かつて日本の夏の風物詩とまで言われ、現在は自衛隊の部内教育の貴重な機会の一つとなった「陸上自衛隊 富士総合火力演習」、略して総火演、その季節となった。

【写真多数】新型AMVが初登場! 不肖・宮嶋が密着撮した現場写真を一気に見る(全33枚)


撮影=宮嶋茂樹

 小は小銃から大は155mm砲やミサイルまで使用した国内最大の実弾射撃演習、それが総火演である。抽選で一般市民を招き、一般公開していた頃は、その入場券はプラチナ・チケットと言われるほど大人気であった。

 しかし、2020年からのコロナ禍をきっかけに、その一般公開は中止されている。自衛隊には数万人もの一般市民を仕切り、安心安全なプログラムを組む余裕がもはやないのが実情であろう。今後も部内教育を主体とした内容で演習を続け、一般公開も再開する予定がないという。

国境警備の現場は逼迫している

 部内教育というても、まずは参加部隊の練度維持が最優先。そして各教育隊の新人隊員や防衛大学校の学生、陸上自衛隊高等工科学校(前少年工科学校)の生徒、さらに入隊希望者やその家族なども観客席に招いて、様々な職種や自衛隊への理解を深めてもらう目的もある。

 きっかけこそコロナ禍だが、自衛隊が総火演の一般公開をやめた背景には、日本を取り巻く安全保障環境の悪化がある。国境警備や警戒監視活動に追われる現場は、一般公開はおろか、総火演の開催自体に苦慮するほど逼迫しているのである。

 同じ理由で陸上自衛隊は観閲式を、海上自衛隊は観艦式を、そして航空自衛隊も航空観閲式を中止した。観艦式や観閲式は部隊を全国から集める必要があり、それだけで自衛隊は体力を消耗してしまう。それは国防をおろそかにすることに繋がってしまうのである。

エンタメ性あふれる演出が消えた

 総火演も観閲式も観艦式も、一般公開をやっていたときはすごかった。本番・予行演習と毎回数万人を、駅などから最寄りの駐車場や港などまで大型バスでピストン移送。もう、それだけで沿道には数百人もの自衛隊員を交通整理のために配さなければならない。極めつけは、その数万人を駐車場から会場の東富士演習場へ渡すため、施設部隊が静岡県道157号線に臨時橋まで架けていたのである。

 スタンドの下には自衛隊グッズを売る土産物屋や弁当屋がズラリ、どの店にも長蛇の列ができていたものである。我々カメラマンも場所どりの競り合いがあり、まだ夜も明けきらん午前5時には駆けつけていなければならなかったほどである。

 およそ30倍以上の競争率を突破し、プラチナ・チケットを手にしたのは、まさに老若男女さまざまな人々。熱心なミリタリーファンもいれば、耳をつんざく突然の砲声や衝撃波に泣き出すちびっこもいた。

 そのため、エンターテイメント性を帯びたプログラムを組まざるをえず、その最たるものが、様々な砲台からの各種火砲の砲弾の曳火射撃(砲弾を空中で破裂させるために信管を調整しなければならない)で富士山の裾野上空に富士の姿を描くという、無茶苦茶高度な射撃技術と正確なチームワークが必要だが実戦にはさっぱり役に立たない射撃であった。その光景も、一般公開をやめてからは見られなくなった。

観客席から拍手で迎えられたのは…

 そんな総火演に不肖・宮嶋が通うようになって三十有余年、変わったのは開催時期や一般公開の有無ばかりでない。最も大きな違いは、この総火演の主催者とも言える防衛大臣の顔である。

 今年、拍手と歓声とともに観客席から迎えられたのは、華奢な体を「ファイブ・スターズ」の大臣エンブレム付きのフライト・ジャケットに迷彩ポンチョという完全武装で固めた、小泉進次郎現防衛相であった。

 本演習前の「大臣訓示」では「自らが諸君の先頭に立ち」「自衛官とその家族を守る」と二度強調。また後日、アジア安全保障会議の場で「新型軍国主義」などという新たな造語で執拗に日本を貶めようとした中国を念頭に「どの口が言うとんのや」といった趣旨の言葉を浴びせ、強烈な皮肉をかましてくれた。

 それに、変わったのは大臣の顔ぶれだけやないで。現在も続くロシア軍によるウクライナ侵攻、それに対するウクライナによる首都モスクワにまで迫るドローン攻撃、さらについ最近までのホルムズ海峡を挟んでのイラン革命防衛隊と米国・イスラエル軍のミサイル応酬等々の「実戦」を見ても明らかなように、紛争もテロも無くなるどころか増える一方、そして「戦争」の形態も大きく変わった。

