山形放送

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シリーズ「時を越えて」です。“最後の農民詩人”と呼ばれ、詩人として日本最高峰の「先達詩人」にも選ばれた山形県上山市の木村迪夫さん。16日、90年の生涯を閉じました。作品で訴え続けた農民としての思い、そして、反戦への思いを振り返ります。

木村迪夫さん。農業を営みながら70年以上、詩を創作し、“最後の農民詩人”と呼ばれました。

県詩人会・久野雅幸事務局長「農民の声なき声を代弁し、日本の農民文学に、そして日本の現代詩の歴史に、骨太の確かな足跡を残しました」

農民・菅野芳秀さん「迪夫さんの存在は我々抵抗する百姓にとっても大きな柱であり、精神的拠り所でありました」

生涯で17冊の詩集を出し、日本の詩人として最高の評価とされる「先達詩人」に選ばれ、県人で3人目の快挙を果たしました。

詩人・高橋英司さん「人間として温かみがある人」

木村さんの孫・園部志歩さん「強い想いを内に秘めていることは詩を見て気付かされた」

綴り続けたテーマは“農村”。そしてー

木村さんの長女・園部裕子さん「詩の中身で訴えてきた、争いのない、戦争で大事な人を失うことのない世界に対する想いは繋いでいきたいと思っている」

木村さんの詩『祈りの大地』朗読「おれの声が聴こえるか」「この叫ぶ声があなたの耳もとにとどいたか」

木村迪夫さん(2015年)「おやじよ 会いに来たぞ、聴こえるか」

迪夫さんは、太平洋戦争で父を失います。生涯、反戦をテーマにした詩を作り続けました。

迪夫さん『祖母のうた』朗読「にほんのひのまるなだてあかい かえらぬおらがむすこのちであかい」

木村迪夫さんは1935年、現在の上山市牧野で小作農の長男として生まれました。当時は満州事変に始まり、日中戦争、太平洋戦争へと続く最中。迪夫さんの父は三度、中国戦線に送り込まれました。そして1946年(昭和21年)、迪夫さんが10歳の頃。

木村迪夫さん(当時79)「うちのばあちゃんは『おらの文左ェ門(迪夫さんの父)は、おらの文左ェ門は帰ってくるんだか』と(帰ってきた父の戦友に)何度も聞くわけです。しかし、(戦友は)疲れ切った表情でずっと下を向いて沈黙を貫いておったけどもその様子を見て、あぁ、うちのおやじは死んだんだ、と。土間にひれ伏して泣いたな…」

迪夫さんは、叔父も太平洋戦争で失いました。戦後、残されたのは年老いた祖母と若い母、それに、長男の迪夫さんら5人の子どもたちでした。2人の息子を失った祖母は歌を作り、働きながら毎日歌いました。

迪夫さん『祖母のうた』朗読「出征軍人はいくさの門出にははつまよんで わしのいねあどこのこたいせつに もしもせんそうにでたとのしらせきいたとてなくな なだてなきましょ わしもあなたのははじゃもの みくにのおんためすすみゆけ のこるこのこはいとわねど のこるははつまみのほまれ なんのいんがかいくさのたたりみせもの家になりました にほんのひのまるなだてあかい かえらぬおらがむすこのちであかい」

男手を失った木村家は貧しく、迪夫さんは一家の稼ぎ手として農業をしながら定時制の農業高校に通います。そして、同級生の影響で詩を書き始めました。

詩『百姓』朗読「お前は百姓だ 何も知らない百姓だ 何も見えない百姓だ 俺もやっぱり人間だったよ しゃべればしゃべれる人間だったとわかったよ これからは何んでも知っている百姓!何んでもしゃべれる百姓!何んでもみえる百姓におれはなるよ」

迪夫さんは24歳で妻・シゲ子さんと結婚。2人の娘を授かります。一方、農業だけでは生活が成り立たず、冬の5か月間出稼ぎをしたり、ごみ収集業を立ち上げたりして家族を養いました。

長女・園部裕子さん「村の青年団とか役員とかで会合が多かった。父が夕食のときに家にいるのはその頃なかった。いるとかえって窮屈な感じ」

また、迪夫さんは牧野村を活気づけたいと、ドキュメンタリー映画監督・小川紳介さんを上山市に呼び寄せます。その流れはやがて「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の創設へと繋がりました。

木村迪夫さん(2015年)「さすがの北京空港だな広いな」

2015年、迪夫さんは中国を訪れました。父が戦病死した場所が見つかったのです。5度目の訪中で、念願が叶いました。

木村迪夫さん「長かったな。おやじ、長かったな」

70年間思い続けた場所でした。

木村迪夫さん「おやじよ 会いに来たぞ、聴こえるか、70年ぶりに会いに来たぞ。(弟の)暉と会いに来たぞ、聴こえるか」

生前最後の詩集には、この時を振り返った詩が収められています。

木村迪夫さん『まぎの村へ帰ろう』朗読「いまわたしはあなたの面前に立っている 一緒に帰ろう 日本へ帰ろう 母親の眠るまぎの村へ 祖母が悲しみと怨念のうたをうたって逝った あなたには遠くなつかしいまぎの村へ 「迪男は百姓になれ」と遺言を残してくれたあなたの思いをまっとうした思いで 幻の父親であるあなたのその胸にとりすがって告げよう ふたたび戦争などないまぎの村の未来へ一緒に帰ろう」