞台となった街でもある。

きしわだ自然資料館は、1995(平成7)年にオープン。岸和田を中心とした大阪南部の自然を学べる博物館として誕生した。しかし、この資料館は、そんじょそこらの資料館ではない。

同館の3階にはライオンやトラ、ヒョウやウンピョウといったネコ科の猛獣類の他、ホッキョクグマやオオカミ、クジャクやキジなど様々な動物の剥製(はくせい)が展示されている。中には、オカピやキンシコウなど希少動物の剥製も並んでいる。岸和田の自然と、どう関係しているんやろう。

「これらの剥製は元々、東洋剥製博物館にあったものなんです。市が寄贈を受け、現在はこちらに展示しています」(きしわだ自然資料館学芸員・風間美穂さん)

東洋剥製博物館とは?

東洋剥製博物館とは、かつてきしわだ自然資料館の近く、岸和田市北町にあった私設博物館のことだ。館長である蕎原文吉(そばはら・ぶんきち)氏の自宅、間口2間ほどの古い商家の1階と2階に所狭しと剥製が並べられていたという。

「昭和50年ごろにはあったと聞いています。私も見に行ったことがありますが、ものすごい印象的やったのが、入口に沢山のタヌキが法被を着て、いろんなポーズを取って、だんじりを曳(ひ)いてたんです。丸椅子がゾウの脚の剥製やったり、法被を着たパンダの剥製があったり」(風間さん)

単なる酔狂で、蕎原氏は剥製を集めていた訳ではない。そこには深い思いがあった。

戦時中2度召集され、7年もの間、中国を転戦した蕎原氏。3度目、もし召集されたら今度こそ死ぬ、と覚悟した時に敗戦を迎えた。

それで、戦争で亡くなった兵隊さんを供養する寺を造ろう! と思いついた。終戦まもない頃は、国内でも身寄りのない死体がうち捨てられていることが多かったので、それらを引き取って供養することができたら、と思ったらしい。

仕事もなるべくホトケに関連したものにしたいと、葬儀の贈答品の会社を設立。お清め用の塩を「なみの花」と命名して売り出すと大ヒット。事業経営も安定したところで、寺創建に着手しようと思った際、「資金作りのために剥製を収集し、博物館を建てよう!」と閃(ひらめ)いたのだそうだ。

かくして、蕎原氏は剥製の収集を始めた。その多くは、甲子園阪神パークにいた雄ヒョウと雌ライオンを交配させて生まれたレオポンを剥製にした名人・須川常美(すがわ・つねみ)氏から購入したもので、前出のようにトラやライオンなどの他、パンダやオカピ、キンシコウなど希少動物も多い。

これらの剥製の多くが、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関するワシントン条約が成立する前の1960年代以前に収集されたもので、今となってはどうやっても手に入れることができないものばかり。つまり蕎原コレクションは、マニア垂涎(すいぜん)の超お宝コレクションなのだ。

こうして誕生した東洋剥製博物館だが寺院創建には至らず、蕎原氏が高齢になったこと等もあり、コレクションのほとんどは岸和田市に寄贈されることとなった。

現在、きしわだ自然資料館3階にある剥製は、東洋剥製博物館にあった「誇張したポーズ」をした剥製を外し、来歴由来がはっきりしているものなど300点弱を展示している。

…だんじりを曳くタヌキや法被を着たパンダも見たかったけどなぁ…。

魅力は剥製だけではない

蕎原コレクションの印象が強いきしわだ自然資料館だが、魅力はそれだけではない。同館では体験型講座も多く開催していて、中でも中学校の理科の教科書でも紹介され、今や全国的な人気となっている「チリメンモンスター」発祥の博物館としても知られている。

「チリメンモンスター」とは、同館を中心に活動するきしわだ自然友の会の渡辺克典さんが命名した、ちりめんじゃこに混ざるエビやタコ、イカなどの小さな生き物を指す。これらをちりめんじゃこから探し出すことで、海の生き物の多様性や環境等を知り、学びを提供する。2004(平成16)年から始まったこの体験型学習は、開催する度に好評を博し、ついには絵本にもなった。

偕成社から出版された『チリメンモンスターをさがせ!』(2009(平成21)年発売)は、全国学校図書館協議会・選定図書、日本図書館協会選定図書に選ばれ、現在までに約5万2000部を刊行。続いて『チリメンモンスターのひみつ』『チリモン図鑑カード100』(いずれも偕成社)が発売され、それぞれ約1万部を売り上げている。出版不況と言われる中、すごいやん!

地域の人々が創る資料館

地方の箱物と呼ばれる市民会館や博物館等は地域密着、地域への貢献が理念として掲げられるが、掛け声で終わってしまうことが多いのではないだろうか。ところが、きしわだ自然資料館は、文字通り「地域の人が創る資料館」として存在している。というのも、市民のみならず全国の利用者が直接資料館に持ち込んだものが、沢山展示されているからだ。

「『みんなで育て、みんなで楽しむミュージアム』がうちのコンセプトなんですが、ほんまにそうで、地域の皆さんが何やかんやいっぱい持ってきてくれるんですよ。子どもさんが持ってきてくれた箱を覗いたら、スッポンが動いてたとか(笑)。

1階には水槽が並んでいますが、これは開館初日に学校の先生がタウナギを捕まえて持ってきてくれて、なら、展示しよかということになり、次第に水槽が増えました。今はヒキガエルやマホロバサンショウウオなど淡水で暮らす生物の他アナゴやヒトデ、海の宝石と呼ばれるウミウシなど近海で暮らす生き物を展示しています。

2階は岸和田市を中心とした大阪南部・泉州地域の自然を標本や化石、模型やジオラマで紹介していますが、市民の方が持ってきてくれたものも多く展示しています」(風間さん)

この辺りの地質は恐竜時代である白亜紀にあたる和泉層群、北京原人がいた時代と重なる大阪層群など様々な時代の地質が表出していることもあり、化石もよく見つかる。アーケオプス(カニの化石)やニッポニティス(巻き貝の化石)、岸和田城の石垣が大雨で崩落した際に見つかったコダイアマモの化石、植物の化石なども市民や利用者が発見し、資料館に持ってきてくれたものだ。1994(平成6)年には市内で下水道工事をしていたところ、約70万年前のマチカネワニの一種・キシワダワニの化石が出土し、同館に展示された。

また、岸和田市の隣、貝塚市で発見されたモササウルス類は当時、岸和田市在住の小学生・宮内和也さんが研究対象とし、日本地質学会や日本学生科学賞でも大きな賞を受賞したことから、モササウルスの復元標本や研究成果の展示もある。

他にも、メジロやカラス、キツツキやリスの巣や、マムシの死骸やタカチホヘビなど市民が持ってきたものを展示するコーナー「発見BOX」もある。発見カードには、発見日や場所、発見者名、当時の様子が自筆で書かれていてほほえましい。これほど地域に根ざした自然資料館があるやろか。いや、そうないでしょ、ほんまに。

キッチュな剥製コレクションと市民が自ら持ち寄ったコレクション。一粒で2度美味しいきしわだ自然資料館は、だんじり祭、岸和田城に勝るとも劣らない魅力がある。是非とも行ってみてほしい。

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