空でも陸でも無人化・省人化が進む

 自衛隊もそれに合わせ、戦術や装備を変化・充実させてきた。総火演に登場する装備やプログラムも30年前とはほとんど別物と言っていいほど激変したのを、不肖・宮嶋は愛機のレンズを通してこの目でつぶさに見てきたのである。

 その「変化」の最大の特徴は「無人」「省人」であろう。

 昨年も登場したUAV(ドローン)は「スカイレンジャー」などの「偵察型」に加えて、広報撮影用の無人機もそこら中に現れた。AH-1Sヘリ・通称「コブラ」や、ティルト・ローター機のV-22・通称「オスプレイ」の合間を縫うようにUAVがブンブン飛び回るのは、もはや演習場の日常となった。

 空だけではない。今年の総火演はUGV(無人地上車両)も登場した。

 今年の初めに千葉県習志野演習場で開催された「空挺降下訓練始め」で初公開された、4本足歩行犬型ロボットがオペレーターを「引き連れ」、観客席の間から現れたのである。この4本足歩行犬型ロボットも、場内アナウンスではUGVと紹介された。

 それだけでなく、装輪型(タイヤ履き)と装軌型(キャタピラ)、さらに「偵察型」「輸送型」「攻撃型」各1両ずつ計6台のUGVが、雨をたっぷり含んだ東富士演習場の泥地の上を難なく、衝突することもなく走り回るのである。

 側面にはエストニアの軍需産業の「ミルレム・ロボティクス社」のエンブレムが描かれていた。これが、ウクライナでロシア軍を震え上がらせた「テミス」であろう。

 もう1社はカナダのラインメタル社の「ミッション・マスターSP」に違いない。いずれも現在は陸上自衛隊富士学校が保有し、研究開発が続けられている。さすがにUGVによる完全自動の実弾射撃はまだ安全上の不安があるのか、実施されなかったが、ウクライナではすでに、このUGVが様々なタイプにカスタマイズされ、地雷原や最前線ではウクライナ兵の先頭に立ち、危険な任務を担っている。

無人砲塔からの機関銃射撃が見事命中

 さらに、今回初めて実弾射撃を披露したフィンランドのパトリア社開発のAMV(新型装輪装甲車)も登場。車体上部の無人砲塔からRWS(リモート・ウェポン・システム)という装甲車内からの遠隔操作により、走行時にもかかわらず12.7mm重機関銃の射撃を実施し、見事目標に命中させていた。

 あのSF映画の金字塔となった「エイリアン II」の「完全版」には、次々湧いて出てくる凶暴なエイリアンに自動照準で機関銃弾をバラバラ浴びせバラバラにしていく「セントリー・ガン」なる兵器が2基登場していた。そんなSF映画の世界が現実になりつつあるのである。いや、すでにウクライナでは実戦に使用されているのである。

安価で高性能なドローンの国内開発・製造が急務

 今年の総火演ではそんな日々進化し続けるドローンをSMASHという光学機器を装着した20式小銃や5.56mm機関銃で実際撃墜する射撃や、ウクライナでの「実戦」で見直された、第1次大戦時の塹壕戦を彷彿とさせるような白兵戦闘も公開された。

 来年の総火演には、敵のドローンを迎撃するためのドローンが公開されるかもしれぬ。武器の性能がより進化し、その使用目的が多様になれば、それに対抗する装備も次々と出てくる。それが「矛と盾」の時代から変わらぬ、人間の性なのである。まあ総火演が来年も開催されればええんやが……。

 そんなUGVに加え、射程距離が長すぎるため、東富士演習場どころか日本国内でさえ実弾射撃が実施できない、スタンド・オフ・ミサイルも紹介された。

 その射程距離たるや千キロ以上と言われる12式地対艦誘導弾の能力向上型や、25式高速滑空弾のランチャー(発射機)も公開。敵の射程外からも敵基地攻撃が可能になる、いわゆるスタンド・オフ・ミサイルの配備が進めば、敵侵略からの抑止力には役立つであろう。

 だが、いかんせん、高価である。やはりより安価で高性能なドローンの国内開発、製造は急務であろう。

富士総合火力演習から姿を消した装備

 さて、UAVやUGVと違い、逆にあまり姿を見せなくなった装備もある。今回は、それが10式戦車であった。

 小泉防衛相も演習前の大臣訓示で「今年4月21日、大分県日出生台(ひじゅうだい)演習場で発生した10式戦車砲塔内での砲弾暴発で3名の自衛官が殉職された事故原因を究明するのが急務である」と述べた通り、それが判明するまでは「自衛官自身の命、安全を守る」ためにも実弾射撃を中止せざるをえないのである。

 今回の総火演でも後段演習のフィナーレで3両の10式戦車が走り抜けていっただけで、1発の実弾射撃もなかった。というより、不肖・宮嶋もその存在に気づかなかったくらいである。

 また事故原因と関係あるかどうかは分らんが、10式戦車と同じ120mm滑空砲を装備する90式戦車は、今回の総火演では炸薬のない「訓練弾」が射撃された。 

 今年5月、やはり小泉防衛相が視察したフィリピン・ルソン島北西部の北イロコス州で行われた陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾の「実弾射撃」訓練では、ミサイルに炸薬を詰めた弾頭を搭載した「実弾」が使用されている。その一方、この「炸薬無し」とはあまり聞き慣れないが、実は約1年前の北海道、新ひだか町の静内対空射撃場で行われた国内初の88式地対艦誘導弾の「実弾射撃」訓練でも、炸薬のない「訓練弾」が使用されている。

 さらに標的も実物ではなく、曳航された小型ボートの上空に電波を発し、レーダー上にのみ出現させた架空の目標。そのため、命中判定も標的ボートの上空を通過したことをもって行われたのである。

 これまた「架空」の話で恐縮やが、スタジオジブリの長編アニメ『天空の城ラピュタ』では、悪漢が人質にとったヒロインを傷つけないよう「信管を抜いた」砲弾を使用するシーンがある。あれもまあ「炸薬無し」同様、砲弾を爆発させない処置である。

 映画では、ロボット兵に命中した砲弾は爆発せず、強い衝撃だけ与え、無力化させている。実際の世界でも、射撃時の衝撃波や熱風、轟音こそ「実弾射撃」と全く変わらなかったが、着弾しても炸薬がないので爆発も起こらず、砂煙がパッと舞い上がっただけであった。

 そんな戦車の実動部隊が本州からいなくなり、しばらく経つ。その姿を、しかもその実弾射撃が見れるのは、ここ富士の総火演だけという貴重な機会やったのである。

熱い視線が送られる16式機動戦闘車

 しかし、そんな「陸の王者」戦車の地位に取って代わり、ブイブイ言わせるようになったのが、16(ヒトロク)式MCV(機動戦闘車)であった。

 10式、90式戦車より若干火力の小さい105mmライフル砲を主砲に備えながら、10式戦車より18トンも軽い車体を8輪のタイヤが支え、舗装路なら時速100km以上で走れる。実際、この16式MCVは首都高を一般車両と一緒に走ったこともある。

 そんな16式MCVは、雨をたっぷり含んだ泥地の演習場でも難なく走行。それと同時に、10式戦車にも搭載されている、敵情報まで友軍同士で共有できるという10(ヒトマル)ネットワークや、前進後進・スラローム走行中でも、どんな車体姿勢からでも目標をロックオン(照準)し続けられる優秀な射撃管制装置を駆使して、一斉射撃時に全弾命中を成功させたのである。

 この16式MCVには本総火演に武官を視察派遣させた外国軍も熱い視線を送り、フィリピン軍はすでに「輸入」に向けて交渉のテーブルに乗せているのではないかと期待されている。

 しかし、かようなMCVはじめ有人兵器も、いつまで見られることやら……。ドローンやロボットの開発に血まなこになっている中国が武器を携えた2本足歩行ロボットを、台湾や我が国・沖縄県尖閣諸島に送り込んでくるのは、さほど遠い未来の話でもなかろう。

ドローンの数と性能とオペレーターの優劣が戦況を左右する時代

 そんなロボットを自衛隊のUGVが迎撃するようになれば、機械同士が戦い合い、その優劣が戦況を左右するようになる。

 いや、現在のウクライナ軍とロシア軍の戦いを見れば、とっくにそういう時代になっていることを認めざるをえない。もはや将兵の練度よりドローンの数と性能とオペレーターの優劣が戦況を左右しているのである。

 我が国もドローンの開発に合わせた、優秀なオペレーターの育成が急務であろう。充分な数のドローンと優秀なオペレーターを配備するまで、何も起きなければええのやが……。

 総火演のような実弾射撃演習が役立つようになる事態がいつ訪れぬとも限らぬ。我が国を取り巻く安全保障環境がこれ以上厳しくなれば、自衛隊は総火演すら開催する余裕がなくなるであろう。

 総火演はそういう意味では日本が「まだ」平和を保てている証左とも言えようが、来年も見られる保証はあるのであろうか。

 なんとか、不肖・宮嶋の目の黒いうちは、いやこのままずっと、総火演は続けていただきたいもんである。敵の砲弾が空から降り注ぎ、沖縄には敵上陸部隊が大挙して上陸しだし、自衛隊が総火演で使用したような武器で迎撃……なんて現場は見たくないもんである。そのための日頃の訓練と防衛装備の充実である。

撮影=宮嶋茂樹

(宮嶋 茂樹)