内田梨瑚被告(本人のTikTokより)

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 検察側は論告で「残虐さは殺人事件の中でも突出している」と厳しく糾弾し、「無期懲役も充分考えられる」との見解すら明らかにした。だが、実際の求刑は懲役27年──。2024年4月、北海道旭川市にある神居大橋の欄干から当時17歳の女子高生を川に落下させ、死亡させるという事件が発生した。この事件で殺人罪や不同意わいせつ罪などに問われた内田梨瑚被告(23)の裁判員裁判で検察は懲役27年を求刑。極刑を望む世論が広まっていたこともあり、ネット上では「あり得ない」「甘すぎる」などの批判が殺到した。

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 元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏も「率直に言って、懲役27年という検察側の求刑に驚いています」と言う。

内田梨瑚被告(本人のTikTokより)

「非常に凄惨な事件であり、特に私が心を痛めたのは被害者の尊厳が文字通り踏みにじられた点です。被害者は全ての服を脱がされ、動画を撮影されると、土下座を強要された上、冷たい川に落とされました。さらに、ご遺体は約1カ月もの間、水中に放置されていたのです。こんなことが許されていいはずがありません。法廷では、ご遺族の『極刑しかあり得ません』という心情も明らかにされました。世論が『死刑に値する残虐な事件』と厳しく批判しているのも当然でしょう。しかしながら死刑の量刑基準を定めた“永山基準”や、過去の判例を踏まえれば死刑求刑は難しく、だからこそ検察は無期懲役を求刑するのではないかと考えていました」

 若狭弁護士は「有期刑を求刑するにしても、せめて懲役30年を求刑することは可能だったはずです」と続ける。

「では、なぜ検察は懲役27年を求刑したのか。私も検察官でしたから、事実認定を詰め切れなかったことを考慮したのだろうとは思います。共犯の小西優花受刑者は一貫して『内田被告が被害者を落とした』と主張してきました。しかし、その証言を裏付ける客観的な証拠は見つかりませんでした」

量刑のバランス

 小西受刑者が自身の裁判で「最後は内田被告が女子高生を落とした」と主張したことを、検察は「自分の罪を軽くしたいため」と厳しく批判した。

「それが内田被告の裁判になると、まるで手の平を返したように『小西受刑者は真実を述べています』と全面的に支持するわけにはいきません。一般的に検察側が事実認定を詰め切れなかった場合、量刑は軽くなる傾向があるのも事実です。とはいえ、注目すべきは小西受刑者の裁判で検察は懲役25年を求刑し、旭川地裁が懲役23年の判決を下したことです。これに対して内田被告への求刑は懲役27年でした。検察は論告で『小西受刑者との量刑バランスを考慮した』と説明しましたが、むしろバランスは悪いのではないでしょうか。内田被告が事件で中心的な役割を果たしたのは間違いありませんし、ご遺族も厳罰を求めています。にもかかわらず、小西受刑者の求刑や判決と、内田被告に対する求刑が数年しか変わらないという事実は、この点だけでも違和感を覚えます」(同・若狭弁護士)

「なぜ無期懲役を求刑しなかったのか」という疑問に、検察は論告で一応は答えた。女子高生の服を全て脱がし、川に落下させたという極めて残酷な犯行は「無期懲役も充分考えられる」と指摘したのは冒頭で触れた通りだ。

魂も殺された被害者

 しかし検察は、内田被告が殺人罪と不同意わいせつ罪に問われていることに触れ、「類似の事件で無期懲役と判断されたのは性的欲求を満たす目的があった場合であり、被害者に対する『制裁』が目的だった今回の事件では懲役27年が相当である」と法廷で説明した。

 これに若狭弁護士は「私は『性犯罪の厳罰化』を訴えて国政選挙に立候補し、2014年の衆議院選挙で初当選しました。法改正の議論にも関わってきましたので、強い思い入れがあります」と言う。

「2023年に『強制わいせつ罪』が『不同意わいせつ罪』に改正されました。かつての強制わいせつ罪は基本的に『男性が女性に対し性的欲求を満たす目的で及んだ犯行』と限定的に運用されることが多く、それが問題視されたからです。今回の事件では被害者の服を脱がし、動画を撮影するといった行為により、被害者の尊厳は踏みにじられました。これも紛れもない性暴力であり、こうした性暴力も罰することができるよう不同意わいせつ罪に改正したのです。性暴力を“魂の殺人”と表現することがあります。今回の事件で被害者は肉体的に殺されただけでなく、同時に魂も殺されたのです。まさに被害者は2回殺されたわけですから、殺人罪と不同意わいせつ罪を合わせて無期懲役という求刑も可能だったはずなのです」(同・若狭弁護士)

裁判員の自由な議論を阻害

 若狭弁護士は「法廷における検察側の不同意わいせつ罪に関する説明や認識は不勉強と言わざるを得ず、この点は猛省を求めたいと思います」と言う。

 その一方で、裁判所は検察の求刑とは関係なく、自由に判決を下すことができる。特に裁判員裁判は市井に暮らす人々の良識や常識を判決に反映させることを目的にしている。そこに希望を見出す世論も存在する。

「確かに検察が懲役27年を求刑しても、裁判所が無期懲役の判決を下すことは可能です。しかし裁判員の皆さんは、検察が有期刑を求刑したという事実を重く受け止めるのではないでしょうか。懲役27年を前提に議論を始めてしまっても不思議ではないと思います。やはり検察が無期懲役を求刑し、そこを出発点に減刑が必要かどうかを裁判員と裁判官が話し合うほうが、はるかに自由闊達な議論になったでしょう。非常に厳しい言い方をすれば、検察が無期懲役を求刑しなかったことにより、裁判員裁判の根本精神や目的が歪められてしまったのではないか、と懸念します」(同・若狭弁護士)

検察の萎縮

 一般的な感覚からすると、やはり腰の引けた求刑になってしまった感は否めない。若狭弁護士は「現場の検察官が萎縮している可能性を心配しています」と言う。

「検察の取り調べが可視化されたことをきっかけとして、問題のある取り調べが明らかになり、検察への批判が集中しています。批判自体は当然ですし、昔は問題のある取り調べが行われていたのも事実です。その一方で、現場の検察官が批判を受けて必要以上に萎縮し、かつてほど事件の真相解明に全力を注げなくなっているのではないでしょうか。時間をかけて被疑者を入念に取り調べ、真相解明を目指すことが検察官にとって、ある種のリスクになってしまっている。無理せず、今ある証拠だけで手堅く有罪判決を勝ち取るほうが合理的であり、検察に対する批判を回避できるわけです。今回の裁判で検察の捜査能力が低下している可能性が浮上したと考えられ、私は強く憂慮しています」

 残忍極まりない犯行に手を染めた内田被告。関連記事「「母親は、梨瑚を甘やかしすぎた」 内田被告の素顔と家庭環境を知人が明かす【旭川女子高生殺害】」では彼女の驚くべき生い立ちに迫っている。

デイリー新潮編集